昼寝〜昼寝ができるホワイト企業だと思っていたら、実はブラックでした

昼寝をすると効率がアップするらしい。スペインのシエスタが有名だが、午後からの1時間ほど昼寝休憩のため業務を中断する。つまり、朝一番は100%のパフォーマンスで仕事ができていたが、午後になるとパフォーマンスが低下して仕事が非効率になってしまうため、昼寝でパフォーマンスを上げるという寸法である。パワーナップという新語を用いて昼寝を推奨するホワイト企業も近年登場しているようである。

仮に、午前9時の仕事パフォーマンス量を100として、1時間ごとに5ずつ減少するとしよう。昼休憩は1時間とし、1日8時間勤務する。午前9時の仕事パフォーマンス量は100であり、10時は95である。11時は90で、昼休憩後の13時は85、そして退勤時間には65まで低下している。一方で昼寝を推奨するホワイト企業では午前中は同じパフォーマンス量であるが、午後は14時までシエスタをとることでパフォーマンス量が100まで回復する。

※勤務形態によるパフォーマンス量の変化

勤務時間帯 通常勤務(昼寝なし) ホワイト勤務(昼寝あり)
9時 100 100
10時 95 95
11時 90 90
12時 昼休憩 昼休憩
13時 85 シエスタ
14時 80 100
15時 75 95
16時 70 90
17時 65 85
総パフォーマンス量 660 655

ここで注目して頂きたいのが、総パフォーマンス量である。総パフォーマンス量は各時間のパフォーマンス量の総和である。今回の計算結果では昼寝なしの通常勤務の方が総パフォーマンス量は高い値を示した。シエスタをとると効率よく仕事ができるかもしれないが、全体の仕事の進み具合は僅差で破れた。つまり、経営者側からすると昼休憩は法律で定められた1時間で十分であり、それ以上は総パフォーマンス量が低下する。この結果ではシエスタは広まることはないだろう。

ところが、彼らを1時間残業させた場合、どちらが総パフォーマンス量が高いだろうか。18時の通常勤務ではパフォーマンス量は60に低下しているが、ホワイト勤務では80をキープしている。つまり総パフォーマンス量は720と735になり逆転するのである。ホワイト勤務は残業させた場合により効果が発揮できるのである。あなたが経営者だったら残業させるべきと考えるだろう。なんと、ホワイト勤務は残業を前提としており、実はブラック勤務だったのである。

さて、昼寝はホワイトカラーだけの特権ではない。むしろブルーカラーの方が積極的に休憩を取っている印象である。郊外の公園に車を止めて昼寝をしている光景をよく見る。昼寝について調べているうちに興味深い事例を発見したので皆さんと共有したい。

2019年10月、北海道旭川市に住む70代男性はドライブに出かけ、郊外の公園に車を止めて休憩していた。そこに警察官が巡回にやってきてその男性に声をかけた。いわゆる職務質問である。やましいことは何もないその男性は警察官の求めに従って後部のハッチバックを上げた。そこには2ヶ月ほど前に、いとこの家の庭の草刈りをしたまま積みっぱなしにしていたノコギリと鎌があった。警察官はこのノコギリと鎌は使う予定があるのかと男性に聞いたが、男性は今すぐ使う予定はないと答えた。

銃刀法第22条には「何人も、業務その他正当な理由による場合を除いては、内閣府令で定めるところにより計った刃体の長さが六センチメートルをこえる刃物を携帯してはならない」と定められている。男性にとってノコギリと鎌を車の後部に積んでおくことは正当な理由に当たるのか裁判になったのである。

2018年における銃刀法違反による起訴数は1077人である。一方不起訴だった数は4547人である。起訴率は19.2%と他の犯罪に比べても低い方で、初犯である上記の男性がなぜ起訴されたのか不思議に思った。

さて、何事にもマニアはいるものである。私自身も少々たしなんでいるものの、なかなか時間がとれずしばらく行っていない。裁判傍聴である。全国の裁判所は一般市民に開かれており、誰でも裁判を傍聴することができる。傍聴マニアはこの裁判を傍聴することが趣味の方々である。私も何度か裁判を傍聴したが、なかなかスリリングな体験であった。今回の銃刀法違反事件を傍聴した人がその内容をブログにアップしているのを発見した。

車の中に草刈り用の鎌とのこぎりを置いておいた事件:銃刀法違反

裁判でのやり取りがかなり明らかになった。ノコギリと鎌の所有権を放棄すれば起訴されることはなかったようだが、その男性は自分で雇った弁護士を信用できなくなって、起訴されるまでこじれてしまったようだ。なぜ所有権を放棄すれば起訴されないのかは不明だが、調べていると、どうやら所有権の放棄は反省の態度を示す方法の一つだったのではないかと思う。知らんけど。

2021年12月、旭川地方裁判所において当該男性の無罪が言い渡された。2021年の第1審における有罪率は99.81%である。無罪率は0.19%(88件)であり、そのうちの1件がこの男性であった。

起訴されたら海外旅行にも行くことができず、行動制限がかかってしまう。刃物の所持には気をつけるとともに、人を信用できる精神状態を保つよう心がけたい。ホワイト勤務は1時間残業してもパフォーマンスが80まで残っているので、趣味にも高いパフォーマンスで望むことができる。よって、私は明日から自主的に昼休みを2時間取って、良好な精神状態で仕事に臨みたい。

参考リンク:

上記の鎌とのこぎり事件と、銃刀法の解釈についての詳しい記事

車に草刈り鎌を載せてたら”逮捕”70歳男性の悲劇 | 災害・事件・裁判 | 東洋経済オンライン

今回の内容とは関係ないが、興味深い文献

(by ぐっちー)

※このエッセイ「妄想生き物紀行」は、原則、ポッドキャスト番組「妄想旅ラジオの各放送回と関連した内容でお送りしていますが、今回はエッセイの独自テーマ回です。ポッドキャストはインターネットのラジオ番組で、PCでもスマホでも無料でお聴きいただけます。旅ラジオ」は、ぐっちーさん、ポチ子さん、たまさんの3名のパーソナリティーが毎回のテーマに沿って「生き物」「食べ物」「旅」について話す楽しいラジオ番組です、詳しい聴き方などは「妄想旅ラジオ」のブログを。

ぐっちー作「妄想生き物紀行」第58回「昼寝〜昼寝ができるホワイト企業だと思っていたら、実はブラックでした」いかがでしたでしょうか。

今回もお読みいただきありがとうございます、編集担当・ホテル暴風雨オーナー雨こと斎藤雨梟です。

こんにちは!

昼休憩の話と見せかけて銃刀法違反、裁判傍聴の趣味と、ぐっちーさんの狂気と妄想が大炸裂した今回。『妄想生き物紀行』愛読者の皆様にはご満足いただけたはず。私は満足です。

ところで昼寝といえば15分くらいの短い昼寝をすると頭がスッキリ冴えて効率がアップすると聞きますが、問題は「どうやって15分で起きるのか」という点です。経験上、そんな短時間で起きられるのは10回に1回くらいです。総体的には効率アップしていないような……。

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