電気売りのエレン 第46話 by クレーン謙

僕が握りしめていた光の剣が、長く長く伸び、ドラゴンのような形に変わった。
光り輝くドラゴンは、僕らの頭上でユラユラと体を揺らし、目を赤く光らせていた。
敵の兵士たちは、突如現れたドラゴンを見て、銃を撃つのをやめた。

「エレン!その剣を振るい、落雷の塔の、あの管を切るのじゃ!」

フレムが僕に向かって叫んだ。
落雷の塔を見ると、頂上から地上まで伸びている長い管が見えた。

「あれは、頂上で集めた雷が通っておる管なのじゃ。あれを切れ!その剣は『電気も切れる』
と言われておる!」

僕は両手で剣を握りしめ、落雷の塔の管に狙いを定めた。
そして「うおーっ!」と叫び声を上げながら、剣を振り落とした。
頭上のドラゴンは剣の動きに合わせ、大きな口を開きながら、落雷の塔に向かっていった。
ドラゴンは落雷の塔の、巨大な管に噛み付いた。
そして、今まで聞いた事がないような、恐ろしい音を立てながら、ドラゴンが管を噛み砕いて
いった。
その悪夢のような光景を、袂にいるゾーラと兵士たちが、動きを硬直させながら見ていた。
もはや、ゾーラの魔術でさえ歯が立たなかったのだろう。

管が真っ二つに砕けた。
ゴーッという音をたてながら、真っ二つに砕けた管から、燃えたぎる熔岩のように、電気が流
れだした。
黄金色に輝く電気は、塔の麓の兵士を、まるで火にいる虫のように焼き払っていった。
僕は思わず、その地獄絵図から目を背けた。
熔岩のように流れだした電気は、続いて、塔に隣接する大きな建物に向かってゆく。
電気を浴びた建物はしばらくすると、ボッと火が付き燃えだし、ドン!ズドン!ズガーン!と
爆発をはじめた。
そして、建物がピカリと光り、轟音をあげなら大爆発をして、跡形もなく消し飛んでしまっ
た。
僕は爆風に煽られ、ひっくり返ってしまった。

島の上空を、大爆発から立ち上った黒い煙が覆っていく。
「あの中で、電気砲の砲弾が作られておったのじゃな・・・・・」
建物があった所を見ながら、フレムがつぶやいた。

ドラゴンは消え、光の剣は、元の大きさに戻っていた。
さっきの攻撃で『力』を使い果たしてしまったのだろう。
落雷の塔を見ると、爆発の衝撃でグラグラと揺れていた。やがて、塔はゆっくりと崩れだし
た。
ドドド、ドーッ、地響きのような音をあげながら落雷の塔は崩壊していった。
砂ぼこりと瓦礫が、僕らの所にも向かってきたので、僕らは身を低くして岩陰に隠れた。
マーヤは表情ひとつ変える事もなく、膝を抱えている。

猛烈な砂ぼこりで、周りが何も見えなくなった。
僕の隣で馬のジョーが、ヒヒン、ヒヒーン、といななくのが聞こえる。
僕はレーチェルを守るようにして、抱え込み、落雷の塔の崩落が収まるのを待った。

どれぐらいの時間が経っただろうか?
崩落の轟音がしなくなり、周りを覆っていた砂ぼこりが、少し収まってきた。

僕らは用心をしながら、岩陰から立ち上がり、落雷の塔のほうを見た。
落雷の塔があった所には、瓦礫の山しか残っていなかった。
敵の気配が完全に、なくなっている。
僕らは、手に武器を握りしめ、落雷の塔があった所へゆっくりと歩いていった。

どうやら、ゾーラと兵士たちは皆、落雷の塔の下敷きになってしまったようだった。
僕はレーチェルを抱きかかえ、その光景を見せないようにして、歩いた。
瓦礫の中から、うめき声が聞こえてくる。
フレムは、その声のする方へと向かっていった。

そこに、瓦礫の下敷きになった瀕死のゾーラがいた。
フレムはかがみこみ、ゾーラに語りかけた。
「ゾーラ、ワシはそなたが、こうなるのを見たくはなかった・・・・。魔術は万能ではない。
人間と同じでな。死や運命を前にして、魔術が何になるというのか?」

