日・米・仏の、もがくヒロインの映画「遠いところ」「To Leslie トゥ・レスリー」「サントメール ある被告」

日本、米国、フランスの、内容こそ違え、もがき苦しむ人間的なヒロインが描かれ、感動をもたらす映画を紹介したい。

まず、日本映画の「遠いところ」。貧困の沖縄で、わずか17歳なのに、小さな子がいて夜の仕事をしている女の子の話だ。

監督:工藤将亮 出演:花瀬琴音 石田夢実 佐久間祥朗ほか

監督:工藤将亮 出演:花瀬琴音 石田夢実 佐久間祥朗ほか

キャバクラで働くヒロインのアオイ(花瀬琴音)の若い夫はちゃんと仕事をしない上に、傷害事件を起こして示談金が必要になってくる。周りの大人たちも援助しない、出来ない。この種の類型的な話かと思いつつも、花瀬琴音の演技がいいし、演出もよくて、段々映画に惹きつけられていく。終盤は感情移入しながら見たほどだ。

クズばかり登場し、アンタらが悪いんじゃないのと思っていたが、実はヒロインは男の犠牲になっていないかと思えてきた。
アオイは肉体を売ることになるが、その客たるや言葉の通じぬ外国人もいて言葉を失う。しかし、その生々しくもリアルな演出がいい。これは映画でしか表現できないだろう。敢えて書かぬが、自分にとって大事なものを奪還して海に入るラストシーン、思わず、画面に向かって「死ぬなよー」と声を上げたくなった。それくらい心が揺さぶられる。
アオイが赤い服を着て裸足で夜の街を走るシーンの横移動の撮影、引いた画面でアオイを捉えながらゆるやかに引いていくカメラも印象的。
沖縄映画もずいぶん見て来た。好きな映画の一本に「ナビィの恋」(1999)という祝祭的映画があるが、この映画の中のおばあちゃんの口癖「なんくるないさー」(気にしないでいい)では済まされない複雑で深刻な現実だ。この深刻さ・リアルさは、イギリスの監督ケン・ローチ的というかベルギーの監督ダルデンテ兄弟的というべきか。私もどうしたらいいか分からない。ともかくヒロインの苦しさを受け止めたい。
この女優さん、初めて見たが、昨年の岸井ゆきの(「ケイコ 目を澄ませて」)に匹敵する存在感と演技力であり、その名を覚えておきたい。

監督:マイケル・モリス 出演:アンドレア・ライズボロー アンドレ・ロヨ オーウェン・ティーグ他

監督:マイケル・モリス 出演:アンドレア・ライズボロー アンドレ・ロヨ オーウェン・ティーグ他

次はアメリカ映画「To Leslie トゥ・レスリー」。レスリーは若い頃宝くじに当たり大金を得たものの、飲んで金を使い果たし、今は、離婚し一人息子にも嫌われている酒浸り中年女。主役を演じたアンドレア・ライズボローは成りきり演技を絶賛されアカデミー主演女優賞候補。雰囲気は、沢尻エリカや「きもちくしてくれて」と書いて離婚する広末涼子が年取ったらこうなるだろう感じだ。

この映画、最初嫌いだったのに、何だか後半面白くなっていく。話も良くなっていくし、登場人物の存在感、リアルさが生半可ではない。ラスト近くのある展開には、登場人物たちに感情移入して、思わずちょっと泣いちゃう位だった。
舞台はプアホワイトの住むテキサス。今年観た大好きなインディー映画「レッドロケット」と「対」になっているように思える。ソウルフルな歌もいい。To Leslieって「レスリーに乾杯」の意味があろう。レスリーは人生を祝福されるのだ。

監督:アリス・ディオップ 出演:カイジ・カガメ ガスラジー・マランダ バレリー・ドレビル他

監督:アリス・ディオップ 出演:カイジ・カガメ ガスラジー・マランダ バレリー・ドレビル他

好きな映画をもう一本! フランス映画「サントメール ある被告」は、生まれて18か月の自分の赤ちゃんを死に至らしめた23歳のセネガル系女の子の裁判を描く。実話だそうだ。映画は、同じセネガル系の女性作家ラマが裁判を傍聴する構成。

上映時間120分ほどのうち、100分はそれほど面白くない。ヒロインの被告は表情に乏しく、裁判官たちの質問にも肝心なところは「分からない」を連発するので、何が真実なのか分からず少しイライラするところもある。しかし、滅多にないことだが、最後の20分が見事に素晴らしい。
ラスト近く、ラマが滞在先のホテルで、イタリアのパゾリーニ監督の「王女メディア」という映画を見るところから急に惹きつけられる。裁判の最後に彼女の中年弁護士が述べる言葉が真に素晴らしく、この被告の人物の言動に納得がいく思いがした。弁護士の言葉は、これまで聞いたことも考えたこともない、でも、そうかもしれない、目からウロコの言葉だった。細かいところは覚えていないが、「妊娠している女性は、お腹の赤ちゃんの細胞と一緒になり、「キメラ」のように、人間的怪物に成るのです」云々であった。

ラストに流れる唄の歌詞も示唆に富んだ。つまりはこの映画はフェミニズム映画だ。正直に告白すると、私はヒロインの載るチラシにあまり惹かれなかった。これこそ、自らの、アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)であったと、見終わって気づいた。

(by 新村豊三)

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