白黒スイマーズ 最終章 いついつまでもペンペンと(4)


「合格だっ!」

その低音の威厳ある声に、胃弱マシーンのスイッチを押そうとしていた阿照(あでり)のフリッパーの動きが止まった。目の前にいるのは、どこかで見たペンギン。そう、ポスターに写っていた冒険家の混卵タイ陸(まぜらん・たいりく)であった。

「合格ですわ、阿照さん」

声がする上方を見ると、低空飛行をしている貴族がいる。

「えっ、どゆこと……」

驚く阿照を尻目に、混卵は肩掛けカバンの中から一枚の紙と羽ペン型ボールペンを取り出した。そして、その紙にスラスラと何かを書いている。空から降り立った貴族が、混卵の書き終わった紙を見てうなずいた。

「阿照キュー太殿、貴君は、混卵冒険隊の隊員に合格した。これが合格通知だ」

差し出された紙は、阿照の名前が記された混卵冒険隊の隊員合格証書だった。

「良かったわね、阿照さん」

貴族が嬉しそうにフリッパーを力強く叩き拍手をしている。

「えっ? えっ?」

促されるまま合格書を受け取った阿照は、突然の展開に理解仕切れていない様子だ。

「阿照くん、実は、君からの応募があったあと、君が冒険隊員にふさわしいかどうか秘密裏に調査していたのだよ」

「私も、混卵くんに頼まれて空からの調査をしていたのですわ」

「貴子ちゃん、ありがとう」

「古い友人の混卵くんの頼みですもの。当たり前ですわ」

そう言うと貴族は、やっと拍手をやめた。

「阿照くん、君は、豆絞りを被ることでの現実からの逃避、パワーストーンに頼り過ぎる精神力の弱さ、場違いで素っ頓狂な言動、自意識過剰なくせに本当は自信がない真性のアホ……など問題は山ほどある」

あまり褒められているように思えない阿照は、訳が分からず目を丸くしたままだ。混卵は話し続ける。

「しかし、阿照くん、君は私たちの視線に気づいていた。危機管理能力はずば抜けている。しかも、へっぴり腰ではあるが最終的には私たちに立ち向かってきた。これは素晴らしい。よって、君は合格だ!」

自分が冒険隊員に合格……。やっと理解できた阿照は、

「本当ですか! ありがとうございます、混卵さん! 貴族さんも!」

と喜び、モアイジャンボ鉛筆と胃弱マシーンを放り出し、頭の豆絞りも取って、「ひゃっほぉぉぉ!」とペンギンジャンプをした。そして、合格証書を脇に挟み、混卵と握手をした時、フリッパーに握り締めていた豆絞りを落としてしまった。

「あっ……」

それは鈴子がくれた豆絞りだ。合格して嬉しい、だけど……。落ちた豆絞りを見つめながら言葉が出ない阿照。混卵は、その気持ちを察したらしい。握ったフリッパーをそっとほどきながら言った。

「阿照くん、何か気がかりなことがあるのかね? 君は冒険隊員を辞退しても構わない。でも、一度断ったら、また応募したとしても二度と合格はないと思ってくれたまえ」

貴族も真剣な表情だ。

「阿照さん、チャンスというのは、逃してはいけません。大きなおさかなが来たら、すぐに丸呑む、それがペンギンの指針となる『おさかな道』というものです」

混卵は貴族の言葉に、「貴子ちゃんはいつだって、いい事を言うね」とゴニョゴニョと呟いている。そして、二人は、

「冒険隊参加への返事の期限は、三日後だ。では、阿照くん、ペンペン!」

「阿照さん、いい返事をね。ペンペン!」

と言い残し、飛び立ったかと思うとあっと言う間に見えなくなってしまった。

* * *

混卵への返事の期限である三日後の朝、阿照は王の酒屋のドアを開けた。

「やぁ! 阿照さん、こんぺんは! もうちょっとで、羽白(はねじろ)さんの手伝いに出るところだったよ」

「王さん、こんぺんは。あれ、慈円津(じぇんつ)さんもいるのか……」

「あら、阿照さん、いちゃ悪いかしら。私も、カチューシャ屋の片付けがひと段落したから、今日は王さんと一緒に羽白さんのところの手伝いに行くところなのよ」

慈円津は、自分の頭に巻いたソフトカチューシャ、いわゆる「ねじり鉢巻」をペンと叩いた。

「阿照さん、何か用事かい?」

「実は、王さんにお願いがあって……」

「お願い?」

阿照は、王の前に進み出ると、おもむろに自分の胸にずっと下げていたトレードマークの巾着を外した。中には、パワーストーンや小石が入っている。もちろん、鈴子の名前を鉛筆で薄っすらと書いたあの恋愛大成就パワーストーンも。