ゾーラは口から血を流しながら、フレムを見返し、今にも消え入りそうな声で、言った。

「・・・・・オレは、あなたのようになりたかった。皆から尊敬され、崇められる、そのよう
な魔術師に、オレは、なりたかった・・・・・」

その言葉を最後に、ゾーラは目を見開いたまま、息絶えた。

ゾーラが死に、ゾーラとの戦いは終わった。
でも、この島にはヴァイーラはいなかったんだ。
いったい、ヴァイーラはどこに?
ヴァイーラを倒さないと、この戦いは終わったとはいえなかった。

陽が落ち、夜が近づいてきた。
僕は、マーヤにレーチェルのお世話をお願いして、フレムと漁師達とで、死んだ仲間の亡骸を
集めた。
マーヤは結局の所、僕らの味方となった。なぜなのかは、分からない。
でも、マーヤは『いにしえの子守唄』が、光の剣の『力』を目覚めさせる事を知っていた。
マーヤがレーチェルの事を『光の剣士』だと言っていたのは、そんな間違ってはいなかったの
だ。
そして、マーヤとレーチェルのおかげで、光の剣は目覚め、落雷の塔を破壊する事ができた。

僕らは、死んだ仲間達を土に埋め、瓦礫で墓を作った。敵の兵士たちも、埋葬して墓を作っ
た。
フレムは、ゾーラを自らの手で土に埋めた。
フレムはゾーラに土を被せながら、誰にという訳でもなく、言った。

「誰も悪くは、なかったのじゃ。皆、ただヴァイーラに操られていただけなのだ・・・・」
そして、フレムは『いにしえの言葉』で何かを唄うように、低くつぶやいた。
きっと、ゾーラの為に祈りを捧げていたのだろう。

僕はフレムの、悲しそうな顔を見つめながら言った。
「ねえ、フレム。ゾーラはフレムの事が好きだったんだね」
でも、フレムは何も返事をしなかった。

すっかり暗くなり、海の方からザーザー、という波の音が聞こえてくる。
その波の音の中から、聞き覚えのある、僕らを呼ぶ声がした。
僕とフレムが、波打ち際に行くと、人魚の女王が、波から顔を出していた。
女王は光輝く電気クラゲに囲まれながら、波に揺られていた。
フレムは女王の姿を見ると、ひざまずき、深く頭を下げた。

「女王、礼を申し上げる。そなた方、人魚族は身を犠牲にして、我らを救ってくれた」

人魚の女王は、ニコリと微笑み、僕らに語りかけた。

「いいえ、あなた達こそ、人魚族を救ってくれました。落雷の塔はなくなり、海に雷が落ちる
ようになったのです。この戦いで、電気クラゲは殆ど死んでしまいました。・・・でも、雷が
海に落ちるようになったので、電気クラゲは、数をまた増やすでしょう。そして、いつの日
か、人々が『いにしえの言葉』を信じるようになり、再び人魚族は復活するでしょう」

そうだ、人魚は僕らを助けてくれたんだ。
僕はフレムと同じように、ひざまずき、頭を深く下げ、女王の話を聞いた。
女王は穏やかな口調で、話を続けた。

「ゾーラは死んだのですね?でも、ヴァイーラは生きています。ヴァイーラの軍隊は、あなた
方の国に侵攻して、殆どの領土を手中に収めました。でも僅かながら、あなた方の国にはヴァ
イーラに反旗をひるがえす人々がいたのです。その反乱軍の鎮圧をする為、ヴァイーラはあな
た方の国へと向かいました。
・・・・・ここにいる電気クラゲ達は、ずっとヴァイーラの動きを追っていたのです。ヴァ
イーラは落雷の塔が破壊された事を聞き、軍船を率い、この島へ向かっています。でも、もう
私たち人魚族は手助けはできません。これが最後の戦いとなるでしょう。明日には、ヴァイー
ラの軍隊はこの島へとやってきます。・・・・・あなた方のご無事を祈っています」

そう言いながら、女王は疲れ果てた身と心を休めるようにして、電気クラゲと共に波間に消え
ていった。
・・・・明日が最後の決戦。
僕は、汗と埃と血でまみれた光の剣を握りしめ、フレムと同じように『いにしえの言葉』を祈
るように、つぶやいた。
そうせずには、いられなかった。

――――続く

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