【 生物学魔談 】魔のウィルス(2)

【 COVID19 】

16・17・41・47。世界中がこの数字の動向に注視している。すでに御存知のとおり、東京におけるこの4日間(3月23日〜26日)の感染者数である。いずれも「これまでで最多」と報道されてきた数字だ。なんとも不気味な増加をしている。ジリッと増え、ダーンと一気に倍以上になった。

今夜、この次に来る数字がどう報道されるのか、もはや誰にも予想できない。その数字が40や50であれば、専門家は「引き続きオーバーシュート警戒体勢」と発表するのだろう。しかし倍増どころか10倍、100倍に跳ね上がる可能性だってあるのだ。
現にニューヨークでは毎日2000人から4000人が感染し、ロックダウンとなった。小池都知事もすでに「なにもしなければロックダウン」とその可能性を示した。もちろんそのとおりなのだろうが、東京は「万全を尽くしてロックダウン」が迫っているのかもしれない。

まことにコビッド19(COVID19)の猛威恐るべし。
「なにそれ?」と思われただろうか。WHOが新型コロナウィルスに名付けた名前である。しかしトランプ大統領はそれを無視。さかんに(これみよがしに/ザマアミロと言わんばかりに)「中国ウイルス」と連呼している。WHOは当然「一国の大統領ともあろうお方が」と断固とした態度で忠告するべきだが、いまのWHOはそれどころではない。ただ忙しいだけでなく、コビッド19対応の不手際を非難されている。

前回の「魔のウィルス」冒頭で取り上げたWHOの「パンデミック」警告は、この1週間の間に、警告どころか同じ事務局長の口から「パンデミック加速」という表現に至った。その事務局長は「ウイルスの危険性を過小評価した。その結果、武漢発生の新型ウイルスは世界に拡散した」と非難され、辞任を求める署名が50万人を突破したと報じられている。WHOのリーダーシップが揺らぎ、合衆国大統領が勝手な命名をし、パンデミック、オーバーシュートといった初耳のカタカナがどんどん増えている。

最も悲惨な事態となってしまったのが御存知のようにイタリアで、なんと死者(感染者ではなく死者!)は7500人(3月26日付WHO)。本家の中国を越えてしまった。なぜ中国から遠く離れたイタリアがそれほど悲惨な目にあうのか。これは今回の主旨ではないので次回以降に取りあげるとして、イタリア周辺のヨーロッパ諸国はまさに震撼のただ中にある。これまで(今回を含めて)「魔談」は207回にわたりじつに様々な「魔」を語りつつ「最強の魔」を探ってきたが、それは悪魔ではなくウィルスだった、と言いたくなるような猛威だ。

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【 生物か無生物か 】

さて本題。
世間の関心はパンデミック、クラスター、オーバーシュート、ロックダウンといった新型コロナウィルスならではの派手な「コビッド19進撃用語」に踊らされているが、そうした感染拡大談はちょっと置いといて、「そもそもウィルスとはなにか?」という地味なところにスポットを当ててみたい。……というのも、興味深いことにこの件につきあれこれと調べてみると、科学者や医学者によって意見が全くまちまちであり、「結果、よくわからんらしい」という結論とも言えない結論が見えてくる。
「ある種の発達した生物的毒素」
「ある種の原始的な生物ともいえないような生物」
「ある種の生物的化合物」
このような(冗談一歩手前のような)奇妙な不可解な表現が次々に出て来る。さほどに奇妙で不可解な存在なのだろう。生物・無生物のボーダーにいるじつに悩ましいヤツなのだろう。ついには「ウィルスが生物か無生物かを論じるのは、哲学問答と変わらない」という一文を見つけて爆笑してしまったほどだ。科学の基本は分析であろうと思ってきたが、その分析も延々と続き謎がますます混迷すると、ついには哲学の領域に突入してしまうのであろうか。

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さて生物。
「生物には〈食べる〉という働きがなければ、生物とはいえない」と定義している学者が多い。細菌(バクテリア)は栄養があれば、それを自分の細胞にとりこむ。つまり「食べた」のだ。そこからエネルギーを得て自分の細胞を大きくする。こうしてエネルギーを使い、元気になった細胞は活発に活動をはじめ、大きくなり、やがて分裂する。つまり(細胞レベルで)「子供をつくった」のだ。この2つの行動、つまり「食べる/子供をつくる」のが生物の基本であり、細菌だってそれをちゃんと実行している。なので「細菌は生物」ということになる。

ではウイルスはそうではないのか。
ウイルスが求めるのは栄養ではない。ウイルスはただひたすらに(自分の侵入に合致した)宿主を探し求める。こういうのを「絶対的な寄生体」というらしい。じつに気持ち悪い言葉だ。つまり宿主となる細胞がないとなにもできない。なので必死に宿主を探す。
首尾よく宿主の細胞の中に入ると、「やれやれ侵入達成」という感じで、その細胞から酵素を盗んでエネルギーを獲得し、その細胞の酵素を使って自らを増殖する。
これを例えるならば「素手で他人の製造工場に侵入。その工場の材料や設備を使って勝手に自分を複製」と、こういうことになろうか。知れば知るほどむかつくというか、いやらしいヤツだ。まさに「細胞に侵入する寄生虫細胞」とでもいうか、そんなイメージだ。

しかしこうした陰険な企みも「自分の条件にあった宿主」でないとだめで、そのために「ノロウィルスは人間にしか感染しない」という現象となる。最初から人間をターゲットにしているとは、「いい度胸してんな、おまえ」と言いたくなるようなウィルスだ。そこまで「ずるがしこい」というか「巧妙」というか、そういうヤツが生物じゃない?……「そんなバカな」という感想しか出てこない実話が、現実に進行中の「魔」なのだ。

したがって「ウィルスに感染する」というのは、このように陰湿で巧妙で、しかも生物なのか無生物なのかよくわからんヤツ、そういう奇怪千万なヤツを、こともあろうに自分の体内に侵入させてしまった、ということなんである。我々はもっともっとコイツに嫌悪感と憎悪を抱き、(問答無用で宇宙人をブッ殺しにゆく)軍人モーガン・フリーマンのように立ち向かうべきかもしれない。「あらゆる生物には御仏が宿り……」などと言ってる場合ではない。なにしろこの侵入者は生物ではないのだ。
「生物か無生物かわからん不可解なヤツが人類を震撼させている」などと言うと「あんた、SF小説の読みすぎね」と笑う人がいるかもしれない。しかしそれが現実に進行中なのだ。

……………………………………    【 つづく 】

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