「ちょうどいい」自己肯定感

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連休のこの週末は子どもを郊外の大きな遊園地に連れて行くことになった。
父親が高いところが苦手であることをすでに知っている息子は、ジェットコースターなどを見て「父さんはあれ怖いんでしょう?」などと言い始めるようになった。なにしろ子ども向けのコースターですらなるべく遠慮したい自分にとって、そんなところで見栄を張っても仕方がないので、

「こわいよ、父さんは乗りたくないっ」

と正直に答えることにしているが、

「こわくないよっ!勇気を出せば乗れるよ!」

と逆に励まされてしまった。
こちらは毎日がジェットコースターのような人生で、だいぶ勇気を出さないとやりきれないことが山ほどあるわけで、こんなところで勇気の無駄遣いはしたくないと言うのが本音である。

とはいえ、他人の好き嫌いを理解できると言うのはとても素晴らしいことで、自分と他人の区別がつかない時期からは大きく成長していると感じる。

今日は寝る前のルーティンであるゼリーを食べる時にりんご味とぶどう味をふたつ取り出し、ぶどうは自分、りんごは父さんと決め、さらにそれぞれのスプーンまで自分で選ぶと言い出した。
最初はれんげを取り出してきたのでそれではうまく食べられない旨を伝えると、友人が来た時にお土産に持ってきてくれたアイスクリームについていたピンク色のプラスチックのスプーンを選び、「これを使って」と渡された。

これは自分と他者との関係性を認知できるからこそ可能なことで、一方的に「してもらう」ことから誰かに「してあげる」ということの楽しさに気がついてきたようである。これは自分にはなにかができる、と信じて行動できるということでもある。
昨今は育児書のコーナーなどを眺めていると「自己肯定感」という言葉をよく見かけるが、社会心理的能力の根本とも言えるこの概念がどういうものなのか今ひとつピンとこない方もいると思う。
例えば自分は小さくて痩せ方の体型だが、これを貧相と捉えるかコンパクトで良いと考えるかどうかは自分次第である。そもそも人は他人のことなんてそんなに気にしていないものなので、自分をどう捉えるかというのはそれぞれの思い込みや考え方次第だろう。
そういう意味で自分は自己肯定感というものは、自分自身を客観的に捉えた時にネガティブな要素とポジティブな要素の両方をバランスよく捉えるための指標だと解釈している。

自己肯定感を高めるための情報はたくさん見受けられるが、これも極端に偏るとややこしいことになり、高すぎても低すぎてもあまり社会で生きていく上でメリットにはならないのではないかというのが自分の印象である。
大切なのは客観的に自分自身を捉えられるか、という点にあるが、これはなかなかに難しい。というのも、自分自身と言うものは他者との関係性によって判断される側面があるからである。
大人というのはこれがある程度きちんとできている人のことをいうものだと自分は考えている。

自分に対する評価が客観的な事実よりも極端に低い場合は、自分の価値が信じられなくなり、それは同様に他人の価値も信じられないということになる。
逆に高すぎるとそれはそれで無意識にモラハラやパワハラ的なことを他者にしてしまうことに繋がる可能性があり、コミュニケーションに支障をきたすことになる。
さらにこじれて複雑なのは、それが環境や相手によって変化してしまうような場合で、誰かを崇拝したり、劣等感を持ったり嫉妬をしたりしたかと思えば、他の誰かには傲慢で理不尽な行動をとってしまったりすることで、相手によって印象が全く変わってしまうような人もいる。

言うまでもなく子どもは環境を自分で選ぶことができない。だからこそ子どもの自己肯定感を云々言うことよりも、子どもの鏡のような存在である養育者自身がそれをどこまで「ちょうどいい」感じにコントロールできるかの方がよほど重要なのではないかと感じている。
自分の失敗を許せない養育者は子どもの失敗を許せないし、自身の成功を疑う養育者は子どもの成功も実力ではないと感じる可能性は極めて高いだろう。
子どもには「ただ、自分はそのままで充分価値がある」ということを実感し、それを他の誰かにも感じてもらいたいと思っている。
かわいいとおいしいがあればなんとかなる、というのは自分の座右の銘だが、子どもはかわいいくおいしくごはんを食べていれば、それだけで何にも替え難い価値があると信じている。

(by 黒沢秀樹)

『できれば楽しく育てたい』黒沢秀樹・著 おおくぼひでたか・イラスト

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※編集部より:全部のおたよりを黒沢秀樹さんが読んでいらっしゃいます。連載のご感想、黒沢さんへの応援メッセージなど何でもお寄せください。<コメントフォーム
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