白黒スイマーズ 第11章 ペンギン世界の崩壊(3)


全区合同ペンギン会議は、王の発案から数日後に開かれることになった。場所はホドヨイ区の夜の浜辺である。ホドヨイ区以外からも、全区から代表のペンギンたちが次々と集まってきた。アッツイ区長やス太郎たち、不意夜度モリ絵(ふぃよるど・もりえ)や分堀戸(ふんぼると)ボルルとルトトの兄妹、景布アフ信(けいぷ・あふのぶ)、それにスネアーズやシュレーターズの面々までもいる。

「では、これから緊急の全区合同ペンギン会議を始めます」

王の発声で会議はスタートだ。

「黄頭(きがしら)ナンデモ研究所の黄頭ボブ尾氏から詳細を報告してもらいます」

司会の慈円津(じぇんつ)に発言を促された黄頭は、鋭いレモン色の瞳で会場を見渡したあと、クチバシをゆっくりと開いた。

「皆さんに報告したいことは色々あります。順序立てて説明しましょう。まず……」

黄頭は、人間世界にマリンを助けに行った時のことや、そこから持ち帰ったサンプルのこと、また、各区での異変の調査結果を話した。また、その原因が、人間世界にあることも。集まったペンギンたちは、黄頭の話を熱心に静かに聞いているが、その中で不意夜度だけが落ち着きなく会場をキョロキョロと見渡していた。しばらくして、耐えきれない様子の不意夜度は隣にいた羽白(はねじろ)にそっと尋ねた。

「あの……貴族先生が来てないようですが」

不意夜度のスパルタコースの師匠、貴族の姿がないのだ。

「そりゃ、おかしいな。ぜってぇ貴族も来るはずだぞ」

その会話を聞いていた古潟(こがた)がクチバシを挟む。

「俺、ちょっと車走らせて呼んできてやらぁ」

黄頭の話が続く中、古潟は会議を抜け出して貴族を迎えに行った。

「……ということで、我々に残された道は、ペンギン世界の地面の成分に近いもの、『雲』を採取することなのです。それを合成することにより崩壊を阻止する物質を作ることができ、マシーンが完成するのです」

黄頭の説明に景布が「はい」と手をあげ質問をした。

「でも、雲を採取するなんてできるんですか」

会場からは、一斉に「そうだそうだ」とか「無理じゃないか」といった声が上がる。

「そう、雲は繊細なものです。残念ながら今まで私やクラゲくんが作ったマシーン類ではうまく採取できないのです。翼マシーンでは羽ばたきが強過ぎ、採集マシーンでは掴む力が強く、必要な成分が壊れてしまう。雲は私たちのフリッパーを使い、丁寧に優しく採らなければならないのです」

「では、無理ということでしょうか?」

次いで、真軽仁(まかろに)もイカを高く上げ質問をする。その問いに答えたのはマリンだ。

「いえ、大丈夫です。雲は採取できます。なぜなら、私たちは鳥だから。鳥は空を飛べるから、飛んで雲を採取すればいいのです」

一斉に会場はざわついたが、マリンは動じることなく話し続けた。

「人間世界から帰る時、空から落下する私には飛ぶことしか残された道はありませんでした。私は強く願い、フリッパーを広げ羽ばたかせたんです。採集マシーンという補助はつけていたけれど、あの時、私は確かに飛んでいた。皆さんは、嘘だと思うかもしませんが、真実はひとつなのです」

会場がざわつきが一層大きくなった。ペンギンたちは空を飛ぶなんて考えたこともない。ペンペンとどよめく会場の中で、立ち上がった大きなペンギンがいる。皇帝である。

「私、マリンさんの言っていることが分かります。実は……私は先日、禁止されている歩きおさかなをしてしまい、大穴に落ちてしまったのです。貴族さんが助けに来てくれたのですが、結局、二人で落ちてしまいました。でも、その瞬間、大穴からの吹き出しの風があって助かったのです。その風に舞い上げられた時に、フリッパーを広げた私は浮遊感というか、今まで体験したことない不思議な感覚を味わいました。空を泳いでいるような感覚、でしょうか。そして、大穴の周りを一回転して着地したのです」

