マメ〜メンデルは優秀だったから「メンデルの法則」を発見できたのだろうか

「妄想旅ラジオ」ポッドキャスター ぐっちーが綴るもう1つのストーリー「妄想生き物紀行 第8回 マメ〜メンデルは優秀だったから「メンデルの法則」を発見できたのだろうか」

マメと言っても定義が難しい。ここでは被子植物門、双子葉植物綱、マメ目、マメ科の植物のことを指すことにする。マメの代表例としてダイズ、エンドウマメ、アズキ、インゲンマメ、ラッカセイなどを思い浮かべるだろう。しかし、マメ科の植物は食用だけにとどまらず、スイートピー、オジギソウ、ルピナスなどの観賞用も含まれる。更にフジ(藤)やアラビアゴムノキのように木も含まれるのである。

マメといえば、メンデルがエンドウマメを使って遺伝に関する実験を行ったことが有名である。司祭であったメンデルは1856年から1863年にかけて、修道院の中庭でエンドウマメを育てて、花の色、種の形状、背丈など7項目について、親世代から子世代にどのように形質が遺伝するかを観察したのである。現代に生きる我々にとってDNAの存在については周知の事実であるが、当時の認識としては液体状の物質が関与している説があった。

太古の昔から人類は家畜化を行ってきたことから、メンデルの時代も形質の遺伝については疑っていなかっただろうが、その法則性については発見に至っていなかった。メンデルは神に仕える身として、神が創った法則を解き明かしてみたいと考えていたのかもしれない。メンデルも当初は他の人が行ってきたように、例えば花の色が赤と白をかけ合わせて、その次の世代を観察したかもしれない。しかしそれでは法則を見いだすことは不可能だっただろう。

メンデルの功績は純系を作ったことにある。花の色で例えると、赤い花と赤い花をかけ合わせても白い花が咲くことがある。また、白い花と白い花をかけ合わせると必ず白い花が咲く。この事はメンデルも気付いていたはずである。そこでメンデルは赤い花と赤い花をかけ合わせると必ず赤い花が咲く系統を確立させ、これを使って実験を行った。

メンデルは純系を作る前から遺伝の法則を頭に描いていたのではないかと思う。遺伝子の正体は粒子状の物質で、両親からひとつずつ受け取る。そのうち、どちらか一方でも赤い花を咲かせる遺伝子を持っていれば赤い花が咲き、どちらも持っていなかったら白い花が咲く。この仮説を立証するために純系を作る地道な作業が行われたのだと推測する。歴史的事実を並べれば、純系を作って交配させて、その結果からメンデルの法則が導き出されたわけだが、実際は上記の仮説に基づいて純系を作ったら仮説が立証されたというのが科学的手法である。私も実はこれを習った当時は先に純系を作ったと思っていた。

メンデルの実験はその思惑通り立証された。つまり、赤い花を咲かせる遺伝子をAとし、それを持っていない場合をaとすると、おしべ、めしべからそれそれAまたはaが渡され、AA、Aa、aA、aaの4パターンが生じる。花の色はそれぞれ、赤、赤、赤、白となり、花の色の割合は赤:白=3:1になった。この結果は花の色だけではなく、種の形状、背丈など7項目においてもこの法則が成立した。

メンデルは感動したに違いない。自分の考えた仮説通りの結果になったことはもちろん、神が創った法則を解き明かしたという、司祭としての満足感は非常に大きかっただろう。そしてメンデルはこの結果を論文にまとめ、1866年にブリュン自然科学会誌で発表した。ところが、このブリュン自然科学会誌はマイナーな雑誌で、ドイツ語で書かれていたことから、多くの人の目に触れることはなかった。メンデルは遺伝学においては無名のまま1884年にこの世を去った。

