さる12月14日(土)、練馬区のある男子中学高校で「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」を上映し、監督・俳優を呼んで観客とトークをする「映画教室」が開かれた。参加者は生徒40名、親40名、その他で約130名。
「青春ジャック」は3/10の回で紹介した脚本家・監督井上淳一氏の傑作。1980年代初頭、映画に関わる者たちを描いた群像劇。高校生にも見せたいという監督の希望と、「映画作り」の過程や魅力を多くの人に知ってもらいたいという映画好き教員の願いが一致したものだ。
ゲストは井上監督、俳優の芋生悠、杉田雷鱗。そして、井上監督の師匠とも言うべき脚本家・監督の荒井晴彦。彼は、一般参加者として観客席にいたのだが、途中、監督の呼びかけに応じて飛び入りで登壇し、一緒にトークをし、観客の感想を聞き質問に答えた。映画ファンからすると、これは贅沢かつゴージャスな時間でした。
観客からの質問タイムを入れて1時間半のトークだったが、面白い話が聞けた。次に幾つか列挙する。
〇芋生悠が演じた金本役のキャスティングと「37セカンズ」
井上監督は、「37セカンズ」(2020年)で芋生悠を見て、この「青春ジャック」の若い在日の金本法子の配役を決めた、と言う。
「37セカンズ」(2019/9/30と2020/2/20の回で紹介)はこの10年で私が一番好きな秀作。主人公がタイで双子の姉ユマと初めて会うシーンがあるが、姉を演じた芋生によれば、新人監督HIKARIはリテークを30回繰り返したそうだ。芋生が、双子であっても障がい者なので怖かったとユマに告白し、車椅子で去っていく彼女に深々と頭を下げるシーンだ。私もこのワンショットで芋生が好きになったのだが、井上監督と感じ方が同じだと嬉しくなった。
大阪出身、アメリカ在住のHIKARI監督のねばりもスゴイと思う。
〇映画の中に在日の問題が描かれるが、「社会性」をどう盛り込むかという質問。
井上監督は、金本を入れたのは、高校の頃、自分の周りに在日の人がいっぱいいたのに関心を持たなかった、その贖罪ですと答えた。芋生は、尊敬する人から政治にも関心を持たねばならないと言われ勉強を始め、KPOPと政治の話題で監督とLINEをしあっている、と。失礼ながら、大変驚き嬉しくもなった。(因みに、小泉今日子の事務所に所属)
〇自分の性格とかなり違うキャラの役を演じる時はどうするか、という高校生からの質問に
芋生は、撮影に入る前に、徹底的にシナリオを読み込み役になりきろうとするので、撮影現場では違和感はない。杉田は、演じる時は、相手のリアクションを考えながら演じるという答えだった。
〇脚本を書くという高2の生徒からの、「脚本を書いていて、よく詰まってしまうが、脚本はどうやって書きますか?」という質問に。
荒井晴彦が、ファーストシーンとラストシーンが決まっている。ファーストシーンから、そこに向けて書いていく。よく言われる、役が頭に「降りてきて」、台詞がスラスラ書けるということはない、と答えた。普段はクールな彼が、優しく答えるのである。
〇一番好きな映画は何ですか、という生徒の問いに
井上が「Wの悲劇」、杉田が「グリーンマイル」、荒井が「愛と希望の街」、芋生が「ブエノスアイレス」という答え。
最後に俳優二人に花束が贈られた。芋生は、4日後が誕生日。杉田は、4日前が誕生日。ちょうど真ん中がその「映画教室」の日で、「この偶然は小さな奇跡ですね」という進行役の言葉も添えられた。
因みに、熊本出身の芋生は中学の時、不登校になったが、美術部という居場所があり、顧問の先生が面倒を見てくれた。サッカーが全国レベルの県立大津高校の芸術専攻の学科に入り、「表現」ということを考えるようになったそうだ。相手をしてくれたのがいい先生で良かったね。
杉田は、栃木出身。サッカー選手に憧れたり、本格的にボクシングをやったりしている。来年は主役の映画が2本ある。
さて、好きな映画を一本!
「37セカンズ」公開の年、芋生初めての主演映画「ソワレ」が公開されている(小泉今日子の初プロデュース作品)。和歌山県が舞台の、鬱屈や問題を抱える若い男女の出会いを描くシリアスな映画だ。
地方の介護施設で働くタカラ(芋生)は誤って父親を刺してしまい、偶然そこに居合わせた役者志望の翔太(村上虹郎)と逃避行を続ける。
和歌山市内の美術館の外で、夜、幻想的に繰り広げられるシーンが、美しくも哀しい。
(by 新村豊三)