将棋ストーリー「王の腹から銀を打て」第10回

「え、なんでぇー? 四年生でしょ。一人で行けるよ」
「ついてってあげなさい。トオルは一人で行ったことないんだから」
「ママの過保護」
にくまれ口をたたきながらも、アサ子はさっさと出かける用意をする。今日はこども将棋大会の日なのだ。
マンションの玄関を出ると、みごとな五月晴れだった。

福祉会館はアサ子の家から自転車で二十分ほど。去年できたばかりのなかなかりっぱなビルだ。書道展や市民講座などさまざまなもよおしごとが行なわれる。レストランや音楽会用のホールもある。「こども将棋大会」の会場は六階だった。
トモアキとジュンとカズオがもう来ていた。
カズオとは初対面だから、あいさつする。
(けっこういい感じじゃない?)
学校の男子はどうもガキっぽくて、とアサ子はつねづね思っているが、私立に通っているというカズオはちょっとふんいきが違った。おちついている。文学や美術の話ができそうなタイプだ。

アサ子は会場をぶらりとまわってみた。五面ずつ将棋盤がおかれた細長いつくえが、部屋の中央にならんでいる。
トーナメント表を見ると、参加は八チーム。そのうち、青葉小+1をふくめ四チームには小学校の名前がついている。ほかに「と金倶楽部」「王将ジュニア」と将棋らしいチーム名があり、なぜか「キングス」なんて少年野球チームみたいな名前もある。

一まわりして入り口のそばにもどってきて、アサ子は、おや?と思った。なんだかトモアキたちの様子がおかしい。
「どうかしたの?」
トモアキが説明した。すごく単純な話だった。五人目の選手の吉田ヒロキが来ないのだ。まさかと思って待っていたが、試合開始の十時がせまってもやっぱり来ない。
「あのヤロ、当日になって来ないとは許せん。ぶっとばす!」
ジュンは興奮している。
「まいったな、どうすりゃいいんだよ」
「今からチャリンコ飛ばして、ひきずってくるか?」
「まにあわないって。とにかくおれ電話してみる」
トモアキはろうかに飛び出していった。

――――続く

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