イノシシ〜イノシシとダイエットおじさんの類似性について

「妄想旅ラジオ」ポッドキャスター ぐっちーが綴るもう1つのストーリー「妄想生き物紀行 第37回 イノシシ〜イノシシとダイエットおじさんの類似性について

日本に住むイノシシは鯨偶蹄目、イノシシ科、イノシシ属、イノシシ、ニホンイノシシおよびリュウキュウイノシシの2亜種である。世界には16のイノシシ亜種が報告されており、ニホンイノシシとリュウキュウイノシシはこのうちの2亜種ということになる。更に、我々が食用に飼育するブタは家畜化されたイノシシで、イノシシの17亜種目とされている。見た目はかなり変わってしまったが、イノシシとブタの交雑種であるイノブタも生まれることから亜種という分類も妥当だろう。ただ、このコラムを御覧の賢明なる諸兄には改めての説明は控えるが、この分類についても見直しの議論がある。

イノシシは臆病な性格である。イノシシが人間の住む街に出没するニュースを見たことがあるだろう。その時の映像はほぼ夜間である。ところが、イノシシは本来昼行性で昼間に街に出たいものの、臆病なため人がたくさん歩いているのを嫌い夜出歩くのである。最近運動不足が気になり何か運動を始めようと思い立ったものの、近所の目が気になり仕方なく日が沈んでから散歩に出かけるおじさんに似ているかも知れない。

夜間の外出を重ねたイノシシは次第に人間界との距離を縮め、昼間に出没するようになったり、畑を荒らすようになったりする。この段階で怖い思いをしなければどんどん傍若無人な振る舞いをするようになる。おじさんも明るいうちから散歩に出かけ、知り合いのいる商店に顔を出すようになる。健康に気をつけるような年になったかと冷やかされても動じないようになるのである。おじさんは健康ブームに守られて冷やかし程度で済ませられるが、イノシシの場合はそうはいかない。

イノシシを追い払うために音や匂いを使った撃退グッズが販売されているが、それだけで解決するものではない。最初は音や匂いを警戒して近づかないが、それに慣れてしまうと再びやって来る。イノシシ撃退は基本的にはイタチごっこなのだ。つまりイタチよりもイノシシの方が身近な存在となった今、いずれイノシシごっこに置換される日が近いのである。

ここで少し考えてみたい。イノシシの寿命は約10年である。イノシシは各撃退グッズに対して1ヶ月で慣れてしまうとすると、1年間で12種類、10年で120種類の撃退グッズがあれば継続的に撃退できるのではないだろうか。今流行りのサブスクリプション契約を結び、毎月一定額を支払ってもらうことで、定期的に撃退グッズをレンタルする事業を始めれば儲かるかも知れない。そんな甘いもんじゃないとお叱りを受けるかも知れないが、そんな事業が儲かるかも知れないと思わせるくらいイノシシによる被害は甚大なのである。

農林水産省の統計によればイノシシによる農作物被害は年間で約46億円と推定されている。シカによる被害の53億円に続き第2位である。イノシシとシカを合わせると約100億円の被害ではあるが、その金額以上に荒らされた畑を見る精神的苦痛や後片付けも考慮すると被害は甚大である。

これら害獣被害対策には3つの大きな柱があるとされている。1つ目は放置された果樹園などの誘因除去である。耕作が放棄された果樹園には売り物にならない実がなる。この実は人間にとっては価値のないものであっても野生動物にとってはご馳走である。また、適度に視界が遮られ、身を隠しながら食事ができる絶好の餌場になってしまうのである。これらの果樹を伐採し、下草を刈ることで視界が開け、基本的には臆病な野生動物が出現しにくくなるのである。

次に防護柵や撃退グッズなどを使った農地への接近防止である。防護柵には電流を流すタイプもあるが、これは電流で害獣を始末するためではなく、あくまで危険な場所であることを認識させるためにパルス状の微弱な電流を流しているのである。この防護柵設置にもノウハウがあり、イノシシの場合は一番下の電線が地面から20㎝になるように設置すると効率的らしい。イノシシの湿った鼻の頭に電線が接触することで忌避効果が発揮されるが、背中の体毛が多いところで接触してもほとんど電流が流れず効果が薄いのである。

そして最後に害獣の個体数管理である。これは増えすぎたイノシシやシカを駆除し、個体数を管理する手法である。テレビなどで大きく取り上げられることが多いので害獣対策と言えば駆除というイメージがついているかも知れない。しかしながら、駆除は最後の手段である。

イノシシによる人的被害が多かった兵庫県神戸市では2014年に37件を記録し、全国の被害の約3割を占めることもあった。しかし、2020年には2件に激減したのである。神戸市では一般市民による餌付けが被害増加の原因で、上記の対策の正反対である誘因を行っていたのである。これを重く見た神戸市は餌付け禁止条例を強化し、罠による捕獲を積極的に行い、被害件数がピーク時の5%にまで減少させることに成功したのである。

