今年は例年以上に新作の洋画が面白いと思う。今回はお勧めしたい3本の洋画(タイ映画、フランス映画、アメリカ映画)を紹介したい。
まず、タイ映画の「プアン/友だちと呼ばせて」。邦題の「プアン」はタイ語で、意味は友だちだ。監督は3年前、高校生の集団カンニングを描いた「バッド・ジーニアス」という作品を撮っている。2020年9月30日の回で紹介しているが、スケール大きくカンニングを行う仰天するような話をまことに鮮やかな演出で描いた快作だった。香港の名監督ウォン・カーワイにその手腕を見こまれて撮ったのがこの作品である。
NYでバーを営むボスは、タイに暮らす、白血病に掛かり余命が長くない友人ウードの依頼を受け、タイに戻ってきて、車の運転をしながら、一緒にウードの3人の元カノに会いに行くことになる。
俳優などになっている元カノと会う前半部分は平板でまあ大したことがないのだが、後半は舞台がNYとなり、打って変わって驚くほど面白く切ない展開になる。
主役の二人の男性に加えて、アメリカで一流のバーテンダーを目指すタイ人の女の子が登場し、この3人の関係が次第に明らかにされていく。途中から、ええっこれ面白いぞと、姿勢を正してスクリーンに見入っていった。
ボスは母親が大金持ちと再婚し裕福になっているが、他の二人はそうではない。そのため、陰影の濃いドラマが生まれている。愛と裏切り。妬みと好意。絶望と希望。3人の気持が痛いほど伝わってきて、エモーショナルな気分になった。
それがまた、自在でスタイリッシュな映像で描かれるのだ。その映像はずいぶん目まぐるしいが嫌味はない。
劇中流れる90年代(?)のカセットテープの唄も懐かしくていい。10年前と現在を演じわける若者二人がとてもいい。
次は、フランス映画「アプローズ アプローズ 囚人たちの大舞台」。スウェーデンの実話に基づく。あまり売れない俳優が刑務所で囚人と演劇を始める。そういう話、以前もあったなあと思いながら見始めたが、この映画はひねりが効いていて、既存の映画の一歩先を行っているところがいい。
ひねりは二つあり、まず、囚人たちが「ゴドーを待ちながら」を演ずるのだが、演技が下手でも、自分たちこそ、刑務所の中で「待つだけの存在」であるから一番役を理解できると解釈して稽古を始めることである。囚人たちの演劇の練習風景はカメラもミディアムで人物を捉え、我々がそこで見ているようだ。
もう一つは、ここが映画の肝だから書くことは控えるが、驚きのラストである。ちょっと気の毒だなあという気持ちも抱いた。まあ、こういう複雑なところが人間だよなあ。
因みに、演技を指導する俳優を演じたカド・メラッドは、2014年の「コーラス」という映画で、戦後、問題児や孤児のいる寄宿舎で歌の指導をしていく音楽教師を演じている。この作品も佳作。
好きな映画をもう一本! アメリカ映画「ブレット・トレイン」が、ぶっ飛ぶくらいに面白い大快作。ブレット・トレインとは「弾丸列車」、すなわち新幹線のことで、原作は伊坂幸太郎。これをハリウッドが映画化したのである。
コードネームレディバグ(ブラッド・ピット)が、ブリーフケースを盗むため、東京発京都行の新幹線「ゆかり」(ひかりのパクリ?)に乗り込む。ところが次々に殺し屋が乗り込んできて、一筋縄ではいかない展開になっていく。
正直、最初は多彩な人物が入り乱れ、よく話が分からなかったのだが、終点の京都駅に着いてからがスゴい。京都駅から列車が暴走するところから、これぞ怒涛の展開となっていく。B級活劇の面白さの極み!
孫の復讐を果たしたいエルダー(真田広之)と、ロシアから来てヤクザの組長になっていた「白い死神」とその一味の因縁の対決となる。真田と鬼の面をかぶった連中とのチャンバラアクションも迫力ある。真田は居合刀を使い、勝新太郎が演じた座頭市を彷彿とさせる。
弾丸列車の暴走の描写も素晴らしいが、レモンという名の太っちょ黒人が列車から飛び出て川に落ちるのもいい(敢えて書かぬが、彼のその後の「功績」も面白い)。
ブラピは演技が上手いし、列車の運転で慌てるところも可笑しい。美術も最高。昔、流行った、カルメン・マキの「時には母のない子のように」、「上を向いて歩こう」などの日本の歌の使い方もサイコーだ。
(by 新村豊三)