ホテルのサービスもエコ
近頃、ホテルのサービスでも環境に配慮して無駄を省こうという動きがある。洗面台にきれいに包装された小さな固形石鹸を毎回用意するのをやめ、大きなポンプボトルにつめたボディソープや洗顔料を置く、アメニティは必要なもののみフロントでもらう、などのところが増えているらしい。
アメニティを旅の記念にもらってくるのが楽しみだという人には不評らしいが、もらってきた記念の品が使うわけでもなくどっさりたまって場所だけを取っている、または結局大量にためた後捨てるという状況の人をわりと身近に見てきたせいか、私はよほど気に入ったのでもない限りもらわない派だ。無駄を省く動きも概ね歓迎している。
それはさておき、昨年泊まったホテルもそうしたシステムを一部取り入れており、シャンプーやボディソープは据付ボトルタイプで、歯ブラシなど基本的なものは備え付けてあるが、追加で欲しいものを一人何点か選び、フロントでもらえるというサービスがあった。
化粧品やらサプリメントやら多種多様なものから選べるようになっており、私は目を温める使い捨てのアイマスクをもらった。
このアイマスクがなかなか面白いものだったのだ。
ページトップに載せた絵でほとんど説明し尽くされているのだが、目を温めて目の疲れを取るためのグッズである。
目の疲れ回復にも面白さ
目が疲れた時、蒸しタオルなどで温めると気持ちの良いものだが、今はこの蒸しタオルと同じ用途の製品が多数販売されている。
私もこんなものを普段愛用している。
あずきが入ったアイピローで、電子レンジで40秒加熱すれば5分ほど目を暖められ、繰り返し使えるし程よい重みとあずきの香りが良い。
電子レンジがなくても個包装を開けると即暖まる使い捨てタイプも人気があるらしい。
ホテルでもらったのはこの使い捨てタイプの一種だったのだが、驚くことに、メガネのように目の部分が開いていて、「パソコン作業などをしながら目を温められる」と謳った製品だったのだ。
何それ面白すぎる、とツボに入ってしまった。
目の疲れを取りたいならその時くらいパソコンやめたらどうなんだろう。
色々なものが連想される。
大怪我して出血してるのに救急車呼ばずに慌てて鉄サプリ飲むみたいだ、とか。
または、貯金するために街金で借金する、とか。
いやもっといい例えがあっただろう。あったはずだ。
しばらく考えてやっと浮かんだ。「焼け石に水」ということわざだ。昔の人はいいことを言ったものである。まるでこの製品の出現を予見したかのようではないか。
寝る前にもちろんその面白いアイマスクを使ってみた。
鏡で見ると、思いの外仮面舞踏会感がすごかった。同宿の友人にも「すごく似合う」と大好評だった(ただしこの言葉は爆笑しながら発せられたものだと一応付け加えておこう)
あえてスマホ見てやろうかとも思ったが、疲れていたので結局目は閉じていた。感想としては、「目の部分が開いているぶんあまり温まらないのでは?」というものだった。まあ予想通りだ。目の疲れを取りたいならやはり、普通の(使用中は目を使えないタイプの)アイマスク・アイピローの方が効果が高いかと思う。
焼け石に水をかけるとき、人が必要とするものは
しかし思うに、「焼け石に水」とは言っても、「焼け石を放置」よりは良いことだってある。水の量にもよるが、焼け石の温度を一瞬下げることくらいできるだろう。目が疲れているのに一瞬たりとも休めないとき、何もしないよりはPC作業をしながらでも目を温めたほうが疲れがほんの少しくらいは取れるかもしれない。
だがこの製品、その後お店で売っているのを見ないので、多くの人が「焼け石に水かけてもなあ」という意見だったのだろうか。(納得の結論ではある)
とはいえあの節操のない面白さが忘れがたく、もう一度見てみたくて検索して探したのだが、全く同じものは見つからなかった。
だが、類似製品ならば見つかった。そこでもう一度驚いた。
私がホテルでもらったものも大概「仮面舞踏会」感みなぎっていたが、検索して見つかったものはさらに「仮装」「変装」「おもしろ」の度合いがすごい。
だってこんなだ。ふざけている。
焼け石に水を打つとき、人は「笑い」や「おもしろ」を必要とせずにはいられないのかとしみじみしてしまった。
ちなみに私は近頃目の調子が悪く、ひどくなるとPC画面はもちろん、明るい場所にいるだけで目が痛み頭痛がして何もできない。目が疲れている人は、休まず作業したり面白いマスクにばかり頼ったりせず、たまには休んで悪化させないようにくれぐれも気をつけてほしい。
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