アルマジロ〜丸くなることで世界平和が訪れる?

「妄想旅ラジオ」ポッドキャスター ぐっちーが綴るもう1つのストーリー「妄想生き物紀行 第13回 アルマジロ〜丸くなることで世界平和が訪れる?」

アルマジロは主に南米に生息する哺乳類である。全身が硬い鱗状の鎧で覆われているが、これは体毛が変化したといわれている(※実は体毛由来ではなく皮膚と骨由来である)。しかし、体毛が鎧に変化するなどにわかには信じがたい。人間であれば加齢とともに白髪になったり、抜け落ちたりと体毛に変化が生じてくるが、アルマジロも加齢による白鱗化や脱落などあるのだろうか。

「最近、年のせいか鱗に白いものが混じるようになってさ」

「おまえはまだ良いよ、俺なんかてっぺんが抜けてきちゃった」

「お互い年だね、最近はすぐ目が覚めてしまって、12時間寝るのがやっとだよ」

「年は取りたくないね」

この様な会話がアルマジロ界の居酒屋で繰り広げられていることだろう。ちなみに、アルマジロは夜行性で、昼間は地面に穴を掘って18時間ほど寝ているらしい。人間界ではロマンスグレーなどと白髪を肯定的に表現することがあるが、アルマジロの場合はシルバースケールとでも言うのだろうか。全身の鱗がシルバーのアルマジロがいたらアルマジロ界のみならず、人間界でも話題となるだろう。

一方、禿げてきてしまったアルマジロは見た目が悪いだけでなく、生存の危機さえ感じるだろう。そうなればアルマジロ用のカツラが出回るかもしれない。その場合おそらく保険が適用されるに違いない。あるいは、お洒落なアルマジロは自分の鱗を赤や紫に染めるかもしれない。

アルマジロはこの鱗状の鎧をまとい、丸くなることで外敵からの攻撃を耐えてやり過ごす生残戦略を採用している。しかしながら、すべての種類のアルマジロが完全に丸くなることができるわけではない。完全に丸くなることができるのはミツオビアルマジロ属の2種だけだ。他の種では丸くなることはできるが、隙ができてしまうらしい。

アルマジロは鱗状の鎧を強化する方向と、体を丸くする方向の2軸で進化してきたと考えられる。すべてのアルマジロはこの硬い鎧を身にまとっていることから先に鎧の強化に成功し、あとはどれだけ丸くなれるかが焦点であろう。そういった観点から見ればミツオビアルマジロ属が最も進化したグループと言える。しかし、完全に丸くなることが出来なくても他のアルマジロは生残していることを考えれば、ある程度丸くなることが出来れば十分生き残ることが可能であるとも言える。つまり、そこまで丸くなる必要が無いのに完全に丸くなるまで進化してしまったのである。

このように、一度進化の方向が決まると、ある程度その方向への進化が続くように見える現象を定向進化と呼んでいる。化石で発見されるゾウの祖先は小型で牙が短く、鼻も短かったが、進化するに従い現在のゾウのサイズまで大型化している。ゾウの祖先は牙がある程度大きいと同種内での競争や餌の採取に有利だったかもしれないが、現代のゾウのように先が内側に向いていると不利に働く可能性の方が大きい。こういったある程度までは生残に有利だった形質が継続的に進化して、不利と思われるくらい極端に進化することを定向進化というのである。

しかしながら、この定向進化説は現象を説明しているに過ぎず、分子遺伝学の観点からも論理的な説明が出来ない。定向進化説は言わば、ポケモンの「進化」と似ていて、ポケモン自身が別の形態を付加させ、強化させているイメージに近い。

ではなぜ、このような極端な進化をしてしまうのだろうか。おそらく、ある程度まで生残に有利だった形質は自然淘汰によって生き残るが、生残に不利になる頃かその少し前に性選択が働いているのではないだろうか。性選択とは異性による選択のことで、ゾウでいうところの牙が大きい方が生殖相手として選ばれやすいということである。アルマジロも仲間内でどれだけ丸くなれるかを基準とした性選択が働いている可能性があるかもしれない。

「ねえ見て、あの人背中の丸みがとてもセクシーね」

「あの人は頭隠して尻隠さずだわ」

このような会話がアルマジロ界有閑マダムのランチ会で繰り広げられていることだろう。ちなみに本当に性選択が行われているかは不明である。

年を取ると丸くなるといわれる。体型のことではないが、それは否定しない。抜け毛に心を痛める中年オヤジや、若い男を値踏みする有閑マダムも、更に年を取れば丸くなるはずである。若い頃はハリネズミだったんじゃないかと疑いたくなるようなアルマジロ界のオヤジやマダムもまた丸くなる。

子供の頃は、ショッピングセンターのおもちゃ屋で、いくら駄々をこねても買ってもらえなかったのに、孫に対してはホイホイと買ってやるじいじのように丸くなるはずである。私としては不満であるが、こうして上手く回っていくのならば良しとしなければならない。完全にではなくても良いので、アルマジロのようにすべての人が丸くなれば世界平和が訪れるはずである。

(※)本コラム公開後、読者からの指摘によりアルマジロの鎧は体毛由来ではなく、皮膚と骨由来であることが判明しました。お詫びして訂正いたします。

<編集後記>

※このエッセイ「妄想生き物紀行」は、ポッドキャスト番組「妄想旅ラジオ」の第13回「アルマジロ と関連した内容です。ポッドキャストはインターネットのラジオ番組で、PCでもスマホでも無料でお聴きいただけます。妄想旅ラジオは、ぐっちーさん、ポチ子さん、たまさんの3名のパーソナリティーが毎回のテーマに沿って「生き物」「食べ物」「旅」について話す楽しいラジオ番組です。リンク先に聴き方も詳しく載っていますので、ぜひ合わせてお楽しみ下さい。

ぐっちー作「妄想生き物紀行」第13回「アルマジロ〜丸くなることで世界平和が訪れる?いかがでしたでしょうか。

今回もお読みいただきありがとうございます、編集担当オーナー雨こと斎藤雨梟です。

こんにちは!

アルマジロ、やっぱり丸くなった姿はかわいいですよね。性選択ではなく人為選択が働いたらまん丸が優位になる気がしてなりません。さて、名前からして何だか異国情緒があり謎めいていてかっこいいと思っていたアルマジロですが、「妄想旅ラジオ」放送のぐっちーさんのお話を聞いて知ったところ、語源は英語でいうと「armored」つまり「装甲した」「装甲の」という、そのまんまな意味だそうです。もっと南米の山奥に自生する、花は妙薬だが根は猛毒になる珍種の植物と共生しているとかそういう意味かと思ったんですが。思いませんか。違いましたか。

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それはさておき、今回もやります、Twitterで話そう企画。アルマジロについて、ロマンスグレーとシルバースケールについて、アルマジロ界の居酒屋についてなどなど、ぐっちーさんとあれこれお話しようという企画です。

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