酷暑の8月、新宿で新作アニメを2本続けて見た(アニメを2本続けて見たのは、遥か36年前の1988年、「となりのトトロ」「火垂るの墓」の同時上映以来)。
その2本の「化け猫あんずちゃん」と「ルックバック」だが、両方とも面白く、特に前者は傑作で、愛すべき大好きな作品。
まずは「化け猫あんずちゃん」。原作は漫画で、監督は劇映画の俊英山下敦弘(「天然コケッコー」「ハード・コア」等)と新鋭久野遥子。
「トトロ」の昭和30年代でなく、現代の話である。11歳の少女かりんが、父に連れられて伊豆のお寺に来るが、父が借金返済で東京に帰ってしまい、一人お寺に居候することになる(母親は3年前に病死している)。
すると、そこに、ニャンとも不思議な、年齢37歳で人間の言葉をしゃべりガラケーを首から掛けバイクに乗る化け猫のあんずちゃん(オス)が登場する。彼は、お寺でお坊さんと一緒に暮らしているのだ。按摩をしたりして生活費はそこそこ稼いでいる。
シンプルな絵で、全体にほわっとした雰囲気がある。脚本がいまおかしんじなので、彼の作品の雰囲気に似て、全体がゆるくノンビリしていてそこはかとないユーモアも漂う。尚、いまおかは監督でもあり、2020年の「れいこいるか」が秀作。
全体のストーリーは少女かりんと、この不思議な化け猫のひと夏の交流と冒険である。牧歌的田舎を舞台にした前半も悪くないなと思って見ていると、後半は、リアルな現代の東京に舞台が変わり、さても独創的で摩訶不思議な展開になっていく!
母親の命日なので母親に会いたいというので、何と貧乏神がかりんとあんずちゃんを異界、すなわち地獄へ連れて行くのである。また、その異界の入り口が変わっていて驚くのだが(それは特に秘す)。そこからの展開には、いい大人が心奪われてしまう。何なんだ、この面白さはと思う。
このあんずちゃんは、トトロと、アメリカ映画の「TED」を思い出させる。「TED」とは、酒も飲み下品なことも言うチョイワルのぬいぐるみ。あんずちゃんはそんなことはないが、人前でおならをするなどユーモアもある。
何をやっても上手くいかないあんずちゃんの友達も、ちょっとぼおっとした小学生や、脱力の貧乏神も登場する。このキャラクターたちの表情がいいのである。動きも結構リアル。その理由は、まず、山下監督が実写で撮って、それを基に久野監督がアニメ化したからだろう。私も初めて知ったがロトスコープと言うそうだ。
アニメだがアフレコの声優はいない。すなわち、声は、実写を撮った時に同時に録音したものを使っているのである。あんずちゃんが森山未來、貧乏神が水澤紳吾(容貌や声には往年の俳優左卜全を思い出してしまった)。この貧乏神のキャラも面白い。おいぼれで冴えなく、唇が前に突き出ていて、ふんどし一丁の格好だ。
これは子供も大人も楽しめる作品だと思う。ここまで、想像力と創造力を発揮したスタッフに敬意を表したい。
好きな映画をもう一本!「ルックバック」は、わずか58分の中編アニメだ。「化け猫」とはうって変わって、直球の真摯なアニメだ。雪が降り積もる北国の山形県に住む漫画家を目指す二人の少女の物語だ。小学生の藤野は学級新聞の4コマ漫画を描くのが好き。ずっと家に引きこもっている京本に、卒業証書を届けたことが切っ掛けで二人は仲良くなる。意外や、京本も背景画を描くことに優れている。
二人で出版社に漫画の投稿を続けると雑誌の連載が決まり、藤野は一人上京して漫画を描き続ける。京本は、地元の美大に進むことになる。
漫画の連載は好評で次々に単行本となる。と、ある日、藤野はテレビで衝撃的なニュースを聞くことになる……事件は、数年前に京都で起きたある事件を思い出させた。終盤、藤野が京本の部屋の前で考えることは、痛いほど分かる気がした。
映画を見て思うのは、色々な事が起こりつつも「人生は続く」ということだ。よき思い出も辛い思い出も胸に刻みながら、生き続けねばならない。藤野が自分の部屋で、窓に向かい、椅子に座り、右肩上がりで漫画を描く姿が印象的。
藤野の声を担当しているのは、近く、詳しく紹介したいブレイク中の女優河合優美、京本の声の担当は吉田美月喜である。
この映画、何故か一律料金1700円であるが、劇場は多くの観客が詰めかけていた。元々は、雑誌「ジャンプ+」に掲載された読み切り漫画。
(by 新村豊三)