電気売りのエレン 第18話 by クレーン謙

魔術を使い、俺は港町へと戻ってきた。
港町の広場に突然と俺が姿を現したので、広場にいた人々は驚き、手にした市場の商品を下に落としたりした。
女が俺を指差し叫んだ。
「見たかい!あれは魔術だよ!この世の裏切り者の魔術師だ、あの男は!」

人々は俺の事を遠まきに見ながら、ザワザワと騒ぎ始めた。
俺はそれらの人々に向かって言った。
「そうだ!俺は魔術師だ。それが、どうしたというのだ?いいか、もう間もなく我ら魔術師がこの国を治める日が再びやってくる!それまで、見ておるがいいだろう!」

俺は更に騒ぎ始めた群衆を後にして、波止場へと向かった。
俺はヴァイーラ伯爵のフリゲート艦に乗り込み、伯爵に「予言の書」を見せてほしい、と告げた。
フレムの動きを知る為、そしてその対策の為に、とも説明したが、相変わらず無表情な顔をしたまま伯爵は俺の話を聞いていた。
フン、こういう所は娘のマーヤと全く同じだ。

「ゾーラ殿、よろしいでしょう。気の済むまで『予言の書』をご覧になってください。どうせ、私には、何が書いてあるのか全く分かりませんのでね・・・・」
そのように言い残すと、伯爵は俺を残して船室を出ていった。
俺は古びて茶色くなった「予言の書」を手に取って、そして慎重にページをめくり始めた。
「予言の書」は我ら魔術師にとっては、もっとも重要な書物だ。

しかし「予言の書」は魔術師討伐軍により焼き払われた、と言われていた。
世界最古の書物であり、我ら魔術師はそこから「いにしえの言葉」を汲み取り魔術に応用していたのだ・・・・。
それだけではない。
「予言の書」にはこの世の成り立ちから、遥か未来の出来事までもが書かれていると言う。
しかし、書かれている言葉遣いは、あまりに複雑で、時には二重三重の意味を含ませながら記述されている為、その意味を汲み取るのがとても難しい。
最初のページは、このような書き出しだ。

最初に虚空ありし
虚空に雷鳴とどろき 「いにしえの言葉」現れし
「いにしえの言葉」が語りし 最古の言葉
最古の言葉が泣き 「水」となし
最古の言葉が笑い 「風」がふき
最古の言葉が怒り 「火」となし
最古の言葉が死に 「土」となる

魔術師であれば、誰もが知っている一節だが、その正確な意味を知る者は誰もいないだろう。
「予言の書」は人が書いたのではなく、神が書いたのだ、という説もあるぐらいだ。

おそらくフレムは「予言の書」で一角獣の事を知り、それで動いているのだと俺は推察した。
俺は何時間もかけて「予言の書」と向き合った。
するとよく読むと、確かに一角獣の記述がいくつか見つかった。
・・・・しかしやはり、その書き方はとても難解で、よく読まないと、その部分の記述を読み飛ばしてしまったりする。
まったく関係のない記述の中に、ふとこのような一節が書いてあったりするのだ。

「言葉」を得た一角獣 この世の民に向け 語りかけん
この世の始まりを そしてこの世の終わりを

俺は頭を抱え込んでしまった。
まるで、意図的に一角獣の存在を分からなくさせる為に書いているとしか思えない。
なぜだ?
しかしフレムは、おそらくはこの謎を何かしら掴んでいて、それで一角獣を探しているのだろう。
俺は見つめていた「予言の書」から目を離し、船室の窓を見ると、そこに見えていた筈の港町が見えなくなっていた。
いつのまにか船が動いていたのだ。

伯爵が船室に戻ってきたので、俺は伯爵に聞いた。
「船が動いているようだが、いいのかね?マーヤはまだ戻ってきていないが」

ヴァイーラ伯爵は冷たい目線を俺に向けた。
「大丈夫です。マーヤが港町に戻るまで、あと三日はかかるでしょう。・・・・それまでに貴殿に見て欲しい事があるのです。それまでは、どうぞごゆるりと、『いにしえの書』を研究なさると、よいでしょう」
と言うと、伯爵はニヤリと笑った。
この男は、何か策略を練っている時だけは、このような表情を見せる。

しばらくすると、海の波が激しくなり、船が縦に横にと激しく揺れ始めた。
「忘却の海」と呼ばれる海域に船は入ったようだ。
この海域は、地元の漁師ですら恐れをなして近づく事はない。
「忘却の海」には常に暗雲がたちこめ、波はとても激しく、稲妻が落雷する海域として知られている。
漁師たちは稲妻を神として畏れ敬っていたので、「忘却の海」に入る事は、特別な祭事がある時以外は、ない。
伯爵が船室の扉を開け、甲板へと出たので、俺も後に続き甲板へ出た。
外は風も強く吹き始め、時折、稲妻が光り、荒れた海に落ちた。
手すりに手をかけ、遠くを見つめながら伯爵は俺に聞いた。

「ゾーラ殿、貴殿の目的は『魔術師が統べる王国』の復権だけではありませんね?」
やはり、この男は抜け目がないな・・・。
俺は伯爵の隣まで行き、同じように手すりに手をかけ、答えた。

「そうだ。俺は『永遠の命』を手にしたいのだ。はるか昔、最高位の魔術師は、死せる者をも蘇らせる事ができた、という。・・・・この国で魔術が復活すれば、最高位の魔術をも手に入れられよう。俺はその魔術で永遠に生きるのだ」
稲妻が頭上でピカリと光り、すぐ近くの海に落雷し、大砲を同時に何発も撃った時のような轟音が響き渡った。
その落雷の光で、船の向かう先に島影が見えた。

その島には、雲をも突き抜ける巨大な塔が建っていた。
その塔を目にした伯爵は再びニヤリと笑い、言った。
「あれです、貴殿に見せたいものは。わが商社が極秘に何年にも渡り築いてきた、『落雷の塔』です・・・」

――――続く

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