
刺繍 第十三話
大日向峰歩 作・小説『刺繍』第十三話。介護は時として、そこに居た人たちに罪の意識を残していく。それは後悔となり、ふとした瞬間に思い出される。それはまるで、巻かれた糸の隙間から垣間見える、下に重なる糸。手繰るように解いていくと出てくるもの。願わくばその先に、一筋の光のようなあたたかい糸がありますように。
毛と山と鉄を愛するサイコロジストが、漏れ出た内言、綴ります
大日向峰歩作・小説『刺繍』
大日向峰歩 作・小説『刺繍』第十三話。介護は時として、そこに居た人たちに罪の意識を残していく。それは後悔となり、ふとした瞬間に思い出される。それはまるで、巻かれた糸の隙間から垣間見える、下に重なる糸。手繰るように解いていくと出てくるもの。願わくばその先に、一筋の光のようなあたたかい糸がありますように。
大日向峰歩 作・小説『刺繍』第十二話。記憶の奥底にあるパンドラの箱は再び沈み、「わたし」は娘として、母である「私」のためにできることを尽くす。介護は、正解のない問いの答えを探すようなもの。それなのに、どうして人は、それが正解か否かを決めようとするのでしょうか。
大日向峰歩 作・小説『刺繍』第十一話。弟、それは母と娘の葛藤を昇華する存在。子どもの頃、母の愛に飢えた「わたし」の心に生まれたタツヤは、息を潜めながら、サチコと共に育ってきたのかもしれません。
大日向峰歩 作・小説『刺繍』第十話。久しぶりの母との二人暮らし。一人残してきた夫との何気ない会話から、〝それ〟は少しずつ綻び始めます。「私」と「わたし」の過去に、一体何があったのでしょうか。
大日向峰歩 作・小説『刺繍』第九話。いろんなことをどれだけ忘れてしまっても、母親の本能を果たそうとする「私」。そんな母との久しぶりの二人暮らしは、「わたし」を思わぬ過去へと誘うのですが……。
大日向峰歩 作・小説『刺繍』第八話。足を骨折していることを覚えていない「私」の元を訪れる「わたし」こと娘のサチコ。そこで交わされる親子の会話。認知症の親とのやりとりは、いつも、同じ場所をぐるぐる回っているようで、その軌道は少しずつずれていくのです。
大日向峰歩 作・小説『刺繍』第七話。認知症になった「私」のその後について、先へ先へと進む姉と立ち止まったまま動こうとしない弟。親の老いという面倒に直面した時、逃げようとするきょうだいは障壁だ。だが、結局逃げるくせに中途半端に手を出すきょうだいは害悪だ。母の介護をめぐる、姉と弟の攻防は果たして決着するのでしょうか。
大日向峰歩 作・小説『刺繍』第六話。現実を理解せず退院をせがむ「私」と面倒だからと後先考えず退院させる弟。ままならない介護は続きます。きょうだいが同じ方向を向いてさえいれば、まだましなのかもしれない。親の認知症を受け止め前に進もうとする姉と、その事実を拒否し、親の役を下ろそうとさせない弟の攻防は続きます。
大日向峰歩 作・小説『刺繍』第五話。たとえ骨折の理由や事実を覚えていなくても、痛みがあれば、その身に何かが起こっていると推測する。そう思う「わたし」の考えは認知症の「私」には通用しない。介護は、相手が自分と違うということを知ること、そして男きょうだいの的外れな関与を止めることで、初めてうまくいくのかもしれません。
大日向峰歩 作・小説『刺繍』第四話。介護において、ただ親のためだけではなく、親と子の双方にとって最も良い方法を模索する子。自身を最優先しない子に抵抗する親。そしてノイズを出す親戚。こうしたことは、何が正解なのかわからないまま、無理に正解を出そうとする、初期の介護あるあるなのかもしれません。