電車 居眠り 夢うつつ 第53回「電網恢恢疎にして漏らさず」

先週、夏休みを取った。いや、タイプミスではない。夏休み。正式には「夏季休暇」。今年はコロナの影響で、夏季休暇を11月までに取れば良いということになったのだが、そのうちにと言っているうちに、本当に11月になってしまった。しかも行った先が長野の山里だったので、ほぼ真冬の服装で夏休みを過ごすという、珍しい体験をしてしまった。

りんご畑に囲まれた、小さな集落にある一軒の農家の蔵を改装したロッジに泊まったのだが、そこにはテレビはなかった。内装は新しく、設備も近代的だ。窓は二重だし、暖房は温水コンベクター。キッチンはペニンシュラ型。電気炊飯器も電子レンジもある。トイレはウォッシュレットだ。しかし、テレビはない。
これはきっと、都会の人がせっかく田舎に泊まりにくるのだから、テレビなど無い方がよかろうというオーナーの計らいだろう。もっともな考えだ。
ついでにインターネットも使わなければ、世俗から離れて、ゆっくり命の洗濯ができるというものだ。ここはひとつ、3日間メールもfacebookもYahooニュースも見ないで過ごしてやろう、とひそかに心に誓った。

ま、結果を言ってしまえば、そんなことはできなかった。
山間部の夜は早い。そして長い。夕食を済ませたら、その後何をして過ごせば良いのか。もちろん食器洗いと風呂炊きだ。だが、夫婦2人分の食器の量などたかが知れている。風呂だって、あっという間に沸いてしまう。私は長湯をする方ではない。30分も風呂に入っていたら、のぼせてしまう。
こういう時こそ、本の出番である。読書の秋。本を読むには実に良い環境だ。持ってきた本を開く。だが、私は明らかに持ってくる本の選択を間違えていた。「ホモ・デウス」は、静かな山里の夜に読む本ではない。なんで漱石の「草枕」にしなかったのだろう。悔やまれるが、後の祭りである。
では、明日のドライブの下調べでも、となると早くもスマホの登場である。近くの観光地への道順、観光施設の情報などを調べる。そうしているうちに、「そういえば、大統領選はどうなってるかな」などという考えが浮かんでくる。「ちょっとくらいいいだろう」とYahooニュースを見る。(ブラウザーにニュースをつけることを考えた奴は誰だ?!)
バイデンも足踏みしているなあ、などと見ていると、いつの間にか他のニュースサイトにアクセスしている。いかんいかん、とブラウザーを閉じる。すると、メールの着信がいくつもあるのに気がついてしまう。「やっぱり、確認だけはしておいた方がいいよな」とメールを開ける。すると、「金曜日までにお返事ください」だの「休み中にすみませんが」だのというメールが並んでいる。これでは返事をしないわけにはいかないではないか。

というわけで、私の禁ネット生活は、半日ほどで完全終了したのである。禁ネットは、禁煙よりも難しい。「電網恢恢疎にして漏らさず」である。

追伸
今回旅行中に酒屋で見つけた清酒「松尾」は、あたりでした。さっぱりした、気取らない美味しさというのでしょうか。北信州に行く方は、試してみると良いと思います。

(by みやち)

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