ところが、メンデルの死から約15年後、3人の科学者が別の方法でこの遺伝法則にたどり着いた。そしてメンデルの遺した論文を再発見し、英語の翻訳して世界に広めた。この時初めてメンデルが発見した法則のことを「メンデルの法則」と呼ぶようになった。ゴッホ、ゴーギャン、エドガー・アラン・ポー、シューベルトなど、生前はあまり評価されなかったが、死後になって高く評価された人物は多いものの、それらは芸術の分野で顕著である。学術分野で死後に高評価された人物はメンデル以外では見当たらないのではなかろうか。その理由としてメンデルは司祭という職業の傍ら研究を行っていたことが大いに関係していると思う。学問を生業とするためには生前から評価される必要があるが、別の仕事をしながら学問をする場合にはその限りではない。私の死後、このエッセイが評価されるかもしれない。

メンデルの法則には「優性の法則」、「分離の法則」、「独立の法則」の3つあるが、それぞれの内容についてはここでは触れない。ここで触れなければならないのは「優性」という言葉だ。2017年9月11日に日本遺伝学会から「優性・劣性」をやめ、その代わり「顕性・潜性」を使うことが提案された。遺伝学的に優性とは、ある遺伝子を持っていると形として現れる事を示すが、優性と聞くと優れた遺伝子であるとの誤解を生じる危険性があるためこのような提案に至った。先程の花の色の例でいうところの赤色を発色する遺伝子が優性である。白い色の花は劣った花ではない。

また、創作物も優性・劣性で語られるべきではない。あるのは個人の嗜好である。それを測る尺度としてのページビューであったり、販売部数であったり、価格であったりする。これらを取り巻く数字は顕性を量る上で重要ではあるが、優性を量る指標にはなり得ない。メンデルは生物学が苦手だったそうだが劣性ではなく、むしろ数学的手法を用いて生物学にアプローチしたことでそれは潜性であった。メンデルの死後、世界中がその名を知るところとなった現代では、メンデルの功績は顕性である。

<編集後記>

※このエッセイ「妄想生き物紀行」は、ポッドキャスト番組「妄想旅ラジオ」の第8回「マメ と関連した内容です。ポッドキャストはインターネットのラジオ番組で、PCでもスマホでも無料でお聴きいただけます。妄想旅ラジオは、ぐっちーさん、ポチ子さん、たまさんの3名のパーソナリティーが毎回のテーマに沿って「生き物」「食べ物」「旅」について話す楽しいラジオ番組です。リンク先に聴き方も詳しく載っていますので、ぜひ合わせてお楽しみ下さい。

ぐっちー作「妄想生き物紀行」第8回「マメ〜メンデルは優秀だったから「メンデルの法則」を発見できたのだろうかいかがでしたでしょうか。

今回もお読みいただきありがとうございます、編集担当オーナー雨こと斎藤雨梟です。

こんにちは!

「生き物」というとつい動物をイメージしてしまいますが、今回は初めて植物がテーマです。ラジオでも「生物界でマメといえばメンデルです」という言葉を皮切りにメンデルの研究が紹介されていましたが、その時(2015年1月)には登場しなかった言葉が「顕性」「潜性」のふたつです。「顕在」と「潜在」、「顕熱」と「潜熱」などでおなじみの「顕」「潜」ペアなので、並べてみると何となく意味の見当はつきますが、これらを「優性」「劣性」の代わりに使うことが提案されているとは知りませんでした。2017年のことだそうで、さすがぐっちーさん、新しい情報をキャッチアップしているのですね!

最近思ったことなのですが、エッセイ内の「赤い花」「白い花」のたとえで言うと、白い花ばかりのところにはもはや白い花の遺伝子しかないけれど、一見赤い花ばかりのところには、実はどれだけの白い花の遺伝子が潜んでいるかわからないわけで、こういう状況を表すにも「劣性」より「潜性」はぴったりですし、何らかの点でマイノリティである人(誰もがそうかもしれません)にとっても少し勇気の出る話だという気がします。

さて、顕性と潜性について、マメについて、メンデルについて、などなど

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にて今回も、ぐっちーさんにあれこれお聞きしてみたいと思います。

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