イリオモテヤマネコ〜ぐっちー、ブリコラージュ派だと思う

2022年は森鴎外没後100年の節目の年であった。その年に晩年の代表作「渋江抽斎」の自筆原稿の一部が見つかったことがニュースになった。推敲の跡がうかがえる貴重な原稿である。文豪にしてみれば作品こそが全てであり、推敲の跡など本当は見て欲しくないと思っているだろう。しかし、発表された完成品もさることながら、原稿のような未完成品にもある一定程度の需要が存在する。

今回のイリオモテヤマネコについてエッセイを書こうと、改めてポッドキャスト用に用意した原稿を確認すると、これ以上の話の展開を思いつくことができなかった。これまで100回以上のポッドキャスト収録を重ねてきたが、この回が最も原稿に力を入れた回だったかもしれない。つまり、これ以上のエッセイを書くことができないということである。森鴎外の例で証明されたように、原稿にも一定程度の需要が存在するはずである。ついては、イリオモテヤマネコの回の原稿をそのまま掲載し、実際にポッドキャストを聞いてもらうという試みを行う。


少し前に断捨離というのが流行りましたが、うちの妻はどちらかと言うと不要なものはすぐに捨ててしまうタイプ

一方、私は何かに使えそうなので取っておくタイプです
ものが溜まって邪魔になると良く言われるんですが
皆さんはどちらですか?

先日趣味のステンドグラス制作で、小物をしまう箱が欲しいなと思い、そういえばお菓子の空き箱を取っておいたと思ったが、妻が捨ててしまっていた

妻に言わせれば、用途に合ったものを100均で買えばいい
これはどちらが良い、悪いではなく、考え方の違いなんだなと思った

ブリコラージュと言う言葉をご存じでしょうか
ブリコラージュとは、その場で手に入るものを寄せ集め、それらを部品として何が作れるか試行錯誤しながら、最終的に新しい物を作ること
元来はフランス語で、「繕う」「ごまかす」を意味するフランス語の動詞 “bricoler” に由来する
この対義語は 理論や設計図に基づいて物を作る「設計」と言われている
私はブリコラージュが好きで、妻は設計が好きなのでは

スーパーでの買い物でも、私は良さそうな食材をみて、買い物カゴに入れるのですが、妻はどちらかと言うと作るものを決めて、その材料を購入する
毎日のように料理を作る場合と、たまにしか作らない場合では根本的に料理に対する姿勢が違うので一概には言えませんが、こういった傾向があるように思う

今日のテーマのイリオモテヤマネコですが、進化の過程でどのように他のヤマネコと別れていったのか、と言った点についてブリコラージュを絡めてお話ししたいと思います

リクエストをくれたのが つじさんです
つじさんは西表島に行ってきたそうですが、西表島はどこにあるでしょうか
西表島は沖縄県の西部、そこから更に西に70㎞あまり行ったところに与那国島があり、ここが日本最西端
与那国島から台湾までおよそ100㎞ちょっと
緯度は台北の方が北
そのようなところなので、亜熱帯海洋性気候、島の9割は森林に覆われていて、沿岸部ではマングローブといった熱帯雨林に覆われている
ほぼ全域が西表石垣国立公園の公園区域に指定
古見岳(こみだけ、標高469.5m)、テドウ山(標高441.2m)、御座岳(ござだけ、標高420.4m)の琉球諸島全体でも屈指の標高を有する三山をはじめとして、多くの山で島全体が覆われる台地のようになっている

地球の歴史をみると、過去には海面の高さが今より200メートル高い時期もあった
最近では6000年前でも今より2~3メートル高かったと言われている
しかし、西表島はこういった海面が高くなっても、陸地を保っていた
つまり、陸上生物が絶滅しなかった

イリオモテヤマネコはネコ科ベンガルヤマネコ属のベンガルヤマネコ亜種
1965年に西表島で発見され、当時は原始的なネコではないかと1属1種として分類されたが、現在はベンガルヤマネコの亜種とされている

以前にも紹介しましたが、生物を分類する方法としては、まず形、いわゆる表現形をみて分類します
しかし、DNA分析ができるようになってからは二つの種でDNAがどれくらい違うかを調べることで、近縁種かどうかわかる
イリオモテヤマネコの近縁種にベンガルヤマネコ、ツシマヤマネコがいる
この3種の中で、どれくらいの違いがあるかを調べる研究がある
調べる場所はいろいろあるが、ミトコンドリアのチトクロームbの変異率を分析していた
このチトクロームは比較的変異しやすく、一定の確率で変異すると仮定すると、変異率から、別の種に分岐した年代がわかる

ベンガルヤマネコとイリオモテヤマネコは18-20万年前に分化したと推定された。
さらに、海洋地質学でも2万-24万年前には琉球諸島および大陸間に断続的な陸橋があったと推定されていることからこの時期に侵入したと推定されている
ちなみに、ツシマヤマネコとベンガルヤマネコは約10万年前に分岐した

さて、進化のイメージは1本の道が過去から現在までつながっているイメージですが
例えば、あるマラソン大会があったとします
一般道で開催されるマラソン大会ですが、参加者にはゴールがどこかわかりません
一斉にスタートして走り出します
交差点に来たら、自分で道を選んで進みますが、後戻りはできません
間違った道を進むと失格です
このマラソン大会を上空からヘリコプターで見ているとします
多くの人がリタイアする中、ほんの一部の人がゴールできました
ゴールできた人の通ってきた道をみると、こう進んできたのだなとわかります

