北の大地に現れし 「いにしえの言葉」を 操りし者
「レイ」と名乗る「光の剣士」と共に この王国を滅ぼさんとす
俺は「予言の書」に記された、この一節を繰り返し読み、その意味する所を考えてみた。
なるほど、「いにしえの言葉を操りし者」とは、確かにフレムの事なのだろう。
それは疑いようがない。
「王国」とは恐らく、ヴァイーラ伯爵の商社の事なのだろう。
しかし「レイ」というのが、本当にあのレーチェルというガキなのだろうか?
「剣士」というには、あまりに子供すぎる。
マヤは霊視能力を使い、レーチェルが「光の剣士」なのだと探り当てた。
マヤには、俺の見る所、常人にはない「力」が備わってはいるが、しかしレーチェルが王国を滅ぼすほどの「力」を持っているとは到底、思えなかった。
まあ、いいだろう。
レーチェルを人質にしたから、それでフレムをおびき出し、フレムさえ始末すれば、障害は取り除く事ができる、と俺は見ていた。
俺は「予言の書」にはまだ隠された秘密があるような気がしたので、注意深く、そこに記された言葉を読んだ。
最初に虚空ありし
虚空に雷鳴とどろき 「いにしえの言葉」現れし
「いにしえの言葉」が語りし 最古の言葉
最古の言葉が泣き 「水」となし
最古の言葉が笑い 「風」がふき
最古の言葉が怒り 「火」となし
最古の言葉が死に 「土」となる
「予言の書」の出だしは、このように始まる。
魔術師であれば、誰もが知っている一節なのだが、その本当の意味を知る者は誰もいない。
言葉どおりに受け取るのであれば、「何もない所」に雷が光り、「いにしえの言葉」が生まれたのだ。
「いにしえの言葉」が語りし「最古の言葉」?
この「最古の言葉」とはいったい何なのだ?
「いにしえの言葉」よりも、更に古い言葉がある、という事なのだろうか。
それとも、「いにしえの言葉」が「最古の言葉」を生み出した、という事なのか?
ここに書かれている「水」、「風」、「火」、「土」。
これらは、魔術師ならば皆知っている、この世を成り立たせている「四元素」の事だ。
我ら魔術師は、これらの四元素に「力」を加え、奇跡を引き起こす。
四元素の概念ならば、理解はできる・・・・・。
しかし、「最古の言葉」が、泣き、笑い、怒り、死ぬ、というのは、いったいどういう事なのか?
俺はあと一歩で、この謎が解けるような気がしたので、必死になって考えた。
どうやら、この一節はこの世の天地創造の事を描写しているのだろう。
もしかすると、これは本当の「神」の事を書いているのではないか。
・・・・・フレムは、この「予言の書」の事を、どこまで理解し、把握をしているのだろうか?
恐らくは、今回のフレムとの勝負は、「予言の書」をどこまで理解しているかに掛かっている。
俺はページをめくり、一角獣の事が書かれた箇所を見た。
「言葉」を得た一角獣 この世の民に向け 語りかけん
この世の始まりを そしてこの世の終わりを
フレムは何十年も、一角獣を探し求めていた。
・・・・・いったい、なぜだ?
少し目と頭が疲れてきたので、俺は「予言の書」から目をあげると、ヴァイーラ伯爵が部下たちに指示を出している最中だった。
フレムが潜伏している漁師ギルドの襲撃に備え、軍船を集めているのだろう。
俺は目を閉じ、目の疲れを休めていたその時、俺の事を誰かが見ている「気配」がした。
俺は「予言の書」をテーブルの上に置き、あたりを見渡した。
「ゾーラ殿、どうなされましたかな?」
ヴァイーラは訝しげに俺の方を見ながら言った。
「・・・・・・伯爵、どうやら誰かが我らの事を監視しているようだ」
俺がそう答えても、伯爵は顔色ひとつ変えずにいた。
「ほう?もしや、フレムが『遠見の術』使い、我らを見ているのでは?」
「いや、俺の『結界』はフレムに破る事はできぬ筈だ。それに、この『気配』はフレムではない。・・・・何か別のモノだ」
「別のモノ?フレム以外に敵がいる、という事ですかな?」
「分からん。しかし相手は俺の結界を破ったのだから、相手は『いにしえの言葉』を自在に操れる者だろう。用心のため、結界の強度を上げておこう」
俺は「いにしえの言葉」で呪文を唱え、結界を更に強固なものにした。
すると、我らを見ていた「気配」徐々に薄れていった。
「気配」が完全に消え去ると、こんどは船室の扉がギーと音を立てて開き、マーヤが入ってきた。
マーヤがレーチェルのいる独房から戻ってきたようだ。
マーヤは無表情な顔を俺に向け、言った。
「一角獣の居場所が、分かったわ」
――――続く
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