昨年主演女優賞を多数獲得した河合優実が今年も快調である。まず、現在公開中の「今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は」。大阪の関西大学(実際にここで撮影)の2回生の男子学生の小西(萩原利久)が二人の女の子と出会う恋の話だ。

監督:大九明子 出演:萩原利久 河合優実 伊東蒼ほか
横浜出身の小西は、ある時、キャンパス内で、お団子頭をして傘をさして歩く桜田(河合優実)と知り合う。桜田は小さい時に父親を亡くしている。ちょっととんがった、個性的な女の子である。小西は、銭湯の掃除をするバイトをしており、ここで一緒に働くさっちゃん(伊東蒼)とも知り合いである。
ある日の夜、さっちゃんから、自分への想いを聞くことになる。この会話のシーンはとても長い長回しであり、さっちゃんの台詞と泣き顔は映画史に残るのではないか。
小西は突然二人と会えなくなるのだが、後半がスゴイ。ひねったアッと言う展開になる。また、演出が自在で、段々と登場人物に感情移入していく。ラストシーン近くでも長回しのシーンがあり、これもいい。(筋の妙味を味わう映画なので、ここは触れられない)
河合優実と監督・脚本の大久明子は、2023年のNHKドラマ「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」でもコンビを組んだ。これは、父親は病死、母親は事故で障害者、弟はダウン症という家庭の女性が書いたエッセイが基になっている。ヒューマンな内容でかつ、軽みと笑いと希望がある大傑作だった。
河合優実は昨年話題になった「ナミビアの砂漠」より100倍いい。大久・河合コンビって最強だ。脇の役者も見事。一人挙げると小西の友人役の黒崎煌大。この映画、きっと観客を選ぶに違いないが、新しい個性的なラブストーリーとして一押しである。

監督:城定秀夫 出演:北村匠海 河合優実 伊藤万理華ほか
次の映画「悪い夏」はワルやクズしか出てこないのに、面白くて仕方がない。地方都市の市役所生活福祉課の公務員と、彼らが対応する人々(生活保護受給などを受ける人)の絡み合い、騙し合いを描く映画だ。
市役所のまじめな若い公務員佐々木守(北村匠海)はシングルマザーの愛美(河合優実)の世話をするうち恋心を抱く。ところが、それは、頭のキレるサイコパス的なヤクザ(窪田正孝)たちに仕組まれたものであり、佐々木は愛美と性的関係を持ってしまったため、ゆすられることになる。
他にもいろんな人物が登場し、クライマックスは、ある雨の夜、関係者がアパートに集まり、乱闘を繰り広げる展開となる。まあ、もっと複雑に、クズな男や女、また先輩公務員たちが絡み合うのだが、それは見てのお楽しみである。
作品には原作がある。沢山の人物を見事に交通整理した向井康介(「ある男」等)の手腕が光る。また、役者が上手い。竹原ピストル、伊藤万理華など、存在感抜群である。つまりは、城定秀夫監督の演出がいいのだろう。ドロドロ、でもグイグイ引き込まれる。
クライマックスは結構エグいシーンも出て来るが、全体としては、ここまでやるか、むしろ感嘆したい面白さがあり、ある種、爽快でもある。また、随所に笑ってしまう箇所もある。そこがいい。河合は投げやりなヤンママを好演。

「敵」監督:吉田大八 出演:長塚京三 瀧内公美 黒沢あすか 河合優実ほか
河合優実が出ている新作をもう一本! 1月公開で評価も高く、客もかなり入った作品が「敵」だ。筒井康隆原作で、吉田大八監督(「桐島、部活やめるってよ」「紙の月」など)が映画化したモノクロ作品だ。
奥さんに亡くなられて一人暮らしをする元大学教授の渡辺(長塚京三)は日本家屋に暮らす。きちんと家事をこなし食事も自分で料理する(結構美味しそうに見える)。時々、美人の教え子(瀧内公美)が家を訪ねてきたりする。渡辺は、彼女と性的関係を持つ妄想を抱く。
河合優実は、渡辺が時々行くバーに来る大学生の客である。立教大の設定だったか。彼女からお金が足りないと言われ、渡辺は大金を貸したりする。
ある時、彼は、腹痛を起こし病院に行く。診察台の上で腹ばいにされると、尻からニョロニョロ医療器具が出てくる。見ている観客もエッと思う。渡辺は目を覚まし、それが悪夢だったことが分かる。その他にも、渡辺は、難民が襲ってくる妄想を見たりする。奇妙な事の連続なのだ。
見る人で感想が大きく分かれよう。私は、変なことが起きても、「妄想でした、ハイ、終わり」、の連続には飽きてしまったのだが。この作品を好きだと言う人は、独身で暮らす生活の漠然とした不安を映画に重ねるらしい。
(by 新村豊三)