「王さん、これ、預かって欲しいんだ」

フリッパーに握った宝物の巾着を阿照はずいっと王に差し出した。

「えっ……!?」

「僕、決めたんだ。冒険に行くって。今日は混卵さんに冒険隊参加の返事をしに行く」

王を正面からしっかりと見つめる阿照の瞳は、ペンペンと輝いている。

「……だったら、これは、鈴子さんに預かっててもらえばいいのに」

その王の言葉に、阿照が首を横に振る。

「鈴子さんと仲直りしたんでしょ?」

慈円津が話に割って入った。

「うん、鈴子さんは、ずっと怒っているような悪い性格じゃないよ。すぐに普通に接してくれたけど……あれから、あの一件には触れていない……」

「あの一件って?」

シュレーターズカチューシャを付けた頭を王が傾げた。阿照の代わりに返事をしたのは慈円津だ。

「あら、あの一件よ。阿照さんが真性のどアホだという一件」

「あぁ、あれか!」

ペンギンたちの耳は地獄耳だ。相当用心していないと、噂話がペンペンと広がってしまう。

「しかし、阿照さんって本当にアホよね……というか、バカよねぇ」

「慈円津さん、さっきから黙って聞いていれば、アホとかバカとか僕のこと言ってひどいよ!」

丸い目をしたたか吊り目にした阿照が腕組みをして怒っている。

「だって、阿照さんはアホだもの。鈴子さんが、阿照さんのことを好きなのも分からないんだから」

その慈円津の言葉を聞いた阿照は、だらしなく目尻を下げ、腕組みを外し、クチバシを緩めた。

「やっぱり、そうだよね!? 慈円津さんもそう思うよね!? 王さんもそう思うよね!? 鈴子さんって、やっぱりそうだよね!」

本当にアホ丸出しだ。その姿を見ると、王と慈円津は、鈴子がなぜ阿照が良いのか分からなくなってきてしまい、

「奇妙なことだが、そう思う」

「私も、奇妙だけど、そうだと思う」

と返答した。しかし、阿照は意に介さない。

「やだなぁ、奇妙って何さぁ~。あはは~。うふふ~」

ひとしきり悦に入って喜んでいたが、王がフリッパーに持ったままの阿照の巾着が目に入り、急に意気消沈してしまった。ハーっと魚臭いため息をもらしながら、阿照は話し出した。

「……とか何とか言いつつ、王さんと慈円津さんには話すけどさ。実は僕、自信が持てないんだ。自分には、皆のようなオスらしさに欠けるように思える。古潟(こがた)さんと羽白さんは小さくても大きな心があるし、王さんだって会長職をしっかりと続けている。皇帝さんは極寒の地での子育てを何度もしているし。それに比べ僕なんて……オスらしくないよ」

「あら、私だってオスよ」

「慈円津さんは、ある意味、一番オスらしいよ」

鼻先で笑いながら阿照は横目で慈円津を見た。

「このオッペケペーがっ!」

すかさず、慈円津はフリッパーで阿照のなで肩をどやす。王が、「まぁまぁ」と言いながら、クチバシを開いた。

「阿照さん、皆そんなに素敵な大人のオスになっているわけでないよ。それに、オスだからメスだからってないだろ? 貴族さんなんてメスだけど、あんなにたくましいし、不意夜度さんだって精神力がどのオスよりも強い。私は、阿照さんの素っ頓狂で面白くて、少し自己中心的なところがいいと思うし好きだよ。だから今のままでいいと思うんだが」

