第152話 幽体離脱ピアノ

今だけ、我が家のピアノは

24時間いつ弾いても誰にも迷惑かかりません。

音が出ないからです。

先日、7年ぶりに調律師さんにピアノを見てもらうと、フレンジコードを88個の鍵盤全て交換した方が良いと言われました。

フレンジコードとは、鍵盤を押すと動くハンマーに取り付けられた、紐のようなものです。

我が家のピアノは昭和50年頃に大量生産されたピアノで、開けるとこのような文字が記されています。

〔ヤマハのU3シリーズ 1950~1980年代に製造〕

この年代のピアノは、フレンジコードの質が悪くて、ちょうど今頃、寿命を迎える時期なのだそうです。

でも、この年代のピアノは悪いことばかりではなく、国産の、密度の濃い木で出来ていて、重厚な音が出るそうです。

今のピアノは殆ど、中国などから輸入された軽い木で作られていて、音も軽いのだとか。

調律師さんが、ピアノからハンマーごと取り外して持ち帰り作業して、約1ヶ月後に、新しいフレンジコードのついたハンマーをピアノに再び取り付け、その後に調律してもらうことになりました。

エアピアノなら、もっと自由に弾けば良いのに、何故かいつも弾いている曲を、いつも通りにしか弾く気になりません。

このピアノを弾き始めて50年近くになりますが、こんな感覚で弾くのは初めてです。

(津川聡子 作)


*編集後記*   by ホテル暴風雨オーナー雨こと 斎藤雨梟

津川聡子作「やっとこ!サトコ なう」「第152話 幽体離脱ピアノ」いかがでしたでしょうか。ピアノにとって魂って……と思わず考え込んでしまいました。ピアノのアイデンティティはやっぱり音? いやいや音を生み出す機構が大事なのだから、音そのものはピアノの本体ではない?
考え始めたところに最後の1コマ、サトコさんの時空を超えたほほえみが効きました。ピアノの魂がどこにあるかは不明ですが、それはきっとサトコさんの記憶を100年後に連れて行ってくれることでしょう!

「やっとこ! サトコ なう」へのご感想・作者へのメッセージは、こちらからどしどしお待ちしております。次回もどうぞお楽しみに♪

ホテル暴風雨にはたくさんの連載があります。小説・エッセイ・詩・映画評など。ぜひ一度ご覧ください。<連載のご案内>

スポンサーリンク

フォローする