閑散とした劇場で見た秀作・快作「淪落の人」「Fukushima50」「初恋」

コロナウイルス対策のため、休館になった映画館もあれば、席を一つ空けて座るようにした映画館もある。新宿のある映画館は、入場の際にサーモグラフィー(赤外線カメラ)で観客の体温を測定していた!

実際、私も、都心の映画館に行く回数が半減した。今回は、そんな中、観客の少ない小屋で見た秀作・傑作を紹介したい。

まず、3月1日(日)に見た香港映画「淪落の人」
事故で肩から下が動かず車椅子生活を送る初老の男性が暮らす、広くはない共同住宅に年齢30ほどのフィリピン女性が住み込みヘルパーとしてやって来る。男性は気難しくヘルパーを見下しており、最初は言葉も通じ合わないが、ヘルパーは段々と広東語を学んでいき、男性も英語を学んで使い始め、少しずつ人間的なコミュニケーションが始まる。

実はヘルパーには写真の勉強をしたい夢があり、それを理解した男性は応援してゆく……という心温まる作品である。
まあ、現実にはここまで心の交流が上手く行かないだろうと思う点もあるが、監督自らが書いた脚本に惚れ込み、ノーギャラで出演している香港の名優アンソニー・フォンとヘルパーのクリセリ・コンサンジの息の合った演技がとてもいい。

出色なのは、フィリピンから香港に来ている年齢が様々なヘルパー女性が何度も街で集まり(段ボールの囲いで囲まれた外のスペースの時もある)、自分の家庭の様子など情報を交換して本音を語り合うシーンだ。時にはお化粧をして「女子会」まで開く。この生き生きとした彼女たちの描写には感心した。

2本目は3月8日(日)に見た「Fukushima50」だ。「3.11」直前の日曜なのでもっと沢山客が入っているかと思ったが、広い劇場に20人位しかいなくとても残念に思った次第。
タイトルから分かるように、2011年3月11日、大地震と大津波に襲われた福島原発がコントロール不能になった時、現場に残って対応した吉田昌郎所長以下50名ほどの活躍をリアルに描いた力作である。

彼らは未曽有の状況の中、ベントを行うために、防護服を着て手作業でバルブを回す。それは訓練になかったことである。現場、政府、東電本社を上手く描いてあり、臨場感がある。
人物としては吉田所長を演じた渡辺謙は入魂の演技をしている。また、自ら航空機に乗り現場の視察に行き(時間がない時に、しかも素人が、だ)、ベントを遅らせる首相を演じた佐野史郎のテンション高い演技も見ものだ。

この映画を否定する人も多い。原発そのものへの批判の視点がないとか、「美談」として描いているだけだ、というものである。それは的外れだと思う。
「美談」でなく、人として、事故の現場に携わるものとして、残ると決意した人が取った行動の事実を描くのが目的の映画であり、それは十分に成功している。
現場の人物の家族の物語(例えば佐藤浩市の家族)を少し作りすぎていること、ラストの音楽が派手すぎるという欠点もあるが、娯楽映画としてそれは許容される範囲だ。

好きな映画をもう一本!3本目は3月10日(火)に見た「初恋」だ。この映画に至っては、6名しか客がいなかった。これはびっくりするくらいに面白い快作なのに。

チラシからは予想付かないが、バイオレンス映画と恋愛小説を上手く融合させた映画だ。脳腫瘍と診断された若いボクサーが、新宿のヤクザや中国マフィアの「シャブ強奪争い」に巻き込まれてしまい、薬漬けになっていた若い女の子を連れて逃げる一夜のドラマだ。
脚本も良く練られているが、登場人物全員、見事にキャラが立っていて実に面白い。とりわけ、ヤクザの情婦のベッキー。長い足でガンガン床に転がった男の顔を蹴りつけ、夜の街を鉄パイプを持って裸足で走って、相手に襲い掛かる。スゲー。それから、ヤクザの染谷將太。クールな顔してドンドン人殺しを続けていく。面白すぎる。(念のため。陰惨な感じはない。基本劇画タッチだからだ)。
しかし、ラストは、次第に若い二人のラブストーリーの抒情がせり上がって来るのがいい。ラストのショットは忘れられないロングショット。

(by 新村豊三)

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