イノシシだけではなく、キツネやクマなどに観光客が餌をやる様子が動画サイトなどに投稿されている。彼らの行為は一時的には野生動物の空腹を満たすかもしれないが、人間に慣れることで市街地に侵入しやすくなり、最終的には駆除の対象になってしまうのである。

つまりダイエットに成功したら夜の街でモテモテになったと勘違いしたおじさんが、求められるままお酒を奢ったらぼったくられたのと同じ?である。イノシシに忠告するとしたら、夜の街には近づくなよ、そして人間から餌を差し出されてもホイホイついていってはダメだぞ、そんなにモテるはずはないぞ、と言ってやりたい。

参考リンク:

「全国の野生鳥獣による農作物被害状況について(令和元年度 )」(農林水産省)

「神戸のイノシシ被害激減 20年度は2件のみ、ピーク時の5%に」(神戸新聞Next)

(by ぐっちー)

<編集後記>*最後に重要なお知らせがあります!*

※このエッセイ「妄想生き物紀行」は、ポッドキャスト番組「妄想旅ラジオ」の第37回「イノシシ と関連した内容です。ポッドキャストはインターネットのラジオ番組で、PCでもスマホでも無料でお聴きいただけます。妄想旅ラジオは、ぐっちーさん、ポチ子さん、たまさんの3名のパーソナリティーが毎回のテーマに沿って「生き物」「食べ物」「旅」について話す楽しいラジオ番組です。

ぐっちー作「妄想生き物紀行」第37回「イノシシ〜イノシシとダイエットおじさんの類似性について」いかがでしたでしょうか。

今回もお読みいただきありがとうございます、編集担当オーナー雨こと斎藤雨梟です。

こんにちは!

害獣対策のイロハ、今回も勉強になりました。イノシシの被害とは、そんなに深刻なものだったんですね。「撃退グッズのサブスク」すごくいいと思うんですが。サブスクでなくても、一定期間使ったグッズを他の地域と交換するのはどうでしょうか。ついでにイノシシ情報を交換したりすれば役に立ちそう……って、もうやってるのかもしれませんね。

Twiterでぐっちーさんと話そう企画

さて今回も、ぐっちーさんとみなさんと、Twitterでお話したいと思います。イノシシについて、撃退グッズについて、ダイエットおじさんについて、面白サブスクについて、などなど何でもお話しましょう。参加方法はTwitterに書き込むだけ、なので初めての方も、ラジオお聴きのみなさまも、質問してみたい人はもちろんただお話してみたい人も、エッセイを読んでの感想、ぐっちーさんへの質問やツッコミなど、ぜひお気軽に。お待ちしています!

斎藤雨梟のTwitterアカウント @ukyo_an  にて

↓こんな感じで↓ツイートしますので、よろしければみなさまもツイートへ返信してご参加ください。

ぐっちーさんとお話ししたもようは、来週こちらのサイトでまとめてお伝えします。Twitterでいただいた質問やコメントは記事内でご紹介させていただくことがあります。どうぞよろしくお願いいたします。では、Twitterでお会いしましょう!

最後に重要なお知らせ <リクエスト受付けます>

ぐっちーさんのエッセイ「妄想生き物紀行」で取り上げて欲しいテーマを募集します。是非ご応募ください!

<リクエスト募集の趣旨>
この「妄想生き物紀行」は、毎回、ポッドキャスト番組「妄想旅ラジオ」で取り上げたテーマに対応した内容のエッセイをお送りしていますが、第38回(2021年12月7日公開予定)、41回(2022年1月18日公開予定)は対応するラジオ放送が「お便り紹介回」であるため、「妄想生き物紀行」独自テーマとし、みなさまからのご応募から決めます。

<リクエストの内容>
募集するテーマは、
*エッセイ公開日が12月7日と1月18日であるため、この日付にちなんだもの
*日付にこだわらず、12月、1月、冬、など季節にまつわるもの
*まだ「妄想旅ラジオ」で取り上げられていない生き物
*その他、これというのがあればご自由に
などです。つまり自由です。

<リクエストの方法>
*Twitterで、ぐっちーさんのTwitterアカウント か 斎藤雨梟のTwitterアカウントにリプライ(任意のツイートを選んで「返信」ボタンを押して書き込み・送信する)してリクエスト
ホテル暴風雨コンタクトフォームから、題名を「妄想お題」としてリクエスト

のいずれかでお願いします。

<リクエスト採用方法について>
ぐっちーさんの執筆欲をビビビッとそそるリクエストが来た時点で採用とさせていただきます。つまりぐっちーさんの気分次第。ですのでお気軽に、お早めに、ぜひぜひご応募ください。お待ちしております!

ご意見・ご感想・ぐっちーさんへのメッセージは、こちらのコンタクトフォームからお待ちしております。