光るあしあと 第2話

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夜になって、おじいちゃんとぼくは、薬を飲んで外へ出ました。
ぼくは砂浜のときを思い出して、あしあとをたどってみようと思っていたのですが、そのあては外れました。
薬がきかなかったのではありません。ただ、あしあとは一本だけではなく、うちの前は数えきれないほどのあしあとで一面かがやいていたのです。
「わあ、こんなに!」
「まいにち通ってるからな」
おじいちゃんは満足そうに笑いました。
商店街の方へ歩いていくと、あしあとはだんだん少なくなって、やっと一つ一つの形がはっきりしてきました。
暗い道にひかれた細い線のように、いくすじも光っています。
ぼくのあしあとは黄色で、おじいちゃんのは青色でした。おもちゃ屋の前には黄色いあしあとが、酒屋の前には青いあしあとが何本もついていました。
ぼくにもおじいちゃんのあしあとが見えたし、おじいちゃんにもぼくのあしあとが見えました。おじいちゃんは「自分のあしあとが見える薬」を作ったつもりだったので、これにはちょっとおどろいたようでした。
「これはこれは、ひょっとしたら……うーむ。もっとすごい薬を作れるかもしれんぞ」

それからの何日か、おじいちゃんはほとんど実験室にこもりきりでした。
そして、おじいちゃんはついに新しい薬を完成させたのです。
新しいもっとすごい薬――それは、自分のあしあとだけじゃなく、他の人のあしあともぜんぶ見えるようになる薬でした。
「となりのおばさんのも見えるの?」
「となりのおばさんのでも、おむかいのケンちゃんのでも、郵便屋さんのでも、みんな見えるさ」
ぼくは晩ごはんを食べながら、いろいろと想像しました。
(みんなのあしあとが見えるってどんなだろう?)
でも、薬を飲んで、すっかり暗くなった外に出たとき――。
今でも、わすれません。
そのすごかったこと。
どんな想像もはるかに超えていました。
世界中は光でいっぱいだったのです。
たくさんの人の、数えきれないほどのあしあとが、それぞれの色でかがやいていました。青や黄色、ルビーのような赤に、ゼリーのようなオレンジ色。
道のどこにも、あしあとのついてない場所なんてないのでした。
頭がぼうっとして、目がまわりそうになりました。
「おじいちゃん、空にも……」
見上げれば、そこにも無数の光の線が走っていたのです。
「ああ、鳥の飛んだあとだ……」
おじいちゃんまで、少しぼうっとしているようでした。
見えるのは人間のあしあとだけではなかったのです。へいや屋根の上に光っているのはネコのあしあとだったでしょう。大きなけやきの木は鳥たちのいっぱいのあしあとで、クリスマスツリーのようでした。

――――◆第3話へつづく

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