僕たちを乗せたギルドの船は『忘却の海』へと入っていった。
『忘却の海』へと入った途端、波が高くなり、船は激しく揺れ始めた。
空に暗雲が広がり始め、雲の上からゴロゴロゴロ、と雷が鳴る音が聞こえてくる。
まるで、これからの戦いを暗示するかのように。
僕らが乗った船以外には、あと二隻、合計三隻の船は、荒れた海を木の葉のように揺れながら
進んでいった。
元々は漁船なので、どれも大きい船とはいえない。
舳先で、フレムが片手で杖をつき、空に向かって歌うように呪文を唱えていた。
しばらくすると、濃い霧が出てきて、あたりを包み始めた。
「フレム、この霧は?」
と僕が聞くと、フレムは日に焼けた顔をこちらに向けた。
「・・・・敵に気付かれぬよう、結界を張ったのじゃよ。しかし、相手はゾーラ。すぐに結界
は破られるであろうな」
「僕たちは、この戦に勝てるのかな・・・・?」
次第に心細くなってきたので、僕はつい本音を口にしてしまった。
フレムは僕の問いに答える事なく、再び視線を前に向け、呪文を唱え続けた。
後ろを見ると、レーチェルが毛布に包まり、青白い顔で足をガクガクと震わせていた。
傍らには、マーヤが無表情な顔で、事の成り行きを見守るように座り込んでいる。
一角獣は、元のジョーの姿に戻っていた。
どうやら、完全に電気が切れてしまったらしい。
ジョーは鼻息荒く、あたりを伺っていたけど、もう喋る事はなかった。
舵を握っていた男が、フレムにヒソヒソ声で告げた。
「・・・・・フレム様。あと5海里ほどで、落雷の塔に着きます」
フレムは呪文を止め、声を落としながら、漁師たちに言った。
「船の帆を下げよ。相手に気付かれぬよう、この先はオールを使い進む」
漁師たちは、音を立てぬよう静かに帆を下ろし、オールを使い船を漕ぎ出した。
漁師たちの顔が、次第に強張っていった。
もはや生きては帰れぬかもしれぬ、皆そう考えているのだろう。
僕らを乗せた船が、荒れた海を進んでいくと、しばらくすると急に霧が消え始めた。
フレムがギョッとした顔をしながら、あたりを見渡した。
どうやら、フレムの結界が破られたらしい。
霧が完全に晴れると、僕らの船は、いくつもの軍船に囲まれていた。
「完全に我らの動きを、読んでおったのか・・・」
フレムが、追い詰められた猛獣のように、低く唸った。
その視線の先に、少し大きめの軍船。軍船の舳先に、一人の魔術師の姿があった。
ゾーラだ。
ゾーラの顔は遠くて、よく見えなかったけど、きっと笑っているに違いない。
ゾーラは持っていた杖を高々と上げ、船員たちに何か命令を下した。
すると、軍船はゆっくりと横に向き始め、船の横腹に据えられた砲門を僕らに向けた。
「撃て!!」
ゾーラが僕らにも、聞こえるような声で叫んだ。
ズガン!と大きな音をたて、大砲が火を噴き、青白く光る砲弾が飛んできた。
光の砲弾は、僕らの右隣の船に当たり、太陽のように眩しく光り始めた。
光が収まると、船は跡形もなく消えていた。
軍船は、次に砲門を僕らが乗る船に向けた。
「エレン!呪文じゃ!教えた呪文を唱えよ!」
フレムが叫んだ。
僕は剣を手に取り、恐怖で震える声で呪文を唱えた。
すると、剣は光輝きながら、長く伸び始め、僕の背丈ほどの長さの光の剣になった。
僕は光の剣を、ゾーラが乗る軍船に向けた。
光の剣は、虹色に輝いていた。
でも、こんな剣で敵に勝てるとは到底思えなかった!
ゾーラは僕の光の剣を見て、一瞬動きを止めたが、決心したように部下に合図を送った。
再び砲門が火を噴き、光の砲弾がまっすぐに僕をめがけ飛んできた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「レイ君!いったいどうしたの?」
レイ君の家に着くと、レイ君は青ざめた顔で、わたしを待っていた。
「マヤ!エレン達が大変なんだ!もう手助けが出来なくなってしまった・・・」
わたしは、レイ君の部屋に入り、机の上に置かれた人工知能を見た。
人工知能に映し出された映像には、海が映っていて、いくつもの大きな船が小さな船を取り囲
んでいた。
「あの小さな船に、エレン達が乗っている。助けてあげたいけど、何もする事ができないん
だ!」
オロオロしながら、レイ君が言った。
「どうして?一角獣を使って助けてあげられないの?」
「だめなんだ。強い電気を当てないと、一角獣を起動する事ができないんだ。・・・・それ
に、起動できたとしても、あと一回しか起動ができない。お父さんがそう設計したからね。一
角獣は三回しか使う事ができないんだ」
わたしは唖然として、人工知能に映し出された映像を見た。
ズガンと音をたて、大きな船が、小さな船に向けて大砲を撃った。
光り輝く光の玉が、小さな船に向かって飛んでいくのが見えた。
――――続く
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