モグラ〜記憶か記録か、モグラ先輩語録

動物園に行くと様々な生き物が飼育展示されている。中でも人気なのがゾウ、キリン、カバなどの大型動物やライオン、チーター、クマなどの獰猛な生き物である。これらは世界各地の生息域から集められ、見物客に危害を加えないよう安全な方法で展示されている。どこにでもいる人体に無害な生物は基本的には動物園での展示に不向きである。

ところが、東京の多摩動物公園ではモグラが展示されている。多摩動物公園にはキリン、ライオン、コアラ、カンガルー、オランウータンなど定番の動物が展示され、ゾウはアジアゾウとアフリカゾウの2種類が展示されている。このスター選手がそろう中にモグラの展示がある。しかも、一棟まるごとモグラのためだけに建てられたモグラ館がある。私はこのモグラ館に行くために多摩動物公園を訪れた。

時は2017年11月26日。この文章を書くために携帯電話の写真を検索すると日付まですぐに確認できた。記憶は非常に曖昧だが、記録は保持している限り残るし検索が可能である。今から30年近く前、私はアラスカ旅行に行った。当時はカメラと言えばフィルムカメラで、ちょっとした荷物だったのだが、円高の影響もありすべての日本人がカメラを持って世界を旅行していたと言っても過言ではなかった。しかし私はカメラを持たず現地を旅行した。ガイドの人に「お前はカメラを持たない初めての日本人だ」と言われたことを思い出す。記録ではなく記憶を重視していたのである。

一方、携帯電話を持つようになってからは数値や後から説明が必要な事柄は写真で残すようになった。不動産賃貸契約でも入居前に柱の傷や床のへこみなどを記録しておくと退去時に余計な修繕費を払わなくていいとYouTubeで見た。最近は記憶だけではなく知識もアウトソーシングが可能となったので、余計な苦労を背負わなくても良くなってきている。今や記憶よりも記録である。

記録を頼りにモグラ館を思い出してみると、そこへ辿り着くまでには山を越えなければならなかった。多少大げさではあるが多摩動物公園は山の中腹に位置しており、園内は起伏に富んだ地形をしている。一山越えた谷間にモグラ館はあったと記憶している。外観はログハウス風で10坪程度の面積だったと思う。こぢんまりとした小屋の2階部分に入り口があり、扉の横にはモグラのキャラクターが来館者にフランクな口調で解説する看板がある。彼こそがモグラ先輩である。

モグラ先輩は先輩であるから、後輩である我々の質問に高圧的な態度で答えるのである。言葉遣いは汚いが親切心があり面倒見の良さをにじませる。時には苦悩も吐露する。過去に何度も聞かれたことがある質問に疲れているのかもしれないが、それでも答えてくれるモグラ先輩の回答例をみてみよう。

  • モグラって日に当たると死んじゃうって本当?

死ぬわけねーだろ!!

あれはたまたま地上で死んだだけだ

トンネルの中では素早いけど地上では俺らはどんくさいから、ネコとかに襲われるんだよ。ってか、土ん中で死んだら見えねーだろ?

死んでんだよ。土の中でもよ。

  • モグラってたくさん食べるんでしょ?12時間食べないと死んじゃうって?

う~ん、それは野生のモグラの話だな。

野生で生活していると、スゲーたくさん土をほらなねーといけねーからな。

だからものすごい量のエネルギーが必要なのさ。ここでは運動量が限られているから、逆に太りすぎに気をつけないといけないぜ。

12時間ってのも野生の話だな。ここじゃ、12時間餌食わないばあちゃんモグラがぴんぴんしているぜ

  • 土の中って暗いから、地上はまぶしい?

まぶしいもなにも、見えねーのよ

俺らが暮らしている土の中は真っ暗だから、目は見えても意味が無い。

俺らはおとやにおい、触った感覚を頼りに暮らしてんのさ。

俺のサングラスは・・・ファッションだ。

  • 畑にボコボコと穴を掘ったり、作物を食べたりするのはやめてくれんかのう

ちょっと待った!

