イチダースノクテン 10


〜前回までの登場人物〜

点田はじめ(てんだ・はじめ)……「まるあげドーナツ」の学生アルバイター╱天晴(あっぱれ)大学の学生╱ベーグルが好物╱鳩が苦手╱販売担当

鼻田八戸宗(はなだ・はとむね)……「まるあげドーナツ」の学生アルバイター╱天晴大学の学生╱通称「ハトムネ」╱身長2メートル╱鳩胸で鳩顔╱販売担当

円田揚治(つぶらだ・ようじ)……「まるあげドーナツ」店長╱ドーナツを愛する男╱金太郎のような丸顔

美田薫(みた・かおる)……「まるあげドーナツ」の新人アルバイター╱76歳の老紳士╱身長1メートル80センチ╱新作研究助手╱ひとみの養父

美田滋(みた・しげる)……美田薫の妻╱ひとみの養母

美田ひとみ(みた・ひとみ)……頭に赤いリボンをつけた鳩╱言葉を話す╱鳥締役社長╱ドーナツ店の開店準備中╱美田夫妻の養女

女田ワカ(めた・わか)……「まるあげドーナツ」の主婦パートタイマー╱自称24歳╱本当は74歳╱アルバイト歴21年╱販売と品出し担当

苦田綺麗(にがた・きれい)……「まるなげベーグル」店長╱「まるなげドーナツ」と敵対関係╱美人すぎる╱性格悪い

弱田世鷲(よわた・よわし)……「まるなげベーグル」の学生アルバイター╱天晴大学の学生╱「まるあげドーナツ」から転職╱小心者╱スパイ

牛田(うしだ)さん……カタツムリ╱ドーナツが好物

(はと)……ハト目ハト科カワラバト属カワラバト(ドバト)

動物(どうぶつ)たち……二足歩行╱ポシェットをたすき掛け╱ドーナツが好物╱純金の100円玉を所持

柴田(しばた)……柴犬╱二足歩行╱ポシェットをたすき掛け╱言葉を話す╱ひとみ経営のドーナツ店の店員

貫田(ぬきた)……タヌキ╱二足歩行╱ポシェットをたすき掛け╱言葉を話す╱ひとみ経営のドーナツ店の店長


「ひとみさんと初めて会ったのは、このささやき森林公園で、私が本業の出張に来た夜のことです」

貫田が、丸い腹を合いの手のように時折ポポンと叩きながら話し出したその内容とは――

貫田の本業とは、宇宙ツーリズムの添乗員であり、新しいツアーを企画したため、その下見で風船型宇宙船に乗って地球に来たそうで、このささやき森林公園の夜の芝生広場に降り立った貫田の耳に、

「ポポー」

「ポロポー」

と無数の鳩の声が聞こえてきたので、その声の方に目をやると、夜陰の中、鳩の群れが森の奥深くへと小枝などの資材を運んでいるのが見え、その指揮をとっているリーダーは若く美しい一匹の鳩で、その鳩を見て貫田は宇宙的直感で――この鳩は地球の現地鳩ではない――と思い、そして、その鳩も貫田に気づき気にしている様子であり、鳩とタヌキ、両者の繋がった視線はまさに宇宙的テレパシーそのもので、貫田は手早く宇宙型風船を萎ませポシェットに収納すると、その鳩に近づき、

「こんにちは」

と宇宙語で話しかけてみると、その鳩は、

「コンニチハ」

と同じく宇宙語で返答したが、それに自分でも驚いたようで、

「アラ、私、知ラナイ言葉ノハズナノニ、話セルワ……」

と豆鉄砲をくらったような顔をしているのを見て貫田は、

「私は、この地球からそこそこ遠い星、動物星から出張でやってきた貫田です」

と親しみのこもった口調で挨拶すると、

「この地球から美味しいドーナツが定期的に動物星に飛んでくるのですが、どうやら『まるあげドーナツ』という店のドーナツであるらしく、私の勤める旅行会社で『今、話題のドーナツを現地で食べよう!』というツアーが企画され、添乗員である私が事前調査に来たのです」

と説明をすると、その鳩は、

「マァ、マルアゲドーナツ!」

と驚いた後、片翼の脇から小さな名刺をクチバシで取り出し、

「ワタシ、ひとみデス」

と貫田に渡し自己紹介すると、

「ひとみさん、あなた……普通の鳩ではないですね? 私と同郷ではないのでしょうか?」

との貫田の問いに、ひとみははハトっと息を一瞬止めた後、

「ソウカモシレマセン……」

と言ったのは、ひとみが養父母の美田夫妻から聞いたひとみを発見した時の状況を思い出したからで、そのことを貫田に話すと、

「それは、まさしく、10年前に鳩田さん一家が旅先で失踪した事件ですよ!」

との貫田の言葉にひとみは「ポポー!」と激しく首を前後に振って驚いたが、すぐに落ち着いて、全ての辻褄があったかのような納得をした顔つきになり話し出したのは、

「私ガ、他ノ鳩ト違ウノハ気ヅイテイマシタ……ダッテ、普通ノ鳩ニハ出来ナイ、父サント母サンノ望ム人間ト同ジ事、イエ、ソレ以上ノ事ガ私ニハ出来タカラ……デモ、ヒトツダケ、決シテ出来ナイ事ガアッタノデス……」

