アオリイカ〜買えないのだったら釣ればいいじゃない

アオリイカは頭足綱、ツツイカ目、ヤリイカ科、アオリイカ属に分類されるイカである。胴体が太く、縁辺部には丸い鰭を持ち、これを駆使して遊泳する。定置網や釣りで漁獲され、市場では高額で取引される。また、筋肉には遊離アミノ酸が豊富に含まれており、イカ類の中では最も美味とされ、イカの王様とも称される。確かに風貌も重量感があってイカの王様と呼ばれるにふさわしい形状をしている。

アオリイカはこれまで1種類とされてきたが、3種に分類され得ることが分かってきた。シロイカ型、アカイカ型、クアイカ型の3種である。写真を見る限りこれらの3種を見分けることは非常に難しいと感じる。一方で、現場ではどうやら生息域の分布や水深など、なんとなく違うと思われていたが、見分けが付かない以上同じ種と考えられてきた。ところが、最近の研究でDNAを調べると別種の可能性が高まってきたのである。

アオリイカのシロイカ型、アカイカ型、クアイカ型の中で最も分布域が広い種はシロイカ型で、北海道南部から日本全域、そして東南アジア沿岸、インド洋沿岸、そしてオーストラリア沿岸にも生息している。市場でアオリイカが売られていたらほぼシロイカ型と考えてもいいくらい広く分布している。春が産卵期で、沿岸の海草が生える藻場に卵を産み付けるために岸に寄ったところを定置網などで漁獲される。

シロイカ型アオリイカの寿命は1年と考えられており、春に市場に並ぶ姿は、ようやくあと一歩で産卵というところで捕まってしまう悲劇的な一生を送った哀れな死体ということになるだろう。市場に並ぶ魚介類のみならず、肉、野菜にしても十分成長したところを人間の手によって殺されたり、摘み取られたりした物が並べられているわけで、彼らが人間を恨んでいるとしたらスーパーマーケットはその怨恨の情が渦巻くおどろおどろしい空間なのである。我々は心して買い物をしなければならないし、食品ロスを許してはならない。

一方、アカイカ型とクアイカ型は九州南部から沖縄にかけてと四国南部、小笠原諸島などより温暖な海域に生息している。中でもアカイカ型は最も大型に成長し、王様の中の王様、King of Kings なのである。市場で取引される金額も王様で、豊洲市場に入荷するアオリイカの値段は、数量の少ない8月では1㎏あたり5,000円を超えており、1匹2万円を超える可能性もある。しかも、豊洲市場で取引される金額なので、我々が居酒屋などで食べるときには更に高額になっていると考えると、そう易々と一般庶民の口に入る物ではない。

そんな高級魚を買わずに手に入れてしまうことができる方法がある。そう、自分で釣るのである。2020年初頭から始まったコロナウイルスの蔓延で人々の行動様式が一変した。不要不急の外出の自粛が求められ、リモートワークによって自宅から出ない日が増えた。一方でレジャーの欲求は抑えることはできず、密にならないレジャーとして釣りが注目されたのである。

「レジャー白書2020」によると日本の釣り人口は670万人と推計される。これはコロナ以前の人数で、最新のデータとして海上保安庁のホームページには780万人という数字も出ている。いずれにしてもここ数年で釣り人口が増えたことは間違いないようである。私の周りでも釣りの話題が増え、釣果やらポイントやらの話について行けてない。さながら平家の世の源氏の気分である。

私の周りには毎週のように釣りに行くコアなアングラーが多いのだが、世の中には年に数回しか行かない人もいるわけで、様々な頻度で釣りを楽しむ人をひっくるめて780万人となる。北海道ではアオリイカの分布は南部に限定されていることから、ほとんど行われていないものの、関東から西の地域ではアオリイカを狙った釣りが人気である。

アオリイカ釣りには餌木と呼ばれるルアー釣りと、アジなどの生き餌を泳がせて食らいついたところを釣るヤエンまたは浮き釣りの大きく分けて2種類がある。それぞれテクニックが必要であるし、場所の選定も重要である。狙いは春先の産卵期に、沿岸によってきたアオリイカである。海草が生えた入り江があれば最高のポイントと言えるだろう。卵を産む前に腹ごしらえをしようとして小魚やエビを狙ったところをだまして釣る訳なので、釣り人は詐欺師と言っても過言ではない。

アオリイカの漁獲量は徳島県だけで年間50トンから200トン、豊洲市場に上場される量は100トン前後である。全国の漁獲量については詳しい統計が確認できなかったが、1,000トン程度ではないかと推定される。一方で、全国の釣り人のうち1%の人が年間1匹のアオリイカを釣ったとする。すると、780万×0.01×1=7.8万匹/年の漁獲量となるはずである。1匹あたり2kgと仮定すると、156トンのアオリイカが釣り人によって漁獲されている計算になる。仮定の条件は様々考えられるものの、豊洲市場に上場される量を上回る量が釣られていると推定され、釣りによる漁獲も無視できない。

アオリイカの漁獲量は全国的には少ないので国の統計には「その他のイカ」としか記載されていないが、多くても数千トン程度だろう。これらの数値をもとに試験研究機関が資源管理の方策を検討しているのだが、これまでは釣りなどのレジャーによる漁獲はほとんど考慮されてきていなかった。総漁獲量の1割程度が釣りによって漁獲されているとなると資源管理にも大きな影響を与えている可能性がある。このことを踏まえ、漁業もレジャーも両立できる資源増大策を考えなくてはならない。

(by ぐっちー)

※このエッセイ「妄想生き物紀行」第61回はポッドキャスト番組「妄想旅ラジオ」第61回「アオリイカ」と関連した内容です。ポッドキャストもお聴きになると一層お楽しみいただけますのでぜひどうぞ! ポッドキャストはインターネットのラジオ番組で、PCでもスマホでも無料でお聴きいただけます。旅ラジオ」は、ぐっちーさん、ポチ子さん、たまさんの3名のパーソナリティーが毎回のテーマに沿って「生き物」「食べ物」「旅」について話す楽しいラジオ番組です、詳しい聴き方などは「妄想旅ラジオ」のブログを。

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今回もお読みいただきありがとうございます、編集担当・ホテル暴風雨オーナー雨こと斎藤雨梟です。

こんにちは!

イカの種類、正直あまりわかっていません。なんか美味しいやつとイマイチなやつがあるなあくらいのいいかげんな認識。あまりにイカに申し訳ないのでまずは勉強、とまずはアオリイカのシロイカ型、アカイカ型、クアイカ型を画像検索してみましたが、ぐっちーさんの言う通り見分けをつけるのは至難の業と見ました。でもアオリイカがイカの中でも好きな形のイカであることは判明。丸っこくてかわいいです。ダイオウイカもいいけれどダイオウホオズキイカが好きです。

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