『おさるはおさる』(いとうひろし・作・絵 講談社)
楽しく、気持ちよく、ゆったりと何かを伝えてくれる「おさる」シリーズ。1991年のスタートだから、もう30年近いロングセラーです。これからも子どもたちに長く読みつがれる作品であることは間違いないでしょう。
シリーズは全て、南の島に仲間たちと住んでいるさるの子のおはなしで、「ぼくは、おさるです」という自己紹介で始まります。食べて遊んで寝る、くり返しの日常と、その中で起こるちょっとした事件が、主人公の一人称で語られます。
主人公に名前がないことと、他のおさるたちと区別のない描かれ方をしていることは、シリーズを通しての特徴ですが、その意味がもっともクローズアップされているという理由で『おさるはおさる』を選んでみました。
ある日のこと、主人公の耳をカニがはさみます。痛くはないのですが、強情なカニで、いつまで経っても離れません。耳にカニをぶら下げっぱなしのおさるなんて、もちろん自分だけ。主人公は悩みます。
自分だけ周りと違うのは大人にとっても気になることですが、子どもにとってはなおさらです。浜辺に一人ぽつんと立つ主人公の心情は、読者に深く共有されるでしょう。
主人公のもとへ、おじいちゃんがやってきます。おじいちゃんは耳からカニを取る方法を教えてくれたりはしません。そういうのは「いとうひろし的解決」ではないのです。おじいちゃんは、子どものころの話をしてくれます。強情なタコがしっぽに吸いついて離れなくなったときの話を。
さあ、あとはおわかりでしょうか?
子どものころのおじいちゃんがタコに困り果てていたら、おじいちゃんのおじいちゃんがやってきて、昔の話をしてくれるのです。強情なヘビが頭に巻きついて離れなくなったときの話を。
うーん、さすがですねぇ。これ以上言うことはありません。筋を述べてきましたが、実は端折った部分にも美味しいところがいっぱいあるのです。
「おさる」シリーズは、『おさるのまいにち』『おさるになるひ』など、現在10冊出ています。どれも面白いので、ぜひ一度、手にとってみてください。
(by 風木一人)
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