最近選挙関係のドキュメント3作品を見たがどれも面白い。まず、1月公開の「映画○月○日、区長になる女。」(「マルガツ マルニチ」と読む)。最高に面白く心が爽快になった。
東京23区の1つ、人口67万(東京6位)の杉並区の2022年の区長選に請われて立候補した、なんとベルギーから帰ったばかりの、元NPO職員47歳の女性候補者岸本聡子の選挙活動を追う映画だ。
彼女が選挙で訴えたのは、突然、現区長が住民に立ち退きを迫った道路建設案への反対。この映画がユニークなのは、監督自身が杉並に住んでおり、道路建設で自分の住まいも無くなってしまうので、カメラに撮って、動画にして映像を拡げることで選挙活動を応援しようという発想で始めたこと。つまり、目線が低いのだ。ペヤンヌマキという名の女性監督は(元々演劇をやっている方)、岸本氏に密着してその活動を撮りながら、岸本氏や周りの支持者も中々やるなあと感心していったのではないか。
ご年配の生活感を持った支持者たちが多く映画に出てくるのがいい。道路建設反対パレードにはなんと90歳のおばあちゃんが出て歩くのだ。歌の上手い中年女性は、応援の曲を作曲する(可愛くユルく、いい歌だ)。また、選挙期間中、一人で応援の主張をしていいとは知らなかった。何人か、素人で普通の中年女性が「のぼり」を持って道行く人に話しかける姿には驚いた。
映画はラスト、当選か落選か最後の選挙結果が出るところがとてもいいし、ケレンある赤いタイトルが出るのもいい。その後の、颯爽としてママチャリに乗って(!)初登庁する姿、そして議会での自民男性議員のイヤミ無礼演説、それを受けたエピローグがすごい!選挙活動を手伝った素人の区民が立候補して15名区会議員に当選するのだ。これぞ、爽快感!
2年前の映画「香川一区」は、相手の自民候補は一族が新聞社などを持つ権力者だが、おのが身一つで自転車を漕ぎ、家族が協力し、市民と対等に話をして支持者を獲得していく小川淳也氏の、言わばドン・キホーテ的浪花節的熱い努力を描いたが、この映画は、都会に暮らす普通のみんなが、連帯しあい、普段着で、笑いと歌とで、柔らかな努力をしていく様子を描いている。どちらも日本に無かったものだ。日本にこの両面が増えていけば、我々も、この腐ったよどんだ政治を少しずつでも変えていけるかもしれん。そんな希望さえ持つ。
「No選挙、No Life」は昨年11月の公開で、フリーの選挙ジャーナリスト畠山理仁(みちよし)の活動を追った面白ドキュメントだ。
彼は全国の大きな選挙を取材しているが、この映画は、まず、2022年東京都の参議院選の立候補者全員にアプローチする様子が描かれる。愛すべき人物で、かつ愚かさを持っている人たちが多いのだ。
畠山氏は34人全員にインタビューをするが、全くもってユニークな人がいる!「私は超能力があるんです」と真顔で言ったり、バレエ大好き党があったり。また、これは感心したのだが、若い女性が、クラファンで供託金(300万)を集め立候補し、国会議事堂前で議員に向かって演説する(知らなかったが、立候補者でないと国会議事堂前で演説できないそうだ)。
時あたかも安部元首相が暗殺された直後で、自民党の候補者もショックを受けた様子が映る。NHK党では、ガーシーが当選する様子が描かれる。見事な時代の記録になりえている。
沖縄の知事選を描くパートでは、沖縄のユルさがいい。違法なのだが、個人が勝手に、候補者の応援演説を、路上に立って行うのだ。これだけがアメリカがもたらした良い所だと、その路上応援をするおばちゃんが言っていた。
好きな映画をもう一本。
時事芸人のプチ鹿島と東大中退片目のラッパーであるダースレイダーが、2022年衆院選の話題の選挙区に入り突撃取材を進める姿を描く「劇場版センキョナンデス」も面白い。
先述の香川一区に入り、自民候補の平井卓也氏の母体である「四国新聞」の本社に出かけて行く件が面白い。新聞は小川淳也の批判を書くのだが、本人に事実確認を取っておらず報道機関としてはファアでない。本社でそのことを聞こうとして、拒否されるが、プチ鹿島が中々の人物で、ひょいと自分のペースに持ち込んでいく姿に感心した。
大阪では、取材に応じる自民の松川るい(あのエッフェル塔写真のおばさん)や、立民の辻本清美はキャラが立って面白い。
(by 新村豊三)