わけのわからない例えをしてしまいましたが、このマラソン大会の交差点が進化の分岐点にあたると思ってください
ゴールできた人の経路を見ると一本道ですが、その陰には多くの失格者がいます
つまり、そこで進化したものの、淘汰されたランナーが非常に多いことが想像できると思います

ゴールまでの道については研究で明らかになるので、それぞれの交差点をシステマチックに着々と、設計されたように進んできたように見えるが
ランナー目線で考えると、ゴールはどこかわからず、ただ、試行錯誤の末、その道を進んだことがわかる
このことを、フランスの分子生物学者、フランソワ・ジャコブは「進化とブリコラージュ」と題した講演で、「進化は既に存在しているものに作用して、ある系を新しい機能を持ったものに変換したり、いくつかの系をより複雑なものにすべく組み合わせる。この過程はブリコラージュに似ている」こう述べている

進化の道筋をたどる系統樹というのがありますが、迷路をゴールから進んでいるようなものだし、正解の道しか書かれていない

そういうものを見ていると、デザインされたように感じてしまうが、そうではなく、
実際はそれぞれの時点で、例えば毛が長くなったほうが生き残りがよかったら、毛が長い集団ができるし、足が短い個体が生まれ、すぐに死んでしまえば子孫を残すことができない
この試行錯誤の繰り返しが進化であり、ブリコラージュに似ている

実はこのマラソン大会はイリオモテヤマネコゴールでしたが、すぐ隣にツシマヤマネコゴールもあって、ゴールちょっと手前で分かれていた

今の時点ではゴールかもしれないが、今後失格になる可能性も
ここまで進化とブリコラージュについてお話ししましたが、日常生活でもブリコラージュを実践することができる

今までは気にもとめなかった生き物のことや、国や、料理も妄想旅ラジオを聞くことで、ちょっとした引っかかりができる

今まで素通りしてきた情報が心のどこかに引っかかる

予定をこなす毎日に、引っかかった情報を集めて新たな興味を作り出すことでブリコラージュを実践できる
ブリコラージュを実践することで、人生が充実する


(by ぐっちー)

※このエッセイ「妄想生き物紀行」第87回はポッドキャスト番組「妄想旅ラジオ」第87回「イリオモテヤマネコ」と関連した内容です。「妄想旅ラジオ」は、ぐっちーさん、ポチ子さん、たまさんの3名のパーソナリティーが毎回のテーマに沿って「生き物」「食べ物」「旅」について話す楽しいラジオ番組(ポッドキャスト)です。そちらもお聴きになると一層お楽しみいただけますのでぜひどうぞ! ポッドキャストはインターネットのラジオ番組で、PCでもスマホでも無料でお聴きいただけます。詳しい聴き方などは「妄想旅ラジオ」のブログを。

ぐっちー作「妄想生き物紀行」第87回「イリオモテヤマネコ〜ぐっちー、ブリコラージュ派だと思う」いかがでしたでしょうか。今回もお読みいただきありがとうございます、編集担当・ホテル暴風雨オーナー雨こと斎藤雨梟です。

こんにちは!

今回は、「妄想旅ラジオ」配信原稿大公開という斬新な企画です。

そんなのありか……? とちらりと思わなくもなかった私ですが、読んでみると、音で聴いたラジオとはまた違った印象。近頃時々オーディオブックを聴くようになって、目で読んだ文章も、耳で聴くと違って聞こえるという発見をするのですが、それと逆の発見です。ぐっちーさんの妄想エッセイ・ブリコラージュ談、みなさまは「音」と「文字」どちらがお好きでしょうか? ぜひラジオの方も聴いて比べてみてください。

さて、私は圧倒的ブリコラージュ派。何ごともまず言われた通りにやらない方なので、「基本からちゃんと勉強したい」という時は努めて「まずは設計図通りに、教えに忠実に」と自分に100回くらい言い聞かせてのぞみます。学生時代には図面を引くのが下手すぎて建築・設計方面へ進むのは諦めたくらいなので、ブリコラージュ派というより「設計がダメ派」かもしれません。みなさまはいかがでしょうか。ぜひお話聞かせてください!

Twiter改めX でぐっちーさんと話そう企画

今回も、ぐっちーさんとみなさんと、X(旧Twitter)でお話したいと思います。イリオモテヤマネコについて、ブリコラージュ派と設計派について、進化の系統樹について、などなどなんでもお話しましょう。参加方法はX(旧Twitter)に書き込むだけ、なので初めての方も、ラジオお聴きのみなさまも、質問してみたい人はもちろんただお話してみたい人も、エッセイを読んでの感想、ぐっちーさんへの質問やツッコミなど、ぜひお気軽に。お待ちしています。

斎藤雨梟のXアカウント @ukyo_an  にて

↓こんな感じで↓投稿しますので、よろしければみなさまも返信ボタンを押してご参加ください。

ぐっちーさんとお話ししたもようは、来週こちらのサイトでまとめてお伝えします。いただいた質問やコメントは記事内でご紹介させていただくことがあります。どうぞよろしくお願いいたします。では、Twitter改めXでお会いしましょう!

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