はや10月も下旬となった。公開時面白く見たものの、諸事情でこれまで紹介できなかった映画が何本もある。今回は、そんな映画の落穂拾いだ。

「愛を耕す人」監督:ニコライ・アーセル 出演:マッツ・ミケルセン アマンダ・コリン クリスティン・クヤトゥ・ソープ他
まず、デンマーク映画の「愛を耕す人」。スケール大きな、活劇かつ人間ドラマで、これぞ、映画って感じだ。18世紀、退役軍人のマッツ・ミケルセンがヒースの生えた不毛の土地を開墾しようとする。労働の部分も描かれるが、恋あり(いやあ、主人公モテる)、アクションありで映画の醍醐味を堪能した。
撮影が素晴らしい。ワイド画面を十全に使い、霧が立ち込めたり、薄暗かったり、水平のかなたに太陽が見えたりする美しい映像だ。馬を走らせる俯瞰のショットも良い。
一難去ってまた一難の話が面白い。対立と葛藤がある。領主が現代的チャラ男で魅力的なくらい憎たらしい。拷問で人を殺す。書いてしまうと、ある女に「逸物」を切られる復讐のシーンがあり。ここは通俗ギリギリで、素晴らしい。
好きな極め付きの台詞もあった。主人公を誘った女が騎乗位になり「お互い、心は別の所にあるのよ」と言う。マッツ・ミケルセン、これまであんまり好きではなかったけどいっぺんに好きになった。

「カーテンコールの灯」監督:アレックス・トンプソン 出演:キース・カプフェラー キャサリン・マレン・カプフェラー他
次はアメリカ映画の「カーテンコールの灯」。シェイクスピアには縁遠い労働者階級の中年オジさんがふとしたことから、演劇を始める。ハートウォーミングの甘い映画かと思いきや、主人公の家庭はリアルな問題を抱えて、厳しい状況を生きている。娘も学校で停学を食らったりしている。
ある重大な問題で、裁判を有利にするための家族カウンセリングを受けている。この問題が、観客側には「小出し」になっているので、見る側は最初やや戸惑うけれど。
映画の大きな柱である、父親の地域コミュニティの演劇への参加も面白い。参加者を指導していく中年俳優の女性の存在感が素晴らしい。ちっこいけど、キビキビして辛辣なところもあり、チャーミングなのだ。彼女の、10数年のニューヨーク俳優生活は、「5万ドルの借金と二つの台詞が残っただけだった」という言葉も印象的。芝居を作り上げる過程で「インティマシー・コーディネーター」が指導する、男女がキスをするまでのステップの積み重ねを見たが、これも興味深い。
ラストの「ロミオとジュリエット」の上演は、それだけでも、何か心惹かれた。人間にとって、演ずることは素晴らしく魅力的なことだと感じた。

監督:イ・オニ 出演:キム・ゴウン ノ・サンヒョン他
ほとんど話題にならなかったが、韓国映画「Love in the Big City」も中々の作品だった。チラシを見て、垢抜けした男女が出て来るトレンディな恋愛モノだろうと思いきや、大都市ソウルでの新しい「男と女の繋がり方、お互いの受け入れ方」を考察する映画だった。
ゲイの男と、フランス帰りでキャリアもあり、酒も煙草もガンガンやるぶっ飛んだ性格の女が、一緒にルームシェアをして生きていく姿をヴィヴィッドに描く新鮮かつ感動的な映画だ。LGBTの問題、儒教社会でのゲイの問題なども散りばめられている。
2人の主役が魅力的で、女の子は、韓国の河合優実と言うべきか、リアル、表情も豊か、時にグニャニャとした演技をする。男の子は、顔がツルッとして、デカいし、これまた韓国の中島歩と言いたい人物だ。
好きな映画をもう一本! 香港映画もここまで繊細な人間の感情を描くのだと感心させられたのが「年少日記」。
中々深い内容で、ラストは静かな感銘を受けた。高校3年生を担任する30代の教師が、「自殺したい。自分の存在意義なんてどこにもない」と書いた走り書きの遺書のようなものを手にしてしまう。何とか救おうとするが、この先生にも、ツラい過去がある。少年時代が回想され、現在と過去が交互に描かれる。この先生には一人「きょうだい」がいる。この兄弟、弟は学業もピアノ演奏も優秀だが、兄はそうではない。敢て書かぬが、中盤、えっという展開が待っている。ここのシナリオの構成が上手い。
中々に辛い話である。しかし、あんな権威主義、学歴至上主義で、子供の虐待に近い行動を取る親の家庭に育てば、子供の心に傷を残すよなあ、と思う。
主人公の先生が、お別れの日に、教室でクラスの生徒に対して、「君たちとは友人でいたい」と電話番号を黒板に書いて教える件が好きだ。あの姿勢でこそ、生徒が心を開き、生徒を救えるのではないか。もう、日本も香港も、昔のイメージの教員のやり方ではうまく行かない時代なのだ。他人事とは思えない。
(by 新村豊三)