なんとなく褒められていないような感じもするが、阿照は返答した。

「そうさ、僕が十分イケペンだっていうことは分かっているよ。でも、僕は自分が人を羨むところがすごく嫌なんだよ。……カッコ好(かっこよし)さんを羨む僕が嫌なんだ」

カッコ好の名前を聞いて、慈円津が何かを思い出したようだ。

「そうそう! この前、カッコ好さんが言ってたわ。自分は、昔は照れ屋の臆病で豆絞りばかり被ってたって。阿照さんの頭の豆絞りを見て、昔の自分かと思って親近感が湧いたって」

阿照は、アイドルイベントの時にカッコ好が阿照の頭の豆絞りを見つめる視線を思い出した。

「えっ! 本当かい!?……だとしたら、僕もカッコ好さんみたいな格好いいオスになれるのかな……。

でもね、実は、それとは別に、僕、怖がりのくせして冒険してみたいんだ。新しいことをしたくてたまらない。脱皮するような気分なのかな。脱皮した僕を鈴子さんに見て欲しいんだ」

「まぁ、ペンギンだから脱皮はしないわよね」

話の途中で慈円津が茶々を入れたが、阿照の耳には入らないようだ。

「そんなんで、僕、決めたんだ。冒険に行くって」

「そうか……」

阿照は、王を真正面から見上げた。

「やっぱり、その巾着は王さんに預かっていて欲しい。戻ってきたら、その小石は、すべて……正式に鈴子さんに渡すつもりなんだよ」

小石を正式にあげるということはペンギンにとってプロポーズを意味する。慈円津は、「あら、まぁ」とクチバシにフリッパーを当て、「あらあら、まぁまぁ。いいわねぇ、若いって」とニヤニヤしている。

しかし、阿照も王も真剣な表情だ。

「分かったよ。これは大切に預かっておく」

王は了承し、フリッパーに持っていた阿照の小石入りの巾着を自分の首にかけた。それを見た慈円津が、

「あらあら、シュレーターズカチューシャに清酒魚盛の前掛け、その上、首に巾着なんて、王さん、すごくスットコドッコイでペンペンしてるわぁ。あはははは!」

と、いかにも楽しそうにクチバシを大きく開け笑い出した。

「ふふ、確かにペンペンしているね」

王の不思議な姿に、神妙だった阿照と王もつい吹き出して笑う。三人の笑い声が酒屋に響いた。

そして、阿照はその足で冒険隊参加希望の旨を伝えるため混卵の元に向かったのであった。

* * *

「でね、僕、合格して冒険隊員になったんだ」

旅立つ前の最後の鈴子のプロマイド撮影の日、阿照は、鈴子に冒険のことを告げた。

「……そう」

鈴子の視線は、巾着がなくなった阿照の胸のあたりから動かない。

「いつ旅立つの?」

「うん、近々。見送りはいらないよ。多分、直前で鈴子さんの顔を見たら……行きたくなくなっちゃうし」

阿照は、クチバシをパクパクしながら、やっとそう言うと、照れ隠しのように続けざまに話した。

「鈴子さん、僕、今よりもずっと本当に本当のイケペンになって戻ってくるよ!」

その言葉に、鈴子は、少し寂しげに微笑むだけだ。その表情を見た阿照は、視線をそらし、しばらくモジモジしていたが、かぼそい声で話し出した。

「あうあうあう……あの、実は、今日撮影した写真なんだけど……販売用にはしないで……」

ひと呼吸おいて続けた。

「で、あのそのあうあうあう……代わりに、冒険に持っていく……あうあう……僕だけのお守りのプロマイドにしたいんだけど……いいかな……?」

視線をそらしたまま鈴子の返事を待っているがいつまでたっても返答はない。もしや、嫌なのか!? ペンペンと震えながらゆっくりと鈴子を見ると、鈴子は笑っているような泣いているような不思議な表情のまま、黙ったまま何度も何度も首を縦に振っていた。

ペンギンたちは噂好きである。もちろん、阿照の冒険隊参加のニュースは、瞬く間におさかな商店街に知れ渡っていた。しかし、冒険に旅立つ日を知っているのは、おさかな商店街会長の王だけ。王は、阿照から絶対に口外しないでくれ、と固く言われていたので黙っていたのだ。