マリンの話を裏付ける皇帝の告白に会場は静まりかえっている。

「貴族さんも同じ感覚を味わったはず。貴族さん? あれ……貴族さんは……?」

そこに、古潟のトラックが猛スピードでやってきた。

「てぇへんだ!」

古潟はトラックを降りるよりも先に大声で叫んだ。

「貴族のロイヤル紅茶館がまるごとなくなっちまっている! 跡には、大きな穴が空いているだけだ! しかも、貴族のやつがどこにもいないんだよ!」

ペンギン世界の崩壊は、あの貴族までも餌食としたのであった。

* * *

貴族がいなくなって数日が過ぎた。ペンギン会議は、貴族の事件でパニックとなり、途中で閉会となってしまった。予定していた参加者全員での腹撫でも中止だ。

そして、ペンギン会議のあとも、異変はもちろん止まらない。各地の穴は次々と空き大きくなっていく。穴の開くスピードは速くなり、今や、小さな穴が開いた翌日にはペンギン一人がハマるほどの大きな穴になっているという状況だ。小さな穴を見つけると、すぐに応急処置用凝固マシーンで凝固剤を注入しなければならない。その作業は、黄頭から手順を教わった王や阿照(あでり)や慈円津などが請け負い対応しているが、中には、対応が追いつかずに崩れてしまった建物や穴から落ちて全て消えてしまった建物もある。今や、このペンギン世界を見渡すと、穴だらけの世界になってしまっているのだ。そして、各所の対応に追われ、空を飛んで雲を採取する件も具体案が出ないまま日は過ぎていた。

また、浜辺や海でも同じ現象が起こりつつあった。海に空いた穴からは海水や魚が漏れ出てしまう。これはペンギンにとって死活問題だ。海での応急処置用凝固マシーンで凝固剤を注入は、魚欲に打ち勝てるペンギン、貴族の一番弟子である不意夜度(ふぃよるど)が主担当となり、マナー教室の修了者たちが対応していた。

真昼のホドヨイ区の浜辺である。作業を終えた不意夜度が海からあがってきた。しばらく海をじっと見つめていた不意夜度は、ゆっくりと両フリッパーを胸の前で合わせた。

「貴族先生、早く戻ってきてください」

頭を垂れ海に貴族の帰還を海に願う。

「不意夜度さん、こんぺんは」

背後からやってきたのは皇帝だ。

「こんぺんは、皇帝さん」

皇帝は不意夜度の横に立ち、一緒に海を見つめた。

「不意夜度さん、今、海に向かって拝んでいたようだが大丈夫かい? 貴族さんが亡くなってしまったのは辛いことだが……」

ため息混じりの皇帝の言葉に、不意夜度は語気を強めた。

「やめてください! 貴族先生は生きています!」

不意夜度の怒りに、皇帝は申し訳ないような顔をした。

「私だってそう思いたいよ……。でも、こんなんじゃ……」

穴だらけの浜辺、海水も魚も減っていく海、それを目の当たりにすると絶望的な気持ちになってきてしまう。皇帝の言う通り貴族はもう亡くなってしまっているのかもしれない。不意夜度の瞳から一筋の涙が流れた。それをなだめるかのように風が吹く。そよ風だったその風は、強い風となった。それは、大穴の方からは吹いてきている。

「貴族先生は、生きています」

不意夜度が自分に言い聞かせるかのように強く言った時、

「そうですわよ。生きていますわ」

突如、皇帝と不意夜度のいる浜辺の上空から声が聞こえた。

「貴族先生!」

「貴族さん!」

皇帝と不意夜度の頭の上にいたのは貴族だ。背中に何かをくくりつけた豊満な体で優雅に羽ばたき、スイスイと泳ぐように空を自在に飛んでいるのだ。貴族は、大きく旋回したあと、見事な着地で不意夜度たちの前に降り立った。

(つづく)


浅羽容子作「白黒スイマーズ」第11章 ペンギン世界の崩壊(3)、いかがでしたでしょうか?

貴族先生が飛んだ! マリンが飛んだ! の回に続き感動の飛翔シーンでした。やはりペンギンは空を飛べたのですね。しかし穴がどんどん増え広がるという大問題、ペンギンたちは力を合わせて解決できるのか!?

ご感想・作者への激励のメッセージをこちらからお待ちしております。次回もどうぞお楽しみに。

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