芸術の秋の到来と共に冬のように寒く雨がちなここしばらくですが、雨をおして、観たかった美術展にいくつか、行ってきました。
世の中がカズオ・イシグロに沸く中、タイトルでのっけから、大江健三郎・ノーベル賞受賞記念講演をパクってみたわけですが、内容とは関係のあるようなないような、ほとんどないような、あいまいな感じであることをお断りしておきます。
サンシャワー(国立新美術館)
最初にご紹介したいのが「サンシャワー」展。
東南アジアの現代アートを紹介する大規模グループ展で、国立新美術館と森美術館の2館同時開催。今年はASEAN設立50周年、ということで、近くて遠い、知っているようでよく知らない東南アジアの国々のアートに触れることができます。
私は時間の都合上、国立新美術館の方だけ観ましたが、それだけでも圧倒的な数、量、エネルギー。体験型の展示も多く、非常に楽しめました。
日本の現代作家と比べると、思想的なメッセージをストレートに表現したものが多いと感じられ、しかもそれが身体感覚に根ざしていて、コンセプトのみが先行した感じがないのも新鮮でした。こちらの展覧会は各所で大評判、既に多くのレビューや写真がインターネット上にありますので、作品情報はさらりと一点のみ。
こちらは、作者が反政府活動の容疑で投獄され、獄中で作られたもの(の復元品)。紙や絵筆などは持ち込めないので石鹸を密かに彫ったそうです(他に、囚人服に注射針などで描かれた絵もありました)。独房という狭い箱に閉じ込められた人間をかたどっています。過酷な状況で作られたにも関わらず、どこか可愛らしくユーモラス、「独房石鹸、良い石鹸♪」などと軽口を叩きたくなる雰囲気が素晴らしい。
ちなみに「サンシャワー」とは東南アジアでよく見られる「お天気雨」のこと。東南アジアの気候を表し、また抱えてきた矛盾や困難、多様性、など様々なイメージにつながる展示タイトルだと思いました。
会期は明日、2017年10月23日まで。観たいひとは急ぐべし!
「Mind and Body in the mirror」 Triq pinA(デザインフェスタギャラリー)
次にご紹介するのが、原宿デザインフェスタギャラリーで開催された、「Triq pinA (トリックピナ)」さんの個展「Mind and Body in the mirror」です。
まずは画像を。こんな「仮面」を中心とした立体作品の展示です。
Triq pinA『Mind and Body in the mirror』
2017.10.15-21
[WEST 1-A]主観と客観をテーマに人の心の葛藤や成長を表現。自らと向き合う為の仮面とTriq pinAの世界。https://t.co/HaLdbnmVXY pic.twitter.com/z7pagZBDDY
— Design Festa Gallery (@DFGHarajuku) October 15, 2017
松ぼっくりの森に囲まれた池の水面に映る自分の顔を覗き込んだら、新しい自分が見つかるかも。
雨が降る毎に冬が近づいていますが、Triq pinAの森の池のほとりはあたたかいですよ。是非お立寄り下さい。#DFGHarajuku pic.twitter.com/rcUytOGcwg
— あい (@triqpina) October 19, 2017
こちらの作家さんとは、SNS上で、お互い作品が好きになってフォローしあうという幸福な出会いをして、念願かなって初めて作品の実物を鑑賞し、ご本人にお会いすることもできました。
「主観と客観」をテーマに仮面を制作されているTriq pinAさん、今回の個展にはいわゆる仮面らしい仮面だけでなく、松ぼっくりや羽、そして鏡を用いた立体・半立体作品、「仮面の形をしていない仮面」も展示されていました。「仮面の形をした仮面」に心惹かれていた私ですが、こちらの作品たちも負けず劣らず素晴らしかったです。
写真で観ていた時、仮面、羽、鏡、など、使うモチーフにも、色使いなどのセンスにも「和」の要素は特にないのに、どこか西欧の人に見せたら「エキゾチック!」と言いそうな(イメージです)日本的、東洋的な感じがあるのが不思議だと思っていました。
でもお話を伺いながら作品の実物を観て納得。ベタな類型ではありますが、万事明晰をよしとし、内と外、主観と客観、私と公を明確に分けるのが西洋文化だとすると、日本はもっとあいまいです。Triq pinA さんの作品は、西洋的な明晰さを模倣するツールとして「仮面」を選んだわけではなく、あいまいな、モヤモヤしたものと対峙すること自体を表現するために「仮面」を必要としたように思います(推測ですが)。いわば成り立ちからして砂上の石造建築のような危うさこそが最大の魅力と感じました。また、自分の内面に切り込む主題を扱っていながら、作品には人の心に寄り添い、対話するような優しさがあり、その揺れ動く繊細さもまた日本的、東洋的な神秘を感じさせるのだと思いました。
残念ながらこちらの個展は2017年10月21日にて終了しましたが、11月11日・12日東京ビッグサイトで開催の「デザインフェスタ vol.46」に出展される予定だそうです(ブースNo.B-181)。
「TERRENE」アルベルト・ヨナタン(ポーラミュージアムアネックス)
さてもうひとつ、銀座のポーラミュージアムアネックスで開催中のアルベルト・ヨナタン展「TERRENE」へも行ってきました。
アルベルト・ヨナタンさんはインドネシア生まれ、現在は日本在住で、先述の「サンシャワー」にも出展、注目の若手アーティストだということです。「サンシャワー」展にも参加、(私は観に行けなかった方の)森美術館に出展しています。
Triq pinAさんと同じ日に観て、立体作品があったせいもあるのでしょうが、自己と外部、という切り口でつい観てしまい、どこか似ているけれどまた全然違った瞑想的な作風に魅了されました。
個性が削ぎ落とされるほど自己を突き詰めて、かえって外の何かにつながるようなイメージの作品です。
こちらの百万塔陀羅尼のような作品ですが、作家が床に砂を少しずつ円形に敷き、その上に小塔をひとつひとつ置いて行くという、砂曼陀羅を描くがごとき制作風景の動画も、会場で見ることができます。立体の他、ドローイングなど10点。
こちらの展示は2017年11月5日まで開催しています。
雨ばかりですが芸術の秋ならば室内で味わうことができます。
台風・暴風雨でそれもままならないという場合は、こちらの記事や「BFUギャラリー」でぜひお楽しみください。
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