「ようこそ猫の国へ」 by クレーン謙

僕はタロウの事が大好きだ。
タロウも僕の事が大好きだ。
タロウはいつも僕の事を 「寝てばかりいる」と言っていて、少し不満げだ。
みんな知っているように、僕たち猫は確かに、よく寝ている。
ごはんを食べたら寝る。
昼間、遊び終わったら寝る。
夜になったら、夜になったで寝ていたりする。

でも僕は本当は寝ている時に、「猫の国」へ行ってるんだ。
猫が寝ている時の寝言を、聞いた事があるかい?
寝言を言っている時には、僕らは「猫の国」で楽しく遊んでいるのさ。

いや、本当の事を言うと、僕は「猫の国」に住んでいる。
でも僕はタロウの事が大好きだから、「人間の国」へと遊びにやってきてるんだ。
猫がとても長く寝ているのは、本当は猫は寝ている時には「猫の国」に行ってるからなんだ。

今日も僕はタロウに会いに「人間の国」へとやってきた。
タロウは猫ジャラシを使って、いつも僕と遊んでくれる。
そして遊び疲れたら、タロウは僕をひざの上にのせて、やさしく撫でてくれる。
これがまた、とても気持ちよくてね。
いつも僕はゴロゴロ言ってしまう。
「あ~あ、また寝ちゃうんだ。つまんないなー」とタロウが言っている。

ごめんねタロウ。
僕は「猫の国」へと戻ってきた。
猫の国では僕らは二本足で歩いていて、ちゃんと言葉だって喋れる。
猫の国には、なんだってある。
スーパーマーケットもあるし、電車も走ってるし、学校だってあるんだ。

僕は学校に行っていて、トムという仲のいいクラスメイトがいる。
僕らは学校が終わると、「マタタビの森」に行って、鬼ごっこをして遊んだ。
トムが僕に聞いた。
「ねえ、君は『人間の国』へ行ってるんだって?どうやったら『人間の国』へ行けるんだい?」
僕はトムに教えてあげた。
「ベッドに入って寝る前に『人間の国』へ行きたいって強く願うんだよ。そうすると、寝ている時に『人間の国』へ行けるのさ」

次の日の朝、学校に行くとトムは僕に言った。
「君の言う通りにしたら、『人間の国』に行けたよ!そこで僕は人間の友達ができたんだ!」
僕は嬉しくなって、タロウの事をトムに話した。
「僕も『人間の国』にとても大好きな友達がいるのさ。言葉は通じないけどね、とても僕に優しくしてくれる」

僕らの話を聞いていた先生が言った。
「ほほう、君たちは寝ている時に『人間の国』へ行っているのかね?ワシも子供の頃は『人間の国』へ遊びに行っていたのじゃよ」
「そうなんですか?先生も『人間の国』へ行っていたんですか?」
「そうじゃ。ワシもとても大好きな人間の友達がいてね」
先生は懐かしそうに言った。

授業が始まった。
学校で僕らは「効率のいいネズミの捕まえ方」だとか「正しい爪の研ぎ方」だとか、色々な事を勉強する。もうすぐ卒業式なので、僕らは色々と勉強しなければいけない。
大人になったら、とても必要な事だからね。

学校も忙しかったし、宿題もあったので、僕はなかなか『人間の国』へ行く事ができなかった。
でも僕はタロウに会いたくなったので、ベッドに入り『人間の国』へ行く事にした。
『人間の国』では時間がとても遅く過ぎてゆく。
僕はもうすぐ卒業なのに、タロウはまだ小学1年生だった。
僕はタロウに「猫の学校」の事を教えてあげたかったけど、僕が「ニャーニャー」と言っているようにしか聞こえない。

タロウはいつものように、僕の頭を優しく撫でてくれる。
僕はまたゴロゴロと言ってしまった。
タロウが心配そうに僕の事を見ている。最近、僕が寝てばかりいるからだ。
仕方がないんだ。最近、学校の勉強とか宿題とかで、とても忙しいからね。
さあ、宿題をしに猫の国へ戻らないと。
ごめんねタロウ。

猫の学校の卒業式の日。
先生は僕ら生徒達の前で言った。
「卒業おめでとう!君たちはこれで一人前の猫じゃ。君たちはもう、一匹でネズミを捕まえる事ができるし、一匹で電車にも乗れるし、映画館にだっていける。
これから、立派な猫として『猫の国』の一員として大いに活躍をしてください!」
猫の学校の卒業生たちは嬉しそうに歓声をあげた。

学校を卒業できたのは、よかったけど、僕の気分は晴れなかった。
あれから、僕は『人間の国』へ行く事が出来なくなったんだ・・・・・。
「人間の国」では、僕が何日も何日も寝たままなので、タロウは僕が死んでしまった、と思っているに違いない。
卒業式が終わると、僕は先生にその事を言った。

注意深く僕の話を聞いた先生は言った。
「・・・・『人間の国』へ行けるのは、子供の猫だけなんじゃよ。君はもう一人前の猫になった。だから『人間の国』に行く事ができなくなったんじゃ」

「そんな!タロウはきっと僕が死んでしまったと思っています!きっと今頃、泣いているにきまっています。
タロウにもう会えないなんていやです。・・・・でももう会えないのなら、
せめて、『僕は猫の国で無事に暮らしているよ』とタロウに伝えたいです!」
僕はベソをかきながら、先生に訴えた。

「・・・・フム。君がそう言うのは分かっておったよ。君とタロウは本当に友達だったからね。 ワシについてきなさい」
そう言って、先生は僕を学校の外へと連れ出した。
僕と先生は電車に乗って、町の中へと向かった。
町の中には大きな宮殿がたっている。その宮殿には「猫の女王」が住んでいる。

先生は駅を降りると、その宮殿へと向かった。
僕は急いで先生の後を追った。
宮殿の大きな門の前には、門番の猫が立っていて、先生を見ると言った。
「猫の学校の先生ですね?女王陛下がお待ちです。どうぞお入りください」
と、そのように門番が言うと、大きな門がギーッと音をたてて開いた。

僕らは恐る恐ると、宮殿の中へと入っていった。
緊張しながら、宮殿の応接間で待っていると、しばらくして「猫の女王」が階段を下りながらやってきた。
とても綺麗な猫だった。
猫の女王は僕を見ると、言った。
「ぼうや、あなたの事は先生から聞きました。人間のお友達に会いたいのですね」
「はい、女王!お願いです!タロウに会わせてください!会わせてくれるなら、僕はなんだってします!」
女王は僕の訴えを聞くと、優しそうにニッコリと微笑んで言った。
「あなた達の友情は本物ですね。私は、その人間が『猫の国』へ来れるように、特別に許可を出しました。 ・・・・もう、ここに来ています。タロウ、お入りなさい!」

そのように女王が言うと、応接間の奥の扉が開いた。
そこにタロウが立っていた。
タロウはとても不安そうな顔をして立っていたけど、僕の顔を見ると、とても嬉しそうな顔になった。
女王が言った。
「以前には、あなたが寝ている時に『人間の国』へ行っていたのですよね?これからは、タロウは寝ている時には自由にいつでも『猫の国』へと来る事ができますよ」

僕はタロウのところへ走っていって、タロウの手を握って言った。
「ようこそ、猫の国へ!こんどは君が『猫の国』で遊ぶ番だよ!」

――――完

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