めったに雪なんか降らない町で、めずらしく積もるくらいの大雪になったら、それはもうワクワクします。
「やったァ、あしたは雪であそべる! 雪合戦に雪だるま、ひょっとすると、かまくらだってできちゃうかも」
夜、そんなことを考えて、なかなか眠れなかった覚えが、あなたにもあるのではないでしょうか。
ところが……、世の中には子どもの夢をうちくだく悪い妖怪がいるものです。
雪の積もった朝、まだ新聞屋さんも寝ている早い時間、どこからともなく妖怪「ラッセルおばさん」は登場します。
先の平べったいスコップを持ち、白い軍手に黒い長靴が、お決まりのかっこうです。
道のまんなかに立ったラッセルおばさんは、からだの前でスコップを剣の達人のようにかまえます。
そして、「むっ!」とか、「やっ!」とか、低い声で気合いを入れると一気にパワー全開、積もった雪を、道のはしに寄せはじめるのです。
ラッセルおばさんの仕事ぶりは激しいもので、百メートルの道をかたづけるのに三分かからないと言われています。ひとつの通りから、つぎの通りへ、さらにそのつぎの通りへ、まだ薄暗い町を嵐のようにかけぬけます。
――というわけで、子どもたちが目をさまし、うちを出るころには、どこの雪もぜんぶ道のはしに押しつけられているのです。
はしに押しつけられた雪は、もうふわふわしていないし、ちょっと汚れていたりもします。
がっかりした子どもたちは、それでも気をとりなおして、
「しょうがないや、こんな雪でもないよりマシ。学校が終わったらあそぼ」
と思います。
ところが……、このささやかな喜びも許されません。
子どもたちが学校に行くと、こんどは妖怪「お湯かけじじい」が登場するのです。
お湯かけじじいは、スイカより大きな丸いヤカンを持っています。それで、道ばたに積みあげられた雪に、お湯をかけてまわるのです。
雪は見る間にしゅわしゅわ溶け、塩をかけられたナメクジみたいにくたびれてしまいます。どうした仕組みかこのヤカンは、いくらかけてもお湯がなくなることがないそうです。
お湯かけじじいの仕事ぶりはラッセルおばさんと違って、のんびりゆったりしたものですが、それでもお昼までには町中ひととおりかけ終わります。
――というわけで、学校が終わり子どもたちが帰ってくるころ、白くてきれいな雪なんか、どこを探したってありません。手にとって雪玉を作る気にもならないような、みすぼらしい雪がしょぼしょぼ残っているばかり。
まったくひどい話です。
このように子どもの敵ともいうべき、ラッセルおばさんとお湯かけじじいですが、なぜか大人には感謝されていたりします。
世の中にはわけのわからないことが多いものです。
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