黄頭(きがしら)とクラゲが、荷物を持って阿照のプロマイド店に来たのは、偶然にも冒険出発の前日であった。店には、たまたま打ち合わせに来ていた混卵がいた。

「あぁ、混卵隊長。久しぶり」

「黄頭くん! 久しぶりだな! マリンくんを人間世界から助けだした武勇伝は聞いているよ。うちの探検隊に参加して欲しいくらいだな」

「ませらんさん、参加はダメだよ。だって、きかしらさんもぼくも、マリンさんと交互に卵を温めなきゃだもの……うふふ……」

クラゲが嬉しそうに、混卵の頭に乗っかった。

「ク、クラゲくんっ……またっ……!」

黄頭は、恥ずかしそうに黄色い顔を多少赤らめて、話題を変えるように話し出した。

「実は、阿照さんが冒険に行くって聞いたから、これさえあれば冒険に万全なマシーンを用意してきた」

持ってきた荷物の中に入っていたのは、沢山の小さなマシーンだ。

「あてりさん、これはね、時計型万能通信マシーンだよ。ほかにも、疲労回復肩もみマシーン、おさかな自動引き寄せマシーン、喧嘩仲裁マシーン、眠れぬ夜の子守唄マシーンなど色々あるよ。全部超小型だから、持ち運びもべんりだよ。うふふ……」

これで無事でなければおかしなくらい便利なマシーンの数々だ。クラゲは、自慢げに阿照の丸い頭の周りを回っている。混卵は、そのマシーンをいちべつすると胸を張って言った。

「うむ……黄頭くんにクラゲくん、確かにこれらは便利そうだが冒険にはいらない。冒険には、地図と羅針盤とサバイバルナイフ、ほんの少しの食料、あとは勇気があればいいのだ」

「え、隊長!? いらないんですか!?」

便利マシーンに喜んでいた阿照はあたふたペンペンとフリッパーを動かしている。

「ぼくが、せっかく作ったのに……」

クラゲは今にも泣き出しそうだ。しぼんだクラゲは触手をだらりと垂らし、フラフラと混卵の眼前まで進んだ。星型の目を細め、いかにも寂しそうである。

「ませらんさん……あてりさん、マシーンを持っていっちゃダメなの?」

「うっ……」

首を傾げたクラゲのその顔は、どのマシーンよりも最強だ。段ボールに入れて捨てられた濡れた子犬よりもずっと強力なのである。百戦錬磨の混卵といえども太刀打ちできない。

「まぁ、少しくらいなら、持っていってもよかろう……」

「よかったね! あてりさん!」

「ありがとう! 隊長!」

すぐさま阿照は小声で「……黄頭さん、全部持っていくから置いていってね」と黄頭に耳打ちした。黄頭は、ウンウンとうなずいたあとクチバシを開いた。

「ところで、阿照さん、旅立ちの日はいつだい?」

「ごめん、黄頭さん。それは……秘密だよ」

* * *

そして、翌日、旅立ちの日だ。阿照が背負っているのは、混卵の倍くらいの大きさのリュック。その中に入っているのは、黄頭とクラゲのマシーンの数々と例のお守りのプロマイドだ。早朝のおさかな商店街に近い浜辺にいるのは混卵と阿照だけ。唯一、出発の日を知っている王にも見送りを断っていたので誰も来ていない。その代り、帰還する日にはおさかな商店街の面々に盛大に出迎えてもらうことになっている。栄光を手にするその日のためにも阿照は旅立つのだ。

