コロナ下では旅行に行けず、映画で異国の風景が見たくなる。そんな単純な理由で、あまり期待しないで見に行ったフィンランド映画「世界で一番しあわせな食堂」が面白くて大満足。見て本当に良かった。
フィンランド映画と言えば、「浮き雲」「希望のかなた」等を撮ったアキ・カウリスマキが代表監督だが、この映画は兄であるミカ・カウリスマキが監督をしている。
原題は「チェン巨匠」だ。フィンランドの田舎町に来た中国人料理人チェンと彼が出会う様々な人を描く映画であり、邦題の「世界で一番しあわせな食堂」は、この映画のテーマの半分しか伝えていない。
人を探して上海からやって来たチェンと彼の息子は田舎のある食堂に入るが、成り行きでこの店を手伝うことになる。グローバル化が進んでいるのだろう、何と中国の観光客が来るので、チェンが中華料理を作ると美味しいと評判になり、地元の人も沢山やってくることになる。段々と、この親子の事情が、そして食堂の30代の女主人の事情が分かってくる。まあ定番かもしれないが、ラブストーリーの要素も入ってくるユニークな話がなかなかいい(ラストはドキドキする展開となった)。
加えて、これぞフィンランドと言いたい大自然の風景や生活が魅力的に描かれる。自然の風景を捉えた撮影が本当に美しい。神秘さを持つ湖や森がいいし、車道に出てくるトナカイにも驚く。白夜も描かれるし、サウナに入り火照った体を冷やすため湖に飛び込むシーンも出て来る。見ながら、本場のフィンランドに行ってサウナと湖に入る経験をしてみたいと思った。風景を見るだけでも映画を見る価値がある。
フィンランドの良さだけでなく、中国の魅力が出ているのも好きだ。美味しそうな中国料理、そして薬膳、主人公の人柄の良さも相まって、中国が好ましい印象を与える(彼が持つ、薬味と大きな料理包丁が入った箱が魅力的だ)。彼が、なぜフィンランドの片田舎にやって来たのかも、素直に理解できる。映画では、中国語も使われて、時々フィンランド映画であることを忘れそうになる。(因みに、チェンと女主人は英語で意思疎通を図る)。
チェンの料理を食べて健康になってゆく、食堂の常連である地元の爺さんたちもなかなかいい。人間くさいし、存在感が抜群。
好きな映画をもう一本!
フィンランドが舞台の、食事がテーマの映画と言えば、すぐに2006年の日本映画「かもめ食堂」を思い出す。これは、首都ヘルシンキで「かもめ食堂」という名の食堂を営んでいるサチエ(小林聡美)の周辺に起こる物語である。決して、食堂を始めて苦労して店を繁盛させて行くといったサクセスストーリーではない。なごみを与えてくれる小品と言えばいいだろうか。
日本食を出す店を目指してオープンしたが、なかなか客は入ってこない。最初の客は日本文化ファンの若い男の子で、赤塚不二夫のニャロメの絵のTシャツを着ている。サチエは日本人の旅行客のミドリ(片桐はいり)やマサコ(もたいまさこ)と知り合い、二人が店を手伝うようになる。
まあ、最後は段々と沢山の客が来るようになるのだが、ゆったりと映画は進み、特にドラマティックなことが起きるわけではない。しかし、何故か中々面白いのだ。
フードアドバイザーがついており、出て来る料理(シナモンロールや、鮭の塩焼きやおにぎりなど)がとても美味しく見える。
フィンランド人も軽く、穏やかに生きているようである(しかし、それなりに悲しみもあるが)。
小林聡美、片桐はいり、もたいまさこの演技のアンサンブルがいい。特に、旅行の荷物が手違いでなかなか届かないもたいまさこの、とぼけたような、現実離れしたような、人生を達観したような言動には笑いが出てしまう。
ラストに流れる井上陽水の歌「クレイジーラブ」も好きだ。手元にある本によれば、この映画を観て、ヘルシンキに憧れ、かの地に飛び、まだ残っている撮影に使われたこの食堂を訪ねる日本人の観光客も多いそうだ。私も、小林聡美が何回か泳ぐプールに行ってゆったりと泳いでみたいと言う願望も生まれてしまった。
初めて見た時は、なぜ小林聡美があそこにいるのかその事情が知らされないことに若干の不満があったが、再見したら、あまり気にならなかった。何故だろう。15年が経って、外国に出て行って仕事をする人が増えたからだろうか。
(by 新村豊三)