カブトガニ〜フレー! フレー! 青組

妄想旅ラジオ」ポッドキャスター ぐっちーが綴るもう1つのストーリー「妄想生き物紀行 第35回 カブトガニ〜フレー! フレー! 青組

「血の色は何色だー!」

「赤だー!」

私はこのかけ声を長女の運動会で初めて聞いて驚いた。しばらく何が行われているのか理解できず、ただただビデオを回すだけであった。そして赤い帽子をかぶった園児達が座り、白い帽子の園児達が立ち上がって、

「雪の色は何色だー!」

「白だー!」

と大声で叫ぶ姿を見てようやく紅組、白組の戦意高揚のための応援合戦であることを理解したのだった。

このような学校行事には地域性があふれている。なので私が住んでいる地域だけの特殊なアトラクションだと思っていたのだが、周りの方々に聞くとほとんどの方が応援合戦を経験していたのである。つまり、私がマイナーだったのだ。私には心当たりがあった。私が通った小学校では、「体操の隊形に開け!」というかけ声に、「ヤァ!」と答えて広がるルールがあった。大人になって周りの方々に聞くとほとんどの方が知らなかったのである。

ところで、血の色は本当に赤いのだろうか。子供の頃の私はよく鼻血を出す子だった。鼻血が出るとティッシュペーパーを丸めて鼻に詰める(北海道弁でつっぺ)のだが、自分の鼻の大きさと紙の目に沿って裂くティッシュペーパーの量の関係を経験的に熟知していた。私の場合ティッシュペーパーを4等分する量が適していた。そして時々ティッシュペーパーを使わず洗面台に行き、ぽたぽたと鼻から落ちる血液を眺めるのが好きだった。鼻から落ちた1滴の赤い血は洗面台の白い陶器に跳ねて、周りに小さな点を描写する。小さな点は星のようでもあり、自分なりの星座を夢想することもあった。しばらく眺めているとだんだん鼻血は粘性を帯び、落ちる間隔が長くなる。終わりの時間が近づいてきたのだ。ひとしきり観察を終えると水道水で血液を流すのだが、流れるときは塊のまま流れることが多かった。そして銀河の外れにある小さな星を見逃して後で叱られることもあった。

このように、自分の血液が赤いことは疑いようがないのだが、甲殻類を始め赤くない血液の動物が存在する。今回のテーマであるカブトガニもその1種である。日本に生息するカブトガニは節足動物門、節口綱、カブトガニ目、カブトガニ科、カブトガニ属、カブトガニである。瀬戸内海の西から九州の北東部にかけて生息し、絶滅危惧種にも指定されている。日本の他にも、東南アジアにはマルオカブトガニ、ミナミカブトガニが生息し、北アメリカの東海岸にはアメリカカブトガニが生息している。カブトガニは泥の海底に身を潜め、ゴカイやその他の小動物を餌としている。また、カブトガニは古生代に生息した祖先とほとんど形が変わっておらず生きた化石とも呼ばれ、前回のリストロサウルスと同様に古生代から中生代にかけての大量絶滅を生き残った種である。

そんなカブトガニの血の色は赤ではなく、青と書物には書かれている。血液の役割のひとつに酸素の運搬がある。赤い血の動物は赤血球にヘモグロビンと呼ばれる鉄の化合物で酸素を運搬しているが、カブトガニを始め甲殻類や軟体動物は銅の化合物であるヘモシアニンと呼ばれる物質を使って酸素を運搬している。私自身の経験上エビ、カニ、ホタテ、イカ、タコなどのヘモシアニンを持った生物を捌いても青い血が出てきた記憶はない。「カブトガニの血の色は何色だー!」と聞かれ、「青だー!」と答えると恥をかくことにならないか。

人間の動脈に流れる血液と静脈に流れるそれでは色が違うと聞いたことがある。普段私が見ている洗面台に広がるそれは静脈のそれある。静脈のそれは動脈のそれに比べ、どす黒く赤茶色と表現されることが多い。一方、動脈に流れるそれは鮮血と表現されるように鮮やかな赤色を呈しているらしい。動脈を切ったことがないので分からない。つまりヘモグロビンが酸素と結びついている鮮血がオキシ型で、静脈の赤茶色がデオキシ型と表現される。

