【 魔のウィルス 】21

【 土葬か火葬か 】

前回のつづきでカタコンブを語るにあたり、「土葬か火葬か」の話に少し触れておきたい。
現在の日本では、土葬はもはや珍しい。しかしこの国の歴史では「土葬か火葬か」という風習の違いは、時代により地域により、じつにバラバラだった。近代国家となるべく江戸時代から明治時代へと時代は大きく変化しても、「土葬か火葬か」の選択は地域風習にまかせるといったあいまいな状況がしばらく続いていた。

今の日本から見れば「意外」としか言いようがない話だが、明治政府は1873年(明治6年)に火葬禁止令を出した。これはその当時、政府を牛耳っていた神道派が火葬に反対したからだ。いまでも青山霊園・雑司ヶ谷霊園・谷中霊園にはかなり多くの土葬墓が残っている。しかし当然ながらこの禁止令は「都市部で土葬スペースをどう確保していくのか」という問題と直面した。多くの反対論が一気に沸き起こった。2年後の1875年(明治8年)、政府はこの禁止令を解除するという失政に追い込まれている。

「イタリアでは火葬はしないのか?」
「こっちのキリスト教国では、普通はみな土葬に決まってる」
「もしかして、火葬には火あぶりのイメージがあるからか?」
「それもあるかもしれん」

ノストラダムスもまた宗教裁判や異端審問会に怯えつつ生きて行かねばならなかった。当時は「魔女や異端者の烙印を押されてしまったら火あぶり」の時代だ。医者でありカトリック教徒だったノストラダムスは、そのような社会をどのように見ていたのだろう。16年というあまりにも長い放浪(魔のウィルス16)が、彼の苦悩を示しているように思われる。

「君も敬虔なカトリック教徒だよな」
「なんでそんな言い方をする。嫌味なヤツだな」
「将来は土葬か」
「まさか。火葬だよ」
「それでいいのか。最後の審判のときに灰になってちゃ困るだろ?」
「まあそうだ。最後の審判のときに、すべての死者は墓からよみがえる。キリストの前で審判を受ける。その審判で天国に行く者と、地獄に堕ちる者に分かれる」
「ものすごい人数じゃないか。キリストひとりで大丈夫か。何十年もかかるかもしれないし、キリストだって途中で嫌になるかもしれんだろ?」
「余計な心配をするヤツだな。そんなことは知らん」
「いまもみな土葬なのか?」
「いや……もう土葬スペースがない。考え方も変わってきてる。葬式自体も火葬の方がお金がかからない。火葬希望がどんどん増えてる。ところが新型コロナウィルスで火葬場が追いつかない。ローマ北部の市営墓地に火葬場があるんだけど、火葬の順番まちが1ヶ月。それを待ってる棺が200以上とか報道されてる」
「やれやれだな。埋めるに場所がない。焼くのも順番まちか」
「現状としてはそうだな。しかしこっちの人たちは、長い歴史で土葬に慣れてる。土葬というのは、なんていうのかな。死者がまだ墓地にいるというか、そんな感じ」
「ああその感覚は、なんとなくわかるね。インドに行ってヒンズー教徒としばらく暮らしてたカメラマンの友人がいる。死者が出ると火葬にする。残った骨と灰は全部ガンジス川に流す。それですっかり浄化される。だからヒンズー教徒には墓さえない。これは一番さっぱりしていて後腐れがない。そう言ってたね」
「そうだよな。その真逆が土葬だな。死者に対する未練というのかねぇ。いつまでもそういうのが残る」

………………………………

「……で、シチリア島の、パレルモだっけ?……行ったことあるのか?」
「もちろん」
「ふーん。一見の価値ありか?」
「さあ、それはどうだろうねぇ。観光地を勧めるような気分にはなれない」
「だろうね」
「パリのカタコンベはとにかくもう、すごい数のドクロとか骨とかをぎっしりと隙間なく壁に並べて、ちょっとブラックな観光名所、てな感じにしちゃってる。こっちはそうじゃなくて……骨じゃなくてミイラなんだよね。服も着てる。そういうのが8000体ほどある」
「すごいな。じつに不気味だな。つまり骸骨よりも生前の面影があると?」
「そのとおり。まさに未練」

その入口にはこう記されているという。
「今のあなたは、かつての私たちの姿。私たちの今の姿は、未来のあなた」

「なるほどねぇ。希望すれば、ミイラになってそこに入れてもらえるのか?」
「まさか。それは無理だろう」

ここに「世界一美しいミイラ」がいるという。その名はロザリア・ロンバルト。2歳で亡くなったが、両親のたっての願いで防腐処理をほどこされたミイラとなった。そのため70年程たったいまも肌にはツヤが残り、眠っているようにしか見えないという。

「デヴィッド・リンチ(映画監督/アメリカ)がね、この少女のミイラを見て霊感を得たとかいう話がある」
「リンチが?……それはすごい」
「その霊感が映画〈ツイン・ピークス〉になったらしい」
「あっ!……そう言えば、あの、まぶたを閉じて真っ白な顔面の!」
「そうそう」
「うーむ。デヴィッド・リンチ。カルトの帝王。久々で観たくなったな。しかしあの話はイライラするほど謎だらけなんだよな」

……………………………………    【 つづく 】

…………………………………………………**

魔談が電子書籍に!……著者自身のチョイスによる4エピソードに加筆修正した完全版。amazonで独占販売中。
専用端末の他、パソコンやスマホでもお読みいただけます。