俺たちは完全な昆虫食だぜ。野菜を食ったりはしない。たぶん俺たちが掘って使わなくなった穴にネズミでも入ったんだろうな。

畑は障害物が無くて掘りやすいからな~

俺たちもついつい掘りまくっちゃんだよ。

ま、俺らの方が先に住んでたんだし、大目にみてもらいたいんだが・・・

モグラ先輩の解説は他にもたくさんあるので現地で確認することをお勧めする。モグラ先輩語録の編集には携帯電話の写真記録が助けになっているが、もし記憶だけで再現しようとしてもどうにもならなかっただろう。アラスカ旅行の写真が残っていれば記憶の反芻もできたかもしれない。今ではその時の記録と言えば、日本で発生した地下鉄サリン事件を知らせる現地の新聞だけである。

(by ぐっちー)

※このエッセイ「妄想生き物紀行」第63回はポッドキャスト番組「妄想旅ラジオ」第63回「モグラ」と関連した内容です。ポッドキャストもお聴きになると一層お楽しみいただけますのでぜひどうぞ! ポッドキャストはインターネットのラジオ番組で、PCでもスマホでも無料でお聴きいただけます。旅ラジオ」は、ぐっちーさん、ポチ子さん、たまさんの3名のパーソナリティーが毎回のテーマに沿って「生き物」「食べ物」「旅」について話す楽しいラジオ番組です、詳しい聴き方などは「妄想旅ラジオ」のブログを。

ぐっちー作「妄想生き物紀行」第63回「モグラ〜記憶か記録か、モグラ先輩語録」いかがでしたでしょうか。

今回もお読みいただきありがとうございます、編集担当・ホテル暴風雨オーナー雨こと斎藤雨梟です。

こんにちは!

なんと、ぐっちーさんの記憶と記録の中から飛び出したモグラ先輩がホテル暴風雨の「妄想生き物紀行」に来てくれました。ようこそモグラ先輩!
モグラ塚はよく見るけれど、モグラの姿って本当に見るのが難しいですよね。

そこで多摩動物園のモグラ館「モグラのいえ」です。建物の中は少し薄暗く、モグラ先輩たちが通れるトンネルが巡らせてあったり、断面がガラスになったモグラ穴(アリの巣観察セットみたいなアレです)があったりして、運が良ければモグラの姿を見る、とまで行かずとも、モグラの動いた気配を間近で感じることができます。私もここで生まれて初めてモグラの姿(の一部分)を見ることができました。
とてもおすすめの「モグラのいえ」なのですが、感染症対策のため2022年11月現在「平日のみ展示公開」となっているようです。お出かけの際はご注意ください。詳しくは多摩動物公園のホームページなどでご確認ください。

Twiterでぐっちーさんと話そう企画

さて今回も、ぐっちーさんとみなさんと、Twitterでお話したいと思います。モグラ先輩について、アラスカについて、多摩動物公園ついて、などなど何でもお話しましょう。参加方法はTwitterに書き込むだけ、なので初めての方も、ラジオお聴きのみなさまも、質問してみたい人はもちろんただお話してみたい人も、エッセイを読んでの感想、ぐっちーさんへの質問やツッコミなど、ぜひお気軽に。お待ちしています。

斎藤雨梟のTwitterアカウント @ukyo_an  にて

↓こんな感じで↓ツイートしますので、よろしければみなさまもツイートへ返信してご参加ください。

ぐっちーさんとお話ししたもようは、来週こちらのサイトでまとめてお伝えします。Twitterでいただいた質問やコメントは記事内でご紹介させていただくことがあります。どうぞよろしくお願いいたします。では、Twitterでお会いしましょう!

ホテル暴風雨にはたくさんの連載があります。小説・エッセイ・詩・映画評など。ぜひ一度ご覧ください。<連載のご案内>