イヌは最も古く家畜化された動物であると考えられている。DNAによる分析では今から約1万5千年前にオオカミから分化したと推定され、縄文時代にはすでに家畜として飼育されていた。性格はおとなしく、従順で、ヒトの指示を理解する知能を持っており、ヒトとの相性は他の動物の比ではない。「犬は三日飼えば三年恩を忘れぬ」ということわざは「三日飼ってもらった犬はその恩を三年間も覚えているということから、恩を忘れてしまいがちな人間への戒めに使うことば」であり、犬の従順性や忠義性を表現している。故に現代でもペットとして確固たる地位を占めている。
一方で、イヌをどこにでもいるくだらない存在として表現する場合もある。「夫婦喧嘩は犬も食わぬ」、「犬に論語」、「吠える犬は噛みつかぬ」など、イヌをことさらに貶めくだらないイヌでさえ食わない喧嘩に首を突っ込むなという戒めであったり、従うだけしか能がないイヌに論語を聞かせてもしょうがないであったり、口ばっかりで勢いだけの者に限って実力がないだったりとイヌ軽視が甚だしい。
更にはイヌを軽視するだけにとどまらず蔑視する表現もある。「官憲の犬」は捜査機関などに密告する者を蔑む意味を込めて使われる。イヌの隠語には前田利家の名で知られている戦国武将“前田犬千代(通称イヌ)”が間者として活躍したからという説があり、犬は臭覚が強く、よく物を見つけ、よく命令に従うことからこのような隠語が生まれたらしい。
このような論調が生物の命名にも少なからず影響している。「イヌタデ」、「イヌサフラン」、「イヌムギ」などはどれも接頭語が「イヌ」であり、不要なもの、使えないものなどの意味を含む。「タデ」は刺身のつまなどで使われるが、「イヌタデ」には使い道がないらしい。「サフラン」や「ムギ」は香り付け、食料として利用できるが、「イヌサフラン」、「イヌムギ」は似ていても利用できないらしい。「地球にやさしい」と同じく、あくまでヒトにとって有益かどうかがポイントとなっており、その視点が前面に出ているという意味では一貫していて清々しい。
これらのことわざや慣用句が広まった時代は戦国や世界大戦などの動乱期だったのではないだろうか。現代でも世界的には不穏な空気が漂ってきているが、相対的には安定の時代と言っても過言ではないはずである。そんな時代のイヌは癒しであり、部下であり、協力者である。つまり、現代のイヌ慣用句を創造し、イヌの地位向上に努めたいと思う。
・「犬猫の宴(けんびょうのえん)」
1.賑やかで寂しくない様。2大愛玩動物を同時に飼育すると家中が賑やかになり、子供が大きくなり家を出ても寂しくない。例:3年後には下の子も家を出るから犬を飼って—とするか。
2.英語で「土砂降り」の意味でもある”It’s raining cats and dogs”に因み、大雨を意味する。例:外は—だ。
・「犬の散歩」
1.健康維持に貢献していること。雨の日も風の日も雪の日も散歩を催促され、三日坊主になりがちな運動を強要してくれる。例:私にとってのビールは—だ。
2.犬の散歩では毎日同じ人に会うことが多く、近隣住民のコミュニティが形成されることから、スナックなどに飲みに出かけて交流することを指す。例:今夜は—に出かけるか。
・「政府の犬」
1.国や地方自治体の広報誌をくまなく読んで、行政支援を熟知し地域振興券など還付されそうな税金があったら漏れなく受給するちゃっかり者のこと。例:Go To トラベルで旅行するのは—として当然だ。
2.子供手当などの行政支援を受けた者が恩を忘れず、それを返すかのように政権与党に投票する様。例:給付金をもらったからといって—に成り下がるつもりはない。
他にもまだまだイヌの慣用句を創ることはできそうだ。読者の皆さんも是非ポジティブなイヌの慣用句を考えてほしい。もしかしたら後世に残る名作が誕生するかもしれない。犬も歩けば棒に当たる精神である。
(by ぐっちー)
※このエッセイ「妄想生き物紀行」第76回はポッドキャスト番組「妄想旅ラジオ」第76回「イヌ」と関連した内容です。「妄想旅ラジオ」は、ぐっちーさん、ポチ子さん、たまさんの3名のパーソナリティーが毎回のテーマに沿って「生き物」「食べ物」「旅」について話す楽しいラジオ番組(ポッドキャスト)です。そちらもお聴きになると一層お楽しみいただけますのでぜひどうぞ! ポッドキャストはインターネットのラジオ番組で、PCでもスマホでも無料でお聴きいただけます。詳しい聴き方などは「妄想旅ラジオ」のブログを。
ぐっちー作「妄想生き物紀行」第76回「イヌ〜犬も歩けば棒に当たる」いかがでしたでしょうか。
今回もお読みいただきありがとうございます、編集担当・ホテル暴風雨オーナー雨こと斎藤雨梟です。
こんにちは!
イヌとヒトの歴史、1万5千年とは長いですね。コメ栽培の歴史より長い、というか農耕の歴史より長い。
私もかねがね「イヌなんとか」という命名が失礼すぎる件気になっていたのですが、今回、ぐっちーさんの、似たようなものの中に「人の役に立つ」種類と「人の役に立たない」種類がある場合、後者の名前に「イヌ」が冠されるという指摘を受け、益々モヤモヤを深めています。
確かに清々しいほどのエゴイズムではありますが、だとしても、ヒトのエゴ的にイヌは最高に有益な役に立つ生物なのに、役に立たんものに「イヌ」とつけるとはどういう了見でしょう。人間のエゴイズム全開にするとしても役に立つのが「イヌ」でいいのでは。
ひとまず私は、スマホアプリのすごく高機能でいいやつを「神アプリ」改め「イヌアプリ」と呼ぼうと思います。神がヒトの役に立つために働くもんか、というこれまた日頃の疑問も込めて。ちなみに、役に立たないけどなんかいいアプリは「ネコアプリ」。
Twiterでぐっちーさんと話そう企画
さて今回も、ぐっちーさんとみなさんと、Twitterでお話したいと思います。イヌについて、変なことわざや慣用句について、など何でもお話いたしましょう。「新しい犬慣用句」を思いついた時にもこの機会にぜひご参加を! 参加方法はTwitterに書き込むだけ、なので初めての方も、ラジオお聴きのみなさまも、質問してみたい人はもちろんただお話してみたい人も、エッセイを読んでの感想、ぐっちーさんへの質問やツッコミなど、ぜひお気軽に。お待ちしています。
斎藤雨梟のTwitterアカウント @ukyo_an にて
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新連載 #妄想旅ラジオ パーソナリティー ぐっちーさんのエッセイ「#妄想生き物紀行」第1回 読んでいただけたでしょうか? ここで、ぐっちーさん@mousou_guccy へいろいろお聞きしてみたいと思います!https://t.co/DcVywwH7p5
— 斎藤雨梟 (@ukyo_an) July 7, 2020
ぐっちーさんとお話ししたもようは、来週こちらのサイトでまとめてお伝えします。Twitterでいただいた質問やコメントは記事内でご紹介させていただくことがあります。どうぞよろしくお願いいたします。では、Twitterでお会いしましょう!