アックス第167号(青林工藝舎)に、私の漫画「Pavane pour une infante défunte 亡き王女のためのパヴァーヌ」が載りました。連載9回目を迎えとても光栄な気持ちで、恒例のネタバレ解説をお届けします。

撮影:てる君
今回はモーリス・ラヴェルが作曲した同タイトルの曲がテーマです。以前、こちらでお伝えしましたが、私は毎朝、ラヴェル作「ボレロ」で目覚めており、また、アックス第160号には、同じくラヴェル作「道化師の朝の歌」をテーマに描いたピアノ漫画が掲載されています。ラヴェルは私の最も好きな作曲家です。
まず、曲の解説ですが、「亡き王女のため…」と言っても王女への追悼という意味ではなく、昔の王女へ捧げるという意味だそうで、ベラスケスが描いたマルガリータ王女の肖像画からインスピレーションを得て作曲したと言われています。

そのような情報より先にこの曲を知った私は、ミレーの描くオフィーリアのような、優雅に亡くなっていく王女様を想像して聞いていました。

この曲は周囲からの評価は良かったにもかかわらず、ラヴェル本人の自己評価はとても低かったそうです。しかし晩年、脳障害で記憶力が衰えたラヴェルはふとこの曲が流れてきた時に、「美しい曲だ。誰が作ったのだろう?」と言ったそうです。悲しみと幸せが混在する切ない話だなぁと思います。
さて、漫画の解説ですが、場面は三途の川のようなものをイメージして描きました。

ずっと忘れていた、幼い頃の宝物が川上から流れてきて、「身に着けて」と言わんばかりにお婆さんの方に寄ってきます。お婆さんがそれを身に着けるとだんだん若返ります。







シロツメグサの冠を被るとお婆さんはすっかり少女の姿になり、パヴァーヌを踊ります。

そして最後に、自分自身であるお婆さんが流れてきます。

少女とお婆さんは、ゆっくりと一体化します。



少女の姿になったお婆さんは、永遠の眠りにつきます。
これは、死の直前には老いも若さも、生も死も、過去も未来も、全て混ざり合い境目がなくなって、生まれることを自然に受け入れてこの世に誕生した時のように、悲しみも苦しみも意識せずに自分の死を自然に受け入れて、人は死んでいくのではないだろうか(……そうなら良いなぁ……)という私の願望が表現に繋がった気がします。
アックス第167号は、勝又進「赤い雪」再版記念特別企画 作品再録「天狗」です。不朽の名作と新進気鋭な作品が同時に読める唯一無二の漫画誌アックスをどうぞよろしくお願いします。
只今、タコシェ(中野ブロードウェイビル3F)にてアックスの楽しいイベント「ラッキー展」開催中です。併せてよろしくお願いします。

最後になりましたが、先日、アックス編集長にして青林工藝舎社長の手塚能理子さんがお亡くなりになりました。様々な思い出が蘇り、いろんな感情が湧いてきて、とっても悲しい、とってもあたたかい気持ちになります。そして感謝の気持ちでいっぱいです。
(津川聡子 作)
*編集後記* by ホテル暴風雨オーナー雨こと 斎藤雨梟
津川聡子作「やっとこ!サトコ なう」「第192話 ピアノ漫画「Pavane pour une infante défunte 亡き王女のためのパヴァーヌ」ネタバレ解説」いかがでしたでしょうか。私も大好きな曲で、タイトルも曲の謂れも知る前から、「死」「永遠」「静かな思い出」を連想させ、悲しいことと懐かしいことは似ているのだろうか? と涙を誘うメロディだと感じていました。晩年のラヴェルのエピソードも印象的ですね。何より、こんなに美しい解釈と視覚化は初めてです。みなさま、ぜひ「アックス」本誌もご覧ください。
そして、残念ながらお会いする機会はありませんでしたが「アックス」名編集長・手塚能理子さんが、この漫画の少女のように永遠の安らぎと一緒に生まれる前にいた場所へ帰られたように思え、このひとときの想像だけで忘れられない記憶になりそうです。ご冥福をお祈り申し上げます。
「やっとこ! サトコ なう」へのご感想・作者へのメッセージは、こちらからどしどしお待ちしております。次回もどうぞお楽しみに♪