電気売りのエレン 第45話 by クレーン謙

エレンが呪文を唱えると、光の剣が長く伸び、七色に輝きだした。
ワシはゾーラの船が放った電気砲の砲弾が、こちらに向かって飛んでくるのを見ていた。
もはやこれまでか、と思った瞬間、砲弾はエレンの持っている光の剣にスッと吸い込まれ、バチバチバチと電気を放ちながら消えた!
光の剣は、砲弾を吸い込み、青白く光ったが、また元の虹色の輝きに戻った。

そうじゃったのか!
『光の剣』は、電気を飲み込む事ができるのか!
ゾーラは何が起こったのか、理解していなかったようだが、部下に砲弾を込めるように指示を出した。
ゾーラの船は再び、ワシらの船に狙いを定め、そして大砲を撃った。
金色に輝く光の砲弾が、こちらに向かって飛んできたが、やはり、砲弾は光の剣に吸い込まれていった。
大砲の砲身から白い煙が上がっていたが、ワシらの船は何事もなかったように無傷じゃった。
恐ろしさのため、エレンの手は震えていたが、それでもしっかりと剣を握りしめていた。
それを見て、漁師たちは歓声をあげた。

「やはり伝説は本当だったのか!あれはまさしく、敵を打ち砕く『光の剣』!」

勇気を取り戻した漁師たちは、マスケット銃やボウガンを手に取り、敵の船に狙いを定め、反撃を開始した。
もはや電気砲は役に立たなくなったので、敵の兵士たちも銃や弓矢を手に取り甲板に出てきた。
甲板に出てきた兵士たちは、ワシらの船に狙いを定め、そして弓矢を放った。
何十もの弓矢が、空気を切り裂く音を立てながら飛んできた。
飛んでくる弓矢に向かってワシは、杖を向け『いにしえの言葉』で呪文を唱えた。

弓矢は、空中でボッと燃え、灰になり海に落ちていった。
じゃが、あまりにも敵の数が多すぎる。
弓矢や銃の弾が、前からも後ろからも、右からも左からも飛んでくるので、魔術では防ぎようがなかった。
バシッ、ブシッ、と音を立て敵の弾が船に当たり、船体に大きな穴を開けていった。
次に、弓矢が飛来し、ダッ、ダッ、ダダッ、と船に突き刺さった。
シュッと音がして、ワシの隣にいる漁師の胸を弓矢が貫いた。
漁師はうめき声をあげ、甲板に倒れ込み、血を流し、動かなくなった。
漁師が下に落としたマスケット銃をワシは手に取り、敵に向けて撃った。
これだけの数の敵が相手では、魔術は役に立たなかった。

「くそーっ!!」
エレンは叫び声を上げながら、光の剣を振るう。
敵の放った弓矢は、光の剣に当たると灰になったが、やはり防ぎきれなかった。
また一人、また一人と、漁師たちは弓矢や弾を受け、倒れていった。

後ろを見ると、マーヤとレーチェルはマストの陰に屈みこみ、隠れていた。
こころなしか、マーヤがレーチェルの事をかばっているようにも見える。
馬のジョーは狭い甲板の上を、飛んでくる弓矢を避け逃げ廻っていた。
もう一隻の味方の船を見ると、船体は穴だらけになっており、何十本もの弓矢が突き刺さっていた。
・・・・・漁師たちは全員、弓矢が刺さり動かなくなっていた。
エレンはそれを見て、目を背けた。
残りは、ワシらの乗る船だけとなってしまった。

敵の軍船は、ワシらのとどめを刺すため、間合いを詰めてきた。
攻撃が更に激しくなってきた。まるで土砂降りの雨のように、弓矢が我らの船に降り注いだ。
無念じゃ。ワシらは『落雷の塔』に到達する事もなく、ここで命尽きてしまうのか・・・・。
もはやここまで、と覚悟を決めた、その時。
迫ってきた軍船のひとつが、急にボッと火がつき激しく燃え始めた。

いったい何が起こったのか?
ワシは目を凝らして燃える軍船を見ると、船体に無数の電気クラゲが張り付いているのが見えた。
電気クラゲは、バチバチバチと放電をし、その電気で船に火を放っていたのだ。
船は張り付いた電気クラゲごと、炎上していた。
火薬庫に火がついたのだろう。ボンッ!と鈍い音を立て、軍船の横腹が爆発し、黒い煙を上げ
ながらゆっくりと沈み始めた。
続いて他の軍船も次々と、燃え始めた。
体に火がついた兵士たちが、叫び声を上げながら海に飛び込むのが見えた。

ゾーラの乗った船は、その様子を見、船首を反対側に向け、退き始めた。
その行く先に、『落雷の塔』がそびえ立つ島が見えた。

「フレム!あの男を追ってください。そして、落雷の塔を破壊してください!ここは我々人魚族にお任せください!」

声のする方を見ると、海の中で会った人魚の女王が、波間から顔を出していた。

「女王!そなたであったか!恩にきる!」
ワシは生き残った仲間たちに振り向き、指示をだした。
「帆をあげよ!落雷の塔へと向かう!」

ワシらの船は穴だらけになった帆をあげ、ゾーラの船を追い、島へと向かった。
ゾーラの乗った船を見ると、そこにも電気クラゲが張り付いており、バチバチバチと激しく放電していた。
やがて、ゾーラの乗った船が船尾から燃え始めた。
「フレム、電気クラゲたちも一緒に燃えているよ!あれだと、電気クラゲも死んじゃうよ!」
エレンが叫んだ。

