タイプの違う3本の傑作「花まんま」「ウィキッド ふたりの魔女」「シンシン/sing sing」

タイプは全く違うが、それぞれ大変に面白い新作を紹介したい。まず日本映画「花まんま」

監督:前田哲 出演:鈴木亮平 有村架純ほか

監督:前田哲 出演:鈴木亮平 有村架純ほか

幼い頃、両親が事故で亡くなり、兄が高校を中退して町工場で働いて妹を育てたが、その妹が今度結婚することになる。大阪のコテコテ人情話だが、何と、ファンタジーの要素が入るところが新鮮。
結婚式前に、妹(有村架純)が兄(鈴木亮平)の知らない家の家族と付き合いがあることを知る。しかも、驚くことに、妹の記憶に、別の女性の記憶が入っているのである。この設定は、最初は若干の違和感があるが、兄が酔っぱらって見るファンタジーシーン(バスや病院が登場する)で、何となく納得出来てしまう。
その妹の秘密の謎が判ったところで、ラスト、兄が行うスピーチが本当に素晴らしい。現実でもこんな胸打つスピーチは聞いたことが無い。拍手したかった程。鈴木亮平は今年の主演男優賞が狙えると思う。

スピーチの後、大変に切ないシーンが待っている。そして、ラストのラストに、成程、こう来たかと思う、またまた感動的な展開が待っていて、涙腺が決壊した。見事な脚本であるが、ここは書けない。是非とも劇場で体験していただきたい。

有村架純の婚約者がややオタクっぽい大学の教員で、カラス語(?)を話すと言うのが映画の中で上手く活かされているのもいい。有村が訪ねる、彦根の家の父親の佇まいがいい。酒匂芳という俳優で、「検察側の証人」などの、暗いエキセントリックな役が多かった人だが。

監督:ジョン・M・チュウ 出演:シンシア・エリボ アリアナ・グランデ ミシェル・ヨーほか

監督:ジョン・M・チュウ 出演:シンシア・エリボ アリアナ・グランデ ミシェル・ヨーほか

次は「ウィキッド ふたりの魔女」、アメリカのミュージカル映画だ。原作は舞台のミュージカル。名作童話「オズの魔法使い」の前日譚と言うべき話で、「善い魔女」グリンダと、「悪い魔女」エルファバが出会う。その前編だ。エルファバは全身緑色の肌を持つ。二人が大学で出会い、エメラルドシティの宮殿に入り冒険をする。

後半大変面白く、歌と踊りに優れたナンバーがある。例えば、二人が、画面分割して「嫌悪感」を歌う「ワット・イズ・ディス・フィーリング」。また、「ポピュラー」も良かった。クルクル回転する書架(?)に入っての踊りにはビックリ。
2人が、オズ陛下に呼ばれて列車に乗り、オズの国に入って行くところはゾクゾクする。クライマックスで、エルファパが箒に乗り、塔から落下していき、やがて空飛ぶようになる映像はお見事。
テーマはマイノリティの尊重、自分らしく生きることの大切さだろう。テーマの掘り下げがやや足らないと思ったら、to be continued(続く)で終わる。ともかく、これだけ楽しませてくれたら文句ない。

監督:グレッグ・クウェダー 出演:コールマン・ドミンゴ クラレンス・マクリン他

監督:グレッグ・クウェダー 出演:コールマン・ドミンゴ クラレンス・マクリン他

好きな映画をもう一本!アメリカ映画の「シンシン/sing sing」。ニューヨーク州に厳重な警備で知られるシンシン刑務所がある。ここで、囚人が更生プログラムとして演劇を行うのである。受刑者が演劇を行うというテーマは目新しくはない。しかし、芝居を作り上げる過程が面白く描かれて、優れた演劇論・俳優論になっていること、また、囚人たちが心通わす魂のドラマになっているところが素晴らしい。主役はプロだが、本物の元囚人とプロの役者を混ぜており、リアリティがすごい。

劇を作り上げるプロセスで、何回も、暗礁に乗り上げる時がある。新人がなかなかなじまない時、仲間が突然亡くなってしまった時、リーダー格だったディヴァインG(コールマン・ドミンゴ)が自分の無罪請求が通らず自暴自棄になり人柄も変わりかける時だ。その時は、救ってもらった新人の囚人ディヴァイン・アイ(クラリス・マクリン)が逆に支える展開になる。もうこの頃には感情移入していた(後で冷静に考えると、ドラマの定番だろうが)。

人間は弱い、しかし、支え合い、生きていける、という気持ちを強くする。ラスト、また、10数年が経過したのだろう、二人が刑務所を出て再会するところもとても良かった。
演劇論・俳優論の個所が面白い。印象的な台詞は、「(我々囚人は)演じる時だけ、外に出られるのだ」。「これからは演じる君たちが演出していくんだ」(開演直前に演出家が言う言葉)。いちいち納得してしまった。
演技としてはコールマン・ドミンゴが素晴らしい(アカデミー主演男優賞のノミネート)。また、最初は、粗暴でいじけていて演技にもナーバスだが、段々成長する男を演じるクラリス・マクリンもいい。存在感抜群だが、何と御本人。刑期を終えて出所した元受刑者だった。

(by 新村豊三)

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