ベッドのはしにすわって、カズオは続ける。
「兄さんは詰め将棋の問題出してくれたり、本で定跡教えてくれたりするでしょ。同好会の人は指すだけなんだ。それにやっぱり大人どうしで指す方が楽しそうだし」
シュウイチはやっと盤から顔を上げた。
「そりゃあそうだよ。おれだって子供に教えるより、強い相手と真剣勝負する方がおもしろい」
「そこをなんとか。団体戦おもしろいぞってすすめたの兄さんだよ。それでこういうことになったんだ」
「そりゃそうだが、毎日曜つきあえなんて、おれもそんなひまじゃないんだぞ」
「どうせデートする彼女がいるわけでもないんでしょ」
「おいおい、それが人にものをたのむ態度か?」
シュウイチは笑った。少しあきれたのだ。しかし、カズオがしつこくたのみごとをするなんて珍しいことだった。
「わかったよ。しょうがない。考えてやろう」
シュウイチはトモアキたちに将棋を教えてくれることになった。
将棋同好会のない、第一第三日曜日、それから月によっては第五日曜日も、場所はカズオのうちでだ。
「でも日曜日おれ野球だからさぁ」
少年野球チームに入っているジュンだけは不満そうだが、平日はシュウイチが大学に通っているのだからしかたない。
「ジュン、このさい、やめっちまえ、あんなヤバンなもの」
「むちゃ言うな。なにがヤバンなんだ」
「駅行くとちゅうグラウンドの横通るとがんがん聞こえるぜ。監督だかコーチだか知らないけど。ライト、バック! ちがう、そっちじゃないっ。コラ、どこメンタマつけてんだっ、ドアホ、バカ、死ねっ――って、こうだろ」
「そこまでひどくねえって」
あまりの言われようにジュンは思わずふきだした。
「しょうがねえな。第五日曜と雨の日は練習ないから、将棋やるよ」
「毎週雨ふるといいな」
トモアキはジュンの肩をたたいた。
――――続く
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