ナマズ〜神経質なナマズは地震予知に貢献するのか

ナマズはナマズ目、ナマズ科、ナマズ属の硬骨魚類である。狭義の意味では日本で一般的にみられるマナマズのことを言うが、近年アメリカから移入してきたアメリカナマズと区別するためにニホンナマズと呼ばれることもある。日本に生息するナマズ属にはマナマズの他にビワコオオナマズ、イワトコナマズ、タニガワナマズの4種が確認されている。このうちビワコオオナマズとイワトコナマズは琵琶湖固有の種で、ニゴロブナやゲンゴロウブナ、スクリューバリスネリア同様、琵琶湖には固有種が数多く見つかっている。

マナマズはロシアのアムール川からベトナム北部まで東アジアに分布する。日本ではもともと西日本にしか生息していなかったと考えられており、中世以降に人間の手で移動させられたといわれている。本来であれば東日本のマナマズは外来種なのかもしれないが、いつの時代を起点とするかは難しいところである。

マナマズは大きく開く口の上下にそれぞれ1対のヒゲがあり、泥の中でも餌を見つけることのできる感覚器官として機能している。ところが、ナマズは顔に似合わず神経質である。振動に敏感で、ナマズを釣る場合はできるだけ足音を立てないようにして釣らなければならない。ご存じの通り、ナマズは古来から地震を察知する能力があると考えられており、このような性格が地震予知能力と関係していると考える根拠となったかもしれない。

ナマズと地震予知に関する研究は以前から行われてきたようである。ナマズの行動を観察し、地震が発生した直前の動きと照らし合わせてナマズが地震に対して感受性があるかどうかを見極めようという試みである。しかし、ここには大きな問題点がある。地震はいつ発生するか分からないうえに、24時間ナマズを観察してその行動を定量的に記録しなければならないのである。

ビデオカメラがなかった時代は24時間交代でナマズを観察しなければならなかったし、先述のようにナマズは震動に敏感であるため、観察者の動きにも反応してしまっている可能性を排除できない。ビデオカメラが使えるようになってもそれを解析するのはやはり人間であり、毎日3人がそれぞれ8時間ナマズが映っているビデオを見続けなければならない苦行を強いられるのである。いくら学生さんは時間に融通が利くといえども、朝から晩までナマズの映像を見続ける研究を担当教官から指示されたらアカハラと言われても反論できないのではないだろうか。

ところが、近年になってAIを駆使した観察が可能になってきた。その結果人的リソースを極端に消費しない長期間の観察が可能となり、いくらか進展がみられたようであるが、ナマズの行動と地震の明確な関係性を見いだした研究は報告されていないようである。更に地震が発するどのような物理現象がナマズのどの器官で受容しているかなどというメカニズムは全く解明されていない。ゆえに、現在のところ地震とナマズの行動についての関連は不明のままとなっている。地震予知についてはナマズのみならず、地震雲、珍しい海底生物の捕獲などについて関連が研究されてきたが、いずれも関係性を見出すことはできていない。

地震予知については明治38年(1905年)当時、東京帝国大学には地震学の専門家である大森教授と今村助教授が在籍していた。学位を取ったばかりの今村助教授はこの年、「今後50年以内に東京で大きな地震が発生する」と雑誌に発表し、このことが新聞で取り上げられ東京では大きな騒ぎになった。当時の上司である大森教授は世界で初めて記録式地震計を発明した地震学の大家だったのだが、今村助教授の警告を否定して二人の関係は険悪になったと伝えられている。しかし、それから18年後の大正12年(1923年)に関東大震災が発生している。

大森教授の人々を混乱させることはしたくないという気持ちも分かるし、今村助教授のできるだけ被害を減らしたいという気持ちも分かる。結果的には大きな被害が出てしまった訳だが、この時から本格的な地震予知の研究が開始されたと言っても過言ではない。今村助教授は過去の資料からある一定の周期で地震が発生していることを根拠に警鐘を鳴らしていたが、その後は測量などから地面のひずみを根拠に予知をするようになった。

1980年代には地震計やGPSを使った測位形などの計測機器が発達して地殻変動を記録するうちに地震予知が可能であるという雰囲気がつくり出されてきたようである。ところが、1995年の阪神淡路大震災では全くその予知があてにならなかった。地震学者達は自信を失ったのである。

その後、我々は2011年3月11日の東日本大震災を経験することになるのだが、この時は多くの人がその2日前に発生したマグニチュード7.1の地震が本震だと思っていた。60㎝の津波を観測していたが、まさか10mを超える津波が来るとは誰も想像していなかったに違いない。数字だけみても全く想像できないが、今は映像が残されており、大きな地震と高い津波はセットであると強く印象に残っている。

今後予想される首都直下型、南海トラフなど、地震は日本全国で何時起こってもおかしくない状況である。これらは瓢箪でナマズを押さえるように、とらえどころの無い”予測”ではなく、近いうちに必ず起こる”予定”と言っても過言ではないのである。

(by ぐっちー)

<編集後記>

※このエッセイ「妄想生き物紀行」、今回は、ポッドキャスト番組「妄想旅ラジオ」第45回「タヌキ」と関連した内容でお送りしています。ポッドキャストはインターネットのラジオ番組で、PCでもスマホでも無料でお聴きいただけます。「妄想旅ラジオ」は、ぐっちーさん、ポチ子さん、たまさんの3名のパーソナリティーが毎回のテーマに沿って「生き物」「食べ物」「旅」について話す楽しいラジオ番組です、詳しい聴き方などは「妄想旅ラジオ」のブログを。

ぐっちー作「妄想生き物紀行」第46回「ナマズ〜神経質なナマズは地震予知に貢献するのか」いかがでしたでしょうか。

今回もお読みいただきありがとうございます、編集担当・ホテル暴風雨オーナー雨こと斎藤雨梟です。

こんにちは!

ナマズと地震予知、実に興味深い話題です。日本では、特に関東大震災以降、多くの地震の研究がなされてきましたが、地震の起こる日時・規模を正確に予知するには至っていない一方、ナマズを始め鳥やネズミなどの動物が「地震の前に大群をなして逃げていくのを見た」などという話が聞かれたりと、いろいろな意味でまさに「地震大国」の様相です。ナマズを観察してもしなくても、「とにかく地震はいつかかならず起こる」これが長年の研究の成果……なのでしょうか。

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