今、私の周りの映画好き・ドラマ好きの女性の間で韓国ドラマ「愛の不時着」が大評判になっている。以前から韓国ドラマ・映画が好きだった人に加えて、これまで殆ど見てこなかった人もその面白さにハマってしまっている。
今回は、劇場公開の映画ではないが、韓国のケーブルテレビで放映され現在ネットフリックスで配信されているこの作品を取り上げたい。
作品の作りは「テレビドラマ」的でなく、撮り方も演出も「映画」と変わらない。例えば、見事な俯瞰のショットがあるし、トラックやバイクが疾走するアクションシーンも「映画的」だ。
私も16・7年前、韓流ブームを生むきっかけとなったヨン様ことペ・ヨンジュンとチェ・ジウが主役だった「冬のソナタ」を見た。それなりに面白いがやたらと長く、二人、早く、くっ付くなり別れるなりしてよ、とじれったく思った記憶がある。
ところが、この「愛の不時着」は毎回ドラマに引きずり込まれ、16話を一気に5日で見たが(3日でご覧になった70代のツワモノ女性もいる!)、もう2・3回見直してもいいと思う。巣ごもりの作品として最高であった。実は、見終わった日の翌日は何だか空虚感と寂しさを感じてしまい、ああこれが俗に言う「ロス」感覚かと初めて知った次第だ。
さて、前置きが長くなった。どんなドラマかというと、韓国の財閥の令嬢がパラグライダーに乗っている時に強風に流されて、北朝鮮と韓国を分かつ38度線を越えて北に入ってしまい、そこで、北の政府高官の息子(軍隊の中隊長)と知り合い二人恋に落ちるという、言わば現代版「ロミオとジュリエット」である。
いや、荒唐無稽な話と笑うことなかれ。これが、面白いのだ!
話を少しだけ書くと、前半は北を舞台に描かれ、後半は南の韓国が話の中心になる。サイドストーリーとして、主人公の二人に絡む一組の男女の話がある(これがまた面白い)。北朝鮮の村のおばさんたちや軍人の小隊のメンバーたち、韓国はヒロインの欲望むき出しの家族たちなど、魅力的で個性的な人物が登場して、見事に絡まり合う。
この何十年映画やドラマを見てきたが、その最高峰のストーリーと呼ぶのに躊躇しない。この25年、映画を見たり韓国で暮らしたりして蓄積された韓国や北朝鮮の知識もある。そんな眼で見て、この作品は凄い。
まず脚本が天才的。全体の構想力、伏線のはり方、人物の描き分け、会話の妙味が素晴らしい。ドラマがドラマを生むストーリーと演出の緩急のつけ方はこれまで見たことがない。緊張するシーンが展開するかと思うと、大いに笑い和み、そして胸がキュンとなる箇所が続くのである。
加えて、北の人々の生活の仕方や人物が実に人間味豊かに生き生きと描かれているのがいい。興味深いだけでなく、村のおばさんたち、小隊の若い軍人グループのメンバーの言動を見ていると、いつしか親近感や愛おしさを抱いてくるようになる。
北の村では頻繁に停電が起きる。お風呂もお湯が出る訳でなく練炭などを燃やして沸かして入る。私の様に、昭和30年代に少年時代を送った者には、そういう停電やお湯の出ない生活がとても懐かしい。
「作り手」は、北は近代化が遅れているという「上からの視線」を取っていない。貧しく質素な生活だが、その営みには手作りの暖かさがある、と言っているようだ。
さて、今回は「映画」に触れる余裕がなくなった。次回、もう一回このドラマについて書かせてもらいたい。まあ全16話、およそ24時間の作品だから、沢山言いたくなる気持ちを分かってもらえたらと思う。
一つだけ、映画関連の話をすると、この作品は今年公開の大傑作「パラサイト」にもある部分で関係しているのだ。私は、知人に教えてもらうまで分からなかった。心底驚いた。アイゴー! ヒントだが、「北」の中年の役者二人に注目してほしい。
主役二人について書けなかった。元気なだけでなく悲しみも抱えているヒロインをソン・イェジンが熱演。それから、北の恋人ヒョンビン。カッコいい! 男性の私がそう思うのだから、世の女性たちが魅力の虜になるのも蓋し自然な現象だろう。ヨン様を超えるだろう。比較にならぬ。
(by 新村豊三)
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