電気売りのエレン 第36話 by クレーン謙

「『いにしえの言葉』はボクの父が作りだした『プログラミング言語』なんだ。君達の世界、そこで生まれた生命は全て、このプログラムを基にして創られ、そして進化を続けている。『魔術』とは、このプログラミング言語を使い、世界に変更や変化をもたらす事。
だから、普段ではありえない事や、奇跡的な事象を引き起こす事ができるんだ。
かつて魔術師は、死者でさえ蘇らせる事ができた。それは、魔術師が『いにしえの言葉』を使
い、死者のプログラムを書き換えたからなんだ」

レイが「コンピューター」だとか「プログラム」だとか、聞いた事もない言葉を使い、ワシ達
にこの世の成り立ちを説明するのを、注意深く聞いていた。
どうやらワシ達の世界は、「人工知能」という名の「コンピューター」の中にあるらしい。
魔術とは、創造主の行いの模倣である、と気が付いてはいた。だから、レイの言う「プログラ
ム」の事も、なんとなく理解できた。

「・・・・・レイ、なぜワシらは限られた命しかないのだね?君の話では、プログラム次第で
ワシらは永遠に生きられる筈では?」
ワシは疑問に思った事を聞いてみた。

一角獣はツノをチカチカと光らせながら答えた。
「父は『生命とは何か』という事を、ずっと考えていた。そして、宇宙で生命を誕生させる
シュミレーションを幾度となく、やった。でも上手くいかなかった。父は考えた。この広大な
宇宙も一種の生命体ではないか?と。
父は試しにその仮説をプログラムに取り入れ、宇宙に心があると仮定してみた。

最初に虚空ありし
虚空に雷鳴とどろき 「いにしえの言葉」現れし
「いにしえの言葉」が語りし 最古の言葉
最古の言葉が泣き 「水」となし
最古の言葉が笑い 「風」がふき
最古の言葉が怒り 「火」となし

『予言の書』に書かれた、この最初の部分が、それなんだ。
ここに書かれている『最古の言葉』とは、宇宙の事。『最古の言葉』とは宇宙の言葉なんだ。
宇宙に心がある、と仮定したこのプログラムのおかげで、君達の世界に生命らしき物が現われ
始めた。・・・・でも、まだ何かが足りなかった。それらは、まだ生命の真似事にすぎなかっ
た。そこには魂や本物の生命は宿っていなかったんだ。そこで父は考えた。生命は『死』が
あって初めて生きるのではないか?と。

最古の言葉が死に 「土」となる

・・・・このように、父はプログラムに『死』を取り入れたんだ。命はいつしか死を迎え、土
になり、そしてその土から再び命が再生をする。父は宇宙と生命の関係性を循環的にして、最
後に『死』を取り入れる事で、ようやく魂が宿る生命を誕生させる事に成功したんだ」

ワシは畏敬の念を持って、レイが語る言葉を聞いていた。
「なぜ、我々は生きておるのか?なぜ死なねばらぬのか?ワシはその謎を追い求めておった。
若い頃、ワシは師匠の忠告を聞く事なく、『予言の書』に記された言葉を使い、創造主との対
話を試みた。失敗したがね・・・・」

そう、その時に使った魔術のおかげで、ワシは村をひとつ消してしまった。
ワシはその事を思い出し、胸が締め付けられる思いでいた。

一角獣は少し、うなだれながらワシに言った。
「知ってる。ボクもあの時、あなたとコンタクトを取ろうとしていたんだ。でも、まだ人工知
能の操作方法がよく分かっていなかった。君達の世界には何重ものプロテクトがかかってい
て、侵入をするのが、とても難しいんだ。・・・・・おかげで、村がひとつ消えてしまい、フ
レムの右腕も消えてしまった。ボクが未熟だったせいだ」
そのようにレイが言うのを聞き、ワシは心動かされた。
レイは、まだエレンと同い歳ぐらいであろう。
それなのに、ワシらを救おうと必死になっている。

「実はというとね・・・・・」と一角獣が、今度はエレンとレーチェルの方を向きながら言っ
た。
「君達の世界でいう、その何十年か後に、君達のお父さんと、ボクは会っているんだ」

――――続く

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