という話で、これに貫田は、

「なんなんです、ひとみさん?」

と問うと、ひとみは途端に鎮痛な面持ちになり、

「……カラオケニ行クト、父サンハ、『ひとみ、今流行りの林まさこちゃんの歌を歌ってくれよ』ト私ニリクエストヲシ、母サンハ、『ひとみちゃん、お母さんと“お婿サンバ”をデュエットしましょうよ』ト誘イマスガ……私ハ……私ハ……」

と言うと急に、

「ポッポッポッ、ハトガポッポッ、ポッポッポッポッポッー、ハトガポッポッ……」

と鳩的美声で、令和初期のヒット曲である演歌「鳩歌」をコブシを効かせて歌い出し、最後まで歌い通すと、

「……父サンノ『ひとみ、それは林まさこちゃんの歌じゃないよ! 鳩歌じゃないか!』、母サンノ『ひとみちゃん、お母さん、ほかの歌も聞きたいなぁ~』……ソシテ……ソシテ……二人ノ落胆シタ顔……!」

と語ると「ポポー!」と悲しげに鳴いた――その後、貫田がひとみから聞いた話によると、完璧主義のひとみは養父母の望むような歌、「鳩歌」以外の歌を歌うことができないという自分の欠点に悩みを募らせ、養父母とカラオケに行った翌日、ついに家を飛び出し、地球鳩の集団に紛れ込んだらしいのだが、頭が良すぎるひとみが一般の地球鳩たちのボスになるのは早かったらしく、このまま野良鳩に紛れて暮らそう……とひとみは思ってはみたものの、どうしても脳裏に浮かぶのは、美味しいドーナツを優しい美田夫妻と三人で食べた幸せな光景――しかし、その後に決まって思い浮かぶのは、カラオケでの美田夫妻の落胆の顔であったため、自分は両親の望むような娘にはなることはできない……けれど、帰りたい……でも、帰りたくない……帰れない……と気持ちは堂々巡り、せめて、美田夫妻との思い出のあのドーナツを食べたいが、家出娘なので街に出ることははばかれるし、それでもリボンを取れば目立たなくなるのだが、これだけは絶対に外したくない――で、ひとみは思いついた! ドーナツ店を自分で作ればいいんだ! ひとみは、手下の鳩らに指示を出し、この店を作りあげた……が、いくら頭脳明晰なひとみでも、熟練の技のまるあげドーナツと同じ味を作りだすことは決してできなかったのであった――

と、そこまで話し終えた貫田を美田夫妻は食い入るように見つめ、瞳を潤ませていたが、その一方で、点田とハトムネは、

「ハトムネ……宇宙までドーナツが定期的に飛んでくるってどういうことだろう?」

「分からんね」

と素朴な疑問を話しあっていたのだが、いつの間にか、ひとみの手下の鳩らとドーナツ店の従業員たちも店の前に集まってきていて、その聴衆に向け貫田は再び口を開き、

「今、宇宙ツアーのスケジュールは自由散策なので、添乗員としての仕事がないため、その間はドーナツの味に詳しい私が仮店長としてひとみさんの手伝いをしているだけなので、あと数日でツアー客を連れて動物星に帰還しなくてはなりませんし、これから観光シーズンになるので本業が忙しくなるので、ドーナツ店を手伝うこともできなくなります」

と言った後、貫田は続けて、

「ちなみに、ひとみさんがレシピを盗んでしまったのは、柴田くんやほかの従業員の落胆の顔を見たくない、だけれども、美田さんのいるまるあげドーナツにレシピを借りたいとは頼みに行けない、そんな理由からだと思うので、どうぞ許してあげてください」

と言ってポポンと腹を叩くと、貫田の横に来ていた柴田は、

「ひとみ社長もいないし、貫田店長もいないなら、ドーナツ店は開店できません……僕も宇宙に戻るしかない……」

とワンワンと泣き出しそうな顔になってしまったので、貫田は優しく柴田の肩をさすると、

「ひとみさんだったら、すぐに戻ってくるでしょう――だって、念願のドーナツ店の開店は目前だから!」

と言うと、打ちひしがれる美田夫妻の方を向き、にこやかな顔つきで、

「ひとみさんのご両親、何かあったら私か柴田くんがご連絡いたしますから、今日は解散にしましょう」

と言うと、美田夫妻は、

「……分かりました」

「……ありがとうございます」

と言い、深々とタヌキや芝犬や鳩らに頭を下げ、一同は解散することになったのであった。

(つづく)


浅羽容子作「イチダースノクテン 10」、いかがでしたでしょうか?

ハトガポッポッ、ポッポッポッポッポッー♪
ひとみちゃんの涙の絶唱「鳩歌」、泣けます、泣けますね〜!……? いや家出の理由ってそれ? 美田夫妻、カラオケ教育厳しすぎませんか? えっ、だからそれはひとみちゃんの誤解? う〜ん、親子三人ドーナツ交えて話し合って欲しいものですが、ところで定期的に宇宙にドーナツが飛んでくるって何ですかそれは、そんなことしたら地球系の質量保存の法則が成り立たなくなるではないですか、ドーナツ食べた宇宙人が船でやってきて今度は質量増えちゃうし……って、そこじゃない? はいそうですね、おっしゃる通り、この小説は実は推理小説だったのです、点田君、ハトムネ君、連続ドーナツ投げ事件の謎を解くのじゃよ! 読者のみなさまはドーナツ食べ食べ、待て、次回!

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