ソウルの西のはずれにKOFA(韓国映像資料院)がある。
日本のフイルムセンターに相当するが、3つのスクリーンだけでなく、博物館や資料室がある。その資料室には、韓国映画のDVD,ビデオ、あるいはデジタル化されたコンテンツ(つまり、フイルムからPC鑑賞用に変換したソフト)が多数揃っており、希望者は自由に、しかも無料で、個人用ブースで視聴することが出来る。
これは、自国の映画文化を大事にしたい、あるいは、輸出の為の有力な産業をバックアップしたいという国の方針によるものだろう。
私もソウルに行く度、ここに通っている。定宿とする安い旅館のある新村という学生街からバスに乗れば20分で着く。50回は足を運んだと思う。
ディープな韓国映画ファンにとってここほど有難いところはないだろう。何せ、日本ではちょっと見られない韓国映画の歴史的名作、傑作がぞろりと揃っており、「宝の山」があると言っても過言ではない。
さて、前置きが長くなった。巣ごもり生活で発見したのだが、このKOFA(韓国映像資料院)が、YouTubeに、90年代までの韓国映画の名作をアップしているのだ。
200本前後あるようだが、さすがKOFAが選定した映画だけにどれもとても面白い。有難いことに英語の字幕が付いている(一部日本語の字幕も付く)。
巣ごもりを利用して、30本見た。今回は2本を紹介したい。
まず、キム・ギヨン監督の「玄界灘は知っている」。
実は2月に東京では、韓国映画界の怪物と言われるキム・ギヨン監督の特集上映が行われたが、その中の一本がこれ。一般に「下女」が監督の最高作と言われるが、正直私はそれほど買わない(まあ、映画って好みだから)。「玄界灘は知っている」の、呆然とするラストの異様な盛り上がりは他に類を見ない。
太平洋戦争末期、主人公の朝鮮人兵士(日本人の恋人がいる)が、名古屋での駐屯中、上官の日本人に虐め抜かれる。正直、日本人として見ていて辛い。
しかし、この監督、恐らく、「抗日」という政治的なテーマを超越して、観客の度肝を抜く、映画でしか表現できぬ強烈なシーンをクライマックスで作り上げている(再見すると、そういうシーンも、舌なめずりしながら作っているような気配がある)。
B29による空襲を受け、街は火に包まれ、主人公を含めて人々は逃げ惑い、焼け死ぬ者が続出。空襲の翌日、軍は空襲の事実を隠すために(!)積み上げた無数の遺体に石油をかけて火を点ける。地獄図絵の如き、まことに容赦ない、圧倒される映像。それだけでも凄いが、その遺体の中にいた主人公はまだ生きていて…。異様そのものだが、生の執念、愛の執念も炙り出されるようだ。
さて、好きな韓国映画をもう一本。今度は、人間の善性が感じられる1987年の「神さまこんにちは」。
80年代当初から、韓国ニューシネマと呼ばれる、人間や社会を生き生きと描く一群の傑作が登場したが、その一翼を担ったペ・チャンホ監督の作品。
ソウルに住む脳性マヒを持った若者が、どうしても慶州(奈良・京都に相当する地方都市)にある、世界初の天文台を訪れたくなり、野球帽を被って、ある日、一人家を出る。
彼を演じたのが、今、国民俳優と呼ばれる、若かりしアン・ソンギ(人格高潔な紳士、大好きな人で、兄貴と呼びたい位)。
若者は言葉を明瞭に発せられないし、足も擦るようにして進む。その彼が道々出会うのが、中年の売れない詩人と若い妊婦であり、三人そろってバスで慶州を目指す。三人は貧しく所持金は少ない。
助け合ったり、喧嘩別れしたり、農家の小屋での出産があったりする。いつしか、目が離せなくなる。ラストは、敢えて書かないが、25年前初めて見た時は、感動で体が震えた程。
話は突然変わるが、以前、中学生同士が殺し合う「バトルロワイヤル」という映画があった。その原作者の高見広春氏の生涯のベストワンがこの映画であった。残酷な話を作っても、心の奥底では、性善説を信じているということだろう。
意外だが、何だか、納得できるような気がした。
このように、YouTubeで貴重な映画が見られることを知ったのなら、コロナも少しは許そうか、と思ったりする。
(by 新村豊三)
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