出発に向け、すでに混卵と阿照は大穴のすぐそばで待機している。

「もうそろそろ時間だが、まだ来ないのか……」

混卵がおさかな商店街の方を見つめ意味深なことをクチバシにした。

「え? 誰がです?」

「うん、実は、どうしても参加したいと言って後から応募してきたペンギンが一人いてね」

「え!? そうなんですか!」

「調査したところ、見かけによらず筋の通った強いペンギンなのだよ。だから特別に追加合格にしたのだ」

混卵はそう言うと、意味ありげにクチバシの端を少し上げた。

「誰だろう? 僕の知っている人かな……」

「お! やってきたぞ、阿照くん!」

混卵のフリッパーの指す先の空に、急いで飛んでやってくるペンギンがいる。

「あれは!」

ペンペンとしたその美しく丸い身体、可愛らしい丸い顔。そのペンギンは華麗に飛んでくる。

「鈴子さん!」

そのペンギンは鈴子だ。鈴子は、阿照と混卵のそばに着地をすると、いたずらっ子のような顔を阿照に向けた。

「阿照さん、私も参加させてもらうことにしたの。私も若いアデリーペンギンよ。旅への憧れは強いわ」

「鈴子さん!」

阿照は驚きと喜びでペンペンとしている。鈴子はそんな阿照としばらく見つめあっていたが、急に両フリッパーを頰に当てうつむいた。

「……それに、阿照さんと離れたくないし……」

その言葉を聞いて途端にだらしない表情になる阿照。冒険前とは思えない桃色の空気が二人から漂っている。すると、喝を入れるように混卵が「ゴホン」と大きな咳払いをした。

「君たち! いちゃいちゃペンペンするのなら、連れて行かないぞ!」

その言葉に我に返った阿照と鈴子は、すぐに真剣な表情になり背筋を伸ばす。

「……と、もうすぐ大穴の吸い込みの時間だな。阿照くん、鈴子くん、用意はいいかね?」

「はい、混卵隊長!」

「はい、混卵隊長!」

「では、飛ぼう!」

混卵とともに阿照と鈴子は大穴の上空を飛んだ。陸の方には、おさかな商店街が見える。

――しばらくのお別れだ。大好きなホドヨイ区のおさかな商店街、待っていてくれ――

次の瞬間、大穴に強い吸い込みが起こった。

「今だ! 旅立とう!」

混卵の合図とともに、阿照たち三人は大穴に吸い込まれる。旅立ちだ。行き先はペンギン世界から外の世界。新たな世界を開拓する冒険の旅の始まりだ。

* * *

阿照のプロマイド店には、

「ただいま冒険旅行中のため、プロマイド店はしばらく休業します。 阿照プロマイド店 店主 阿照キュー太(イケペン)」

と書かれた張り紙が出されている。その隣の店、皇帝の氷屋にいるのは、名物「おさかなフラッペ」を食べている王と黄頭とクラゲである。BGMは、慈円津の新曲「順子・我が愛」だ。慈円津は、演歌アイドルとして再出発をして大ブレイクをしている。カチューシャ屋を経営しつつ、カッコ好の芸能事務所に所属したらしい。

「阿照さんたちが冒険に出てから3ヶ月経ったね。早いなぁ」

「早いねぇ、おうさん」

クラゲがくるくると回転しながら言った。

「そういえば、鈴子さんに阿照さんと一緒に冒険に行くのを勧めたのは王さんなんだって?」

皇帝が王の前に二杯目のおさかなフラッペを置きながら尋ねた。

「うん、そうだよ。もどかしくてね、あの二人」

「もどかしくてね、あのふたり……うふふ」

クラゲが楽しそうに王の口真似をしながら黄頭の頭の上にふんわりと乗っかった。

「そうそう、また阿照さんたちからの通信が届いたよ。これがその文面」

おさかなフラッペを食べ終えた黄頭が、阿照から届いた通信を印字した紙を出した。「どれどれ」と王と皇帝がその紙を覗き込む。そこには冒険の数々が書かれている。阿照と鈴子は喧嘩や仲直りを繰り返しながら、混卵隊長の元、たくましく元気に過ごしているようだ。

「阿照さん、生き生きペンペンしているな」

王が「ふふ」と笑うと、頭につけたシュレーターズカチューシャと胸の巾着が微かに揺れた。

* * *

「ペーペ、ペーペ」

人間の幼い男の子が空を指差している。

「どうしたの、キョータくん?」

母親がその子に尋ねた。代わりに答えたのは、同じく空を見上げているその子の兄らしき少し大きい男の子だ。

「お母さん、キョータは、『ペンギン』って言っているんだよ」

「ペンギン?」

「うん、お母さん。だってほら、お空にペンギンが飛んでいるよ」

兄も空を指差した。兄弟の目には小さな白黒の点が三つ見えている。

「リュータくんにも見えるの?」

「うん。見えるよ」

空を見上げる母親には何も見えない。そこに、

「おーい、皆、早く来いよ」

と父親の声が聞こえた。

「ほら、リュータくんキョータくん、鳥さんが飛んでいるのは分かったから、もう行こう。お父さんが呼んでいるよ」

母親に促されたが、幼い兄弟は動こうとはしない。泳ぐように飛ぶ小さな白黒の点を見つめ、しばらく空を向いたままだった。

(浅羽容子作「白黒スイマーズ」 おしまい)


~出演ペンギン~

――アデリーペンギン――

阿照 キュー太

阿照川 鈴子

阿照山 カッコ好

――エンペラーペンギン――

皇帝 ペン一郎

――キングペンギン――

王 サマ義

王 サマ春

王 サマ雪

――ジェンツーペンギン――

慈円津 サエリ

慈円津 順子

慈円津 ジュリー

――ヒゲペンギン――

比毛 ボーボ

比毛 房子

――フンボルトペンギン――

分堀戸 ボルル

分堀戸 ルトト

――ケープペンギン――

景布 アフ信

――ガラパゴスペンギン――

柄箱巣 ス平

柄箱 ス太郎

柄箱川 ス太郎

柄箱山 ス太郎

――マゼランペンギン――

混卵 タイ陸

――ロイヤルペンギン――

貴族 貴子

――イワトビペンギン――

ロック 岩飛

――シュレーターペンギン――

主麗田 キョン介

シュレーターズ

――スネアーズペンギン――

脛圧 ウル不

スネアーズ

――マカロニペンギン――

真軽仁 サラ世

――フィヨルドランドペンギン――

不意夜度 モリ絵

――コガタペンギン――

古潟 ダイ吉

――ハネジロペンギン――

羽白 オサ夢

――キガシラペンギン――

黄頭 ボブ尾

黄頭 マリン

黄頭 マリ尾(卵)

~出演物質・出演動物~

――ビニール袋――

クラゲ

――ヒョウアザラシ――

アザラシ(ヒョウちゃん)

――人間――

省略

~黄頭ナンデモ研究所 発明マシーン~

胃弱マシーン

胃弱マシーン(ハンディタイプ)

胃弱マシーン(防犯ハンディタイプ~家庭用~)

電波マシーン

電波受信マシーン

分身マシーン

分身マシーン(ミニ)

採集マシーン

翼マシーン

着ぐるみマシーン

応急処置用凝固マシーン

大地マシーン

雲ポシェット

整列マシーン

時計型万能通信マシーン

疲労回復肩もみマシーン

おさかな自動引き寄せマシーン

喧嘩仲裁マシーン

眠れぬ夜の子守唄マシーン


浅羽容子作「白黒スイマーズ」最終章 いついつまでもペンペンと(4)、最終回でした。ペンギン世界は崩壊を免れて、みんなで力を合わせて復興中です。黄頭ボブ尾さん&マリンさん&クラゲくんにも家族が増え、阿照さんと鈴子さんも仲良く冒険の旅へ。これからもペンギン世界はペンペン楽しく続いていくことでしょう。長い間のご愛読、本当にありがとうございました。いつかまた、お会いできますようにペン!

浅羽容子さんによる絵と脱力ファンタジー「惑星部屋 4649号室」は半年ほどお休みになります。来春の新連載にもどうぞご期待ください。

ペンギンたちに会いたくなった時には、いつでもここでお待ちしております。

ぜひ第1回「おさかな商店街へようこそ」から読んで、感動をもう一度!

ペンギン達が住む世界の「ホドヨイ区」にあるのは、「おさかな商店街」。今日もペンギン達がわんさかペンペン集まります。さぁ、純ペンギン文学のスタートです!毎週火曜はペンギンの日!( ゚Θ゚ )

ご感想・作者への激励のメッセージをこちらからお待ちしております。新連載もどうぞお楽しみに。

ホテル暴風雨にはたくさんの連載があります。小説・エッセイ・詩・映画評など。ぜひ一度ご覧ください。<連載のご案内>


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