普段私がエビ、カニなどを捌いたときにも血液が流れ出しているはずであるが、ヘモシアニンを含む血液はオキシ型が青色で、デオキシ型が透明なのである。つまり、死んでしばらく経ったエビ、カニは出血してもデオキシ型の血液しか出てこないので透明に見える。生きた状態の新鮮な血液を取り出すと青色に見えるはずである。

カブトガニの血液は変わった特性を持っており、細菌などの微量な毒素に反応して凝固する。そのため、アメリカ東海岸では毎年5月になると製薬会社が産卵のため陸に上がってくるアメリカカブトガニを捕獲して、血液を採取した後に海に返すことを行ってきた。この時の様子を写真で見るとカブトガニの血液は青色に見える。鮮度の良い酸素を多く含んだ血液は青いのだ。

カブトガニはクモの一種であるという論文も発表され、生きた化石、血液の毒素検出薬応用などの特殊性に加え、新たな謎を提供してくれる貴重な存在となった。日本ではカブトガニは産卵のための海岸が減少したことで、その生息数も減少させている。アメリカカブトガニは採血された後に海に返されているものの、その3割が死んでいるらしい。新型コロナウイルスワクチン製造にもアメリカカブトガニの血液が活躍し我々の命を救ってくれている。一方我々はカブトガニの特殊性を享受しつつ、その存在を知ることでバランスのとれた自然保護を模索する必要があるのではないだろうか。

最近の運動会には紅白だけではなく、青や黄色の組もあるらしい。マイナーな青組もしっかりと応援していきたい。

参考リンク:

https://style.nikkei.com/article/DGXMZO61494140U0A710C2000000?page=2

(「コロナワクチンでカブトガニ危機? 企業が頼る青い血」ナショナルジオグラフィック日本版)

(byぐっちー)

<編集後記>

※このエッセイ「妄想生き物紀行」は、ポッドキャスト番組「妄想旅ラジオ」の第35回「カブトガニ と関連した内容です。ポッドキャストはインターネットのラジオ番組で、PCでもスマホでも無料でお聴きいただけます。妄想旅ラジオは、ぐっちーさん、ポチ子さん、たまさんの3名のパーソナリティーが毎回のテーマに沿って「生き物」「食べ物」「旅」について話す楽しいラジオ番組です。

ぐっちー作「妄想生き物紀行」第35回「カブトガニ〜フレー! フレー! 青組」いかがでしたでしょうか。

今回もお読みいただきありがとうございます、編集担当オーナー雨こと斎藤雨梟です。

こんにちは!

いきなり血の色を問われて度肝を抜かれましたね……
そんなすごい応援合戦は私の住む地域にはなかったです。というか応援合戦がなかったような(居眠りしてて覚えてないだけかもしれません)。

カブトガニ、見た目にもかなり驚かされますが血が青いというのも、人間にとってその血にとてつもない価値があるというのも驚きです。私はAmazon prime video で見たこちらのドラマでカブトガニの血の利用価値について知り(本当に? ドラマ上の創作? と思わず調べてしまいました)、驚いたのを覚えています。(殺人事件の動機に関わるものとしてカブトガニの血が出てきます)

これまた謎の尽きない生き物ですね。

Twiterでぐっちーさんと話そう企画

さて今回も、ぐっちーさんとみなさんと、Twitterでお話したいと思います。カブトガニについて、鼻血のひそかな楽しみについて、応援合戦の思い出について、などなど何でもお話しましょう。参加方法はTwitterに書き込むだけ、なので初めての方も、ラジオお聴きのみなさまも、質問してみたい人はもちろんただお話してみたい人も、エッセイを読んでの感想、ぐっちーさんへの質問やツッコミなど、ぜひお気軽に。お待ちしています!

斎藤雨梟のTwitterアカウント @ukyo_an  にて

↓こんな感じで↓ツイートしますので、よろしければみなさまもツイートへ返信してご参加ください。

ぐっちーさんとお話ししたもようは、来週こちらのサイトでまとめてお伝えします。Twitterでいただいた質問やコメントは記事内でご紹介させていただくことがあります。どうぞよろしくお願いいたします。では、Twitterでお会いしましょう!

ご意見・ご感想・ぐっちーさんへのメッセージは、こちらのコンタクトフォームからもお待ちしております。