『めんぼうズ』 かねこまき作 アリス館
誰も見たことのない絵本を作りたい。そう願う絵本作家は多いでしょう。しかしほとんどの場合、どこかで見たような絵本になってしまいます。絵本の世界にはたくさんの優れた作家がいて、日々その渾身の作品を発表しているからです。誰にも思いつかない、自分にしか思いつかないことなんてそんなにはないのです。
それでもたまに「なんじゃこりゃあ!」という絵本に出会います。似たようなものを見たことがない、どこから生まれてきたかわからない、正真正銘唯一無二の絵本が闇に浮かぶ人魂のようにぽっと現れることがあるのです。
かねこまきさんの新作『めんぼうズ』がまさにそう。
まだ読んでいない人にこれをどう紹介すればいいのか頭を抱えてしまいます。
「夜、めんぼうが動きます」――これくらいしか言えません(笑)。
めんぼうが動いてどうなるのか書くことはできます。でもそれでは魅力がまったく伝わらないのです。
ふしぎなことが起こるお話には2タイプあり、読み終わると謎が解けるものと読み終わっても謎が解けないものです。『めんぼうズ』は後の方に属します。何が起きたかはわかるけれど、なぜ起きたかはまったくわからない。どんな意味があるのかもわからない。でも面白い、引き込まれる。いわゆるシュールな絵本です。
ぼくは何度もくりかえし読んで、そのたび「すごいものを見た」「ふしぎなものを見た」と感じました。読むというより目撃するという感覚です。
おそらくかねこまきさんもあれこれ考えて作ったというよりは「見てしまった」のではないでしょうか。そしてそれに魅力を感じたから「他の人にも見せよう」とこの絵本を作ったのではないでしょうか。
「わかる」と「面白い」の関係は一筋縄ではいきません。わかって面白いものもあれば、わからないのに面白いものも、わからないから面白いものもあります。
世の主流は「わかって面白いもの」でしょうけれど、『めんぼうズ』のように「わからないのに面白いもの」もとても大切です。
なぜなら「わからない」をすぐ嫌ったり怖がったりするのは多様性の否定だからです。
自分が共感できないものや理解できないものは怖いとする感覚からは排除が生まれます。本来「わからない」は価値的にはニュートラルであるはずで、怖いかもしれないけれど素晴らしいかもしれないのです。
「わからない」をすぐに排除しようとせず、まずはまっすぐ見る。多様性が大事だと本当に思うなら、それは絶対欠かせない態度でしょう。
わからないものを正面からすごい熱量で描いたことが『めんぼうズ』を見たことのない絵本にし、シュールな絵本の傑作にしました。同時にその「わからないもの」への愛は、『めんぼうズ』をきわめて今日的な作品にもしています。
(by 風木一人)
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