足利直義:これまでのお話を一旦整理させていただくと、要するに「利益も智慧も追求してはいけない」ということになるのではないかと思いますが、和尚の属する禅宗においては昔の偉い人の言行録を「公案」と呼び、それを研究することで悟りを目指そうとしています。
これは、「追求してはいけない」の対象にはならないのですかね?
夢窓国師:昔の人は言ったよ。「フィーリングだけで悟ろうとしてはいけない」、とな。
もしも悟りをそのようなものだと考えているようなヤツがいたとしたら、そいつには公案を研究する資格はない。
碧巌録で有名な圜悟和尚が「ある程度以上センスのあるヤツであれば、何もわざわざ公案など持ち出す必要はない」と仰っていることからもわかるじゃろう?
師匠たちにとって公案など、本当はどうでもよかったのじゃ。
だから、悟りへの手助けとして公案が与えられたとしても、これを仏の名前やお経を唱えるのと同様に考えてはいかん。
何故ならば公案とは、決して極楽往生のためでも成仏のためでもなく、また世間並みの利得を求めるものでもなく、かといって宗派独自のロジックを解説したものでもなく、一般的な感覚ではとてもつかみきれないものであるからじゃ。
まるっきり歯が立たず味もしないところから、これを「鉄でできた饅頭」に例えるのじゃが、それでも必死に喰らいつき続けたならば、遂に噛み砕くことができる時がくる。
そして「鉄饅頭」の本当の味を知ることになるのじゃが、その時には改めて知ることじゃろう。
それは甘いとか辛いとかで表現できるものではなく、手段や理屈でもないということを!
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