「エレン、分かっておる!じゃが、今は落雷の塔を破壊する事だけに集中しろ!彼らの犠牲を無駄にしない為にも!」

ゾーラの乗った船は、燃え尽きる前に島に着岸した。
そしてゾーラと兵士たちは船から降り、落雷の塔へと向かった。
・・・・落雷の塔を死守するつもりじゃな。

ワシらが乗った船が島に着くと、塔のほうから銃弾が飛んできて、漁師の一人に当たった。
漁師はザブンと海に崩れ落ち、動かなくなった。
ゾーラ達は塔に立てこもり、上のほうから銃を使い銃撃を始めた。
ワシらは船から降りると、岩陰に身を隠した。
ギルドの漁師は、もう5人しか残っていなかった。

バンッ!バーンッ!と銃が火を噴き、ワシらが身を隠す岩肌に銃弾が当たった。
依然として敵の数は多い。どうやら銃も多く携えているようじゃった。
エレンは、ハアハア、と激しく息をしていて、今にも倒れそうだった。
エレンは右手で光の剣を持ち、左手でレーチェルを抱きかかえていた。
マーヤは元々『恐怖』という感情を持ちあわせておらぬのだろう。
相変わらず冷めた顔つきでいた。

ワシは岩陰から顔を出し、向こう側を覗くと、塔の袂に兵士が何人もいるのが確認できた。
全員、マスケット銃を手にしている。
・・・・上を見上げると、銃座のような所に、銃を構えた兵士が更に20名程。ゾーラもいた。
ワシはゾーラに聞こえるような声で、叫んだ。

「ゾーラ!お前の本当の望みを、ワシは知っておる!お前は最高位の魔術を手にし、永遠の命を手に入れるつもりじゃな?しかし、聞け!ワシはかつて、魔術を使い、死せる者を蘇らせる事ができた!
じゃがな、蘇った者にはもはや、魂がなかった。
・・・・・・・この世に生きる者には限られた命しかない、それが我らが世界の理じゃ!
永遠に生きる事は出来よう。だが、それは生きる屍と化す事なのじゃ!」

銃撃が止み、あたりは静まりかえった。
しばらくの沈黙の後、ゾーラが島中に響き渡るような声で、怒鳴った。

「貴様は、もうオレの師匠ではない!!」

再び銃撃が始まった。
あまりにも敵の銃撃が激しすぎて、ワシらは身動きすらできなかった。
銃弾が次々と着弾し、岩が、どんどんと削れていくのが分かった。
しびれを切らしてしまったのだろう。
ギルドで一番の弓矢の名手が、立ち上がり、ボウガンをゾーラに向けた。
だが、男は矢を放つ前に、飛んでくる銃弾を浴びた。
男はガクッと膝を落とし、そして倒れこみ、動かなくなった。
これで漁師の生き残りは4人・・・・。

敵の兵士は左右に分かれ、ワシらを挟み撃ちにしようと、ゆっくりと動き出した。
ワシらが敵の銃弾を浴びる事は、もはや時間の問題じゃった。
すると、今まで一言も声を発さなかったマーヤが、レーチェルに語りかけた。

「レーチェル、あの唄を歌って。・・・『いにしえの子守唄』を!」

『いにしえの子守唄』?いったい何の事だ?
すると、気を失いそうなレーチェルは歯をガチガチさせながら、いにしえの言葉で唄を歌いはじめた。
今まで聞いた事がない唄じゃった。
レーチェルが歌い続けると、エレンが手にしていた光の剣が、小刻みに震え始めた。
そして、光の剣はピカッと激しい光を放ちながら、更に長く伸び始めた。
剣は長く長く伸び、その先端が二つに分かれ、野獣の口のように開いた。
開いた口の上には、目のようなものが光っていた。
まるで・・・・大昔に絶滅したドラゴンのようじゃった。

ドラゴンのような姿になった光の剣は、光り輝きながら、我らの頭上で大蛇のようにユラユラと揺れていた。
マーヤは、ワシの方を振り向き、言った。

「エレンとレーチェルのお父さんは、山に居たドラゴンの『力』をこの剣に封じ込めたの。
『いにしえの子守唄』がその『力』を解き放ったのよ。『いにしえの子守唄』は、眠っている大きな『力』を呼び覚ます事が出来るの・・・・」

ワシは言葉なく、光の剣から長く長く伸びたドラゴンを見つめた。
エレンは、姿がすっかり変わった光の剣を握りしめ、呆然としていた。
マーヤは次に、エレンの方に振り向いた。

「エレン、その『力』を使えば、落雷の塔を破壊する事ができるわ!」

――――続く

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