俺とヴァイーラ伯爵は、フリゲート艦から渡し船に乗り移り、そして荒波を乗り越え、その島の桟橋に降り立った。
殆ど植物すら生えない、岩と石ばかりの小さな島だったが、そこには驚くほど多くの人々が働いていた。
その殆どは奴隷なのだろう。
我らの国では見かける事はない顔立ちをした彼らは、聞いたこともない異国の言葉で掛け声を掛け合いながら、黙々と仕事をこなしていた。
そうだろう、とは思ってはいたが、やはり伯爵は奴隷業にも手を出していたのだな・・・・。
俺は伯爵の後をついて、島の中央にそびえ立つ「落雷の塔」へと向かっていった。
俺たちが桟橋から塔へと向かう間、奴隷たちは我らに全く関心を示さなかった。
人々から無関心に扱われている彼らは、人に無関心でいる事に慣れてしまっているのだろう。
言葉が通じぬ彼ら奴隷たちは、この島に何が作られているのかすら、理解していないに違いない。
「落雷の塔」の袂にたどり着いた伯爵は塔の上を見上げて言った。
「・・・・あと少しで『落雷の塔』は完成します。完成しますと、ここら一帯の雷はこの塔に落ちます」
俺も塔の上を見上げたが、塔のてっぺんは雲に隠れていて、見る事はできなかった。
しかし、時折雲の合間に光る稲妻は確かに、塔のてっぺんに落雷しているようだった。
塔の上から、タイルで作られた水道管のような長い管が、地上まで伸びているのが見えた。
「あれは、上で集めた電気を地上まで下ろすための管ですよ、ゾーラ殿」
伯爵は俺の疑問を見透かすようにして言った。
「上に落雷した雷は、管を通ってあそこの倉庫に集められます。ご案内しましょう」
伯爵は塔の傍に立つ、石造りの大きな建造物を指差した。
俺たちは倉庫まで歩き、木の扉を開け、中へと入っていった。
「ヴァイーラ伯爵、ようこそ。お待ちしておりました」
中に入ると、油で真っ黒に汚れた前掛けをした巨漢の男が、伯爵に声をかけた。
「ゾーラ殿、この男はここの工場長でしてな。電気を使って、わが商社の新商品を開発しております・・・・」
伯爵は倉庫の中を見渡し、俺に言った。
倉庫には、巨大な樽のような物が所狭しと並べられており、樽の中には金色に輝く電気が波打っていた。
「あれは、電気を蒸留させて、より純度の高い電気を抽出しているのですよ」
「電気を蒸留させている?なんのために?」
俺は伯爵が何かしら企んでいると睨み、聞いた。
「お見せしましょう」
伯爵は不気味な笑みを浮かべながら、巨漢の工場長と共に反対側の扉へと向かった。
不審に思いながらも俺も彼らの後に続き、扉をくぐり抜け外へ出た。
そこは海が見渡せる崖っぷちだった。
崖の上には鋼色に光る少し大きめの大砲が据えられていて、その砲身を海に向けていた。
「工場長、この大砲の威力をゾーラ殿にご覧になっていただこう」
伯爵に命ぜられ、工場長は砲台まで歩いていった。そして伯爵が合図を送ると、工場長は大砲から伸びるロープをグイと引っ張った。
ズガーンと大きな音をたて、大砲が火を噴いた。大砲の砲身から金色に輝く光の玉が飛び出し、海に浮かぶ海鳥が何百も羽を休める巨大な岩に向かっていった。
光の玉が岩に当たると、目がくらむばかりの青白い光を発しながら岩が輝きだした。
そして、しばらくすると、その大きな岩は完全に消えてしまった。
岩があったはずの海面からは、シューシューと音をたてて水蒸気が立ち昇っていた。
ヴァイーラ伯爵はそれを見ながら、悪魔のような笑みを浮かべて言った。
「いかがですかな?あの大砲には、ここの工場で抽出された高濃度の電気が込められておりましてな・・・。
あれは実はというと、あなた方の魔術を応用したのですよ。魔術師が魔術を使うと、何かが消えますな?つまり、何か大きな『力』を使うと、この世から何かが消えてしまうのですよ。
この『電気砲』は高濃度の電気を攻撃目標にに当て、その『力』でその攻撃目標を完全に消し去ってしまうのです。
私は我が商社の艦隊の全てに、この『電気砲』を据えようと思っております。
・・・・・もちろん、この電気砲は高く売れるでしょうから、希望する国があらば高く買ってもらおうと思っています」
俺は伯爵の話を聞きながら、この男を少し甘く見ていたな、と思い始めていた。
「魔術の国」再興が果たされたら、この男との関係は慎重にせねばならんだろう・・・・・。
――――続く
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