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第2の現場に向かいつつ策を練った。ミシマがなにかを隠している。単なる直感でしかないのだが……その表情、その態度、ぼくは確信していた。
さて、どう引き出す?
「お前、なんか隠してるだろ?……吐いてしまえよ」
なんて調子で単刀直入、正面突破を狙う手もあった。しかし相手がサッパリした男性的な性格ならこの方法はうまく行くかもしれないが、ミシマは違った。むしろ真逆に近い。短いながらも昨日からずっと顔をつきあわせてきたのでミシマがどういうタイプの男なのか、ぼくなりに把握していた。見るからに体育会系。五分刈り。太い眉毛。しかしその外観からは想像もできないような繊細で臆病で内向的な性格が、目や表情や態度に見え隠れしていた。「丸い穴からオズオズと外を見ているリスみたいなヤツ」というイメージだった。
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我々3人はごついシャベルを持って歩いていた。
午前9時すぎ。今日も蒸し暑い真夏日になりそうだった。ダザイが胸にカメラをぶら下げていたが、それ以外の我々の仕事道具ときたら、木の柄がついた重いシャベルだけだった。「安全第一」ヘルメットも支給されていたが、夏の朝にそんなものをかぶっていられるわけがない。しかしかぶるのがイヤだからと言って、手に持つのもうっとしい。
行軍しながら工夫した。アゴに回すバンドを一番ゆるくして首にかけ、ヘルメットは背中に回した。ダザイもミシマもそれをチラッと見たが、特に反応らしい反応はなかった。反応する元気もなかったのだろう。しばらくしてミシマは同じようにヘルメットを背中に回した。ダザイはきっちりとかぶっていた。
先頭を行くダザイが時々地図を見るたびに小休止。そしてまた黙々と行軍。「まるで斥候部隊だな」と思った。「斥候」とは軍隊の本隊に先駆けて敵の状況をさぐるために、少人数で先に進む任務のことである。危険この上ない任務だ。なにか冗談を言いたい気分になったが、やめておいた。
林道を半時間ほど歩いて目的地についた。目的地についた途端にあきれた。
「ここ?……ホントにここか?」
ダザイはうなずき、ミシマは黙っていた。
L字カーブを曲がったところで、行き止まりだった。我々はその突き当たりを眺めた。なるほどかつてここには民家があったのだろう。助教授は「廃屋」と言っていたが、廃屋どころか痕跡といった感じだ。屋根はすでにない。かつては壁だったのだろうか。朽ち果てた数枚の板が斜めに立ち、幾重にもツタ系の葉で覆われている。周囲はびっしりと雑草が覆い茂り、どこから入って行ったらいいのかさえわからない。
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半ば唖然としてそのあたりを眺めていると、ダザイがシャベルで草をかきわけるようにして中に入っていった。さすがは地学部。
ダザイに続こうとしたぼくは、背後からワイシャツを引っ張られていることに気がついた。ふりむくとミシマがぼくのワイシャツをつかんでいる。女みたいなことをするヤツだな、と思いつつ表情を見て驚いた。顔面蒼白だった。
「やめよう」
「やめるって、なにを?」ぼくは笑った。「……やめるもなにも、まだなにもしてない」
彼は数歩下がった。コイツ、本当に逃げ出しかねない。ぼくは追いすがるようにして近づき、左肩のあたりをつかんだ。
「いったい……」
目が泳いでいた。かなり激しい動揺だ。なにが起こったのかさっぱりわからなかったが、とにかく落ち着かせなくてはならない。
「まあ、座れよ」
我々はその場に座った。ぼくは自分のリュックから登山用の水筒を出した。金属カップに茶を入れて彼に飲ませた。いくぶん落ち着いたとみえ、ボソボソと語り始めた。
驚くべき内容だった。昨日、初めてこの現場に来た時から妙なものが見えていたというのだ。数人の子供がこのあたりにいるらしい。
「……子供?」
さすがにゾッとした。
「それは子供の霊とか、そういうものか?」
彼はうなづいた。悲しくつらい思いを残しながら死んで行った子供たちの霊が、5人ほどこのあたりにいるらしい。
「……でもそれは昨日の現場の話だろ?」
彼は首を振った。
「みんなここにいる」
・・・・・・・・・・・・・